映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

AJ・シュナック 監督「アバウト・ア・サン」2798本目

昔シアトルで、この町に来たからにはニルヴァーナ買わなきゃと思って行ったCDショップで、店員の小僧に「Ah? Nirvana? That's classic!」って笑われて違うCDを勧められたのが忘れられません。確か両方とも買ったけど、英語ではレジェンドとか言わないでクラシックって言うんだ!グランジなのに!と思った程度の英語力でした。

アバディーンってスコットランドにもあるけど彼が育ったのはワシントン州、米国の一番「左上」。シアトルは上品な都会だけど、それ以外の町のことはほとんど知らなかった。地元生まれの事務系の女の子とかと話すと、少しだけ雰囲気がわかるけど(会社になぜかトラックで来てるので訊いたら家で農業もやってる、とか)、中心部以外は田舎なんだよな。このドキュメンタリーではカート・コバーン自身がシアトルにコンプレックスがあったとか生い立ちを語っていて、意外だったけどなるほどという気もする。

亡くなる前年の最後のインタビューの終わりに子どもと親の関係を語っているんだけど、子どもの声や、奥さんのコートニーの呼ぶ声なんかも入ってて、タイトルの「サン」はカートのことじゃなくて自分の息子とのダブルミーニングか!とはっとしたけど、調べたら彼らの子どもは女の子だったので違いました。

ニルヴァーナは私があまり音楽を聴かなくなりつつあった時代のバンドで、カート・コバーンは若いスターだと思ってたけど、実は私と2つしか違わなくて、聞いてきた音楽も近い。彼がヘロインにはまったのは、胃の痛みだと思い込んでいた脊柱側弯症のせいだった、みたいな話があって、ペドロ・アルモドバル監督の背骨の話みたいだなと思った。私も今右手が上がらないし歩けなかったこともあるな。痛みがひどいと一瞬死ねたらって思ったりするのだ。

姿も声も美しくて、賢すぎて気難しい、非凡ゆえの苦しみを持ち続けた人。どんなに愛するものたちが側にいても、そこは誰とも共有しようがなかったんだろうな…。