映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

スティーヴン・スピルバーグ監督「激突!」2940本目

若くて才気走った監督のデビュー作。1つのシチュエーションだけで押し切る作品。先が見えない道路の上での出来事を、息もつかせないほどの緊張感で一気に見せる。という意味で、ジャンルも国も違うのに村田喜代子のデビュー前の作品「熱愛」を思い出してしまった。(あっちは自転車レースの話)「恐怖の報酬」を思い出す人も多いだろうけど、群像劇ではなく1:1なので緊張感の質が違うかな?

アメリカの(この頃の)ハイウェイって、何もない荒野の一本道で果てしなく続く上、対向車も少ないしカメラもない、自分は携帯持ってないしカーナビもドライブレコーダーもない、その心細さといったら。おまけに自分は妻とはケンカしてるし取引先に急がなきゃならないし、敵は危険物を積んだ巨大なタンクローリーだ。タランティーノの「デス・プルーフ」の方がばんばん人が死ぬけど、自分のことのように思える分、こっちのスリルとサスペンスのほうが怖い。

この作品を見た映画関係者、「すごい才能が出てきたな!」って思っただろうな。その後のスピルバーグは「すごさ」に含まれる「怖さ」より「楽しさ」「面白さ」 を追求しつつ、問題提起もしつづける大監督になっていくわけです…。

緩急のつけかたがすごいですよね。ドライブインでの静けさ、通学バスのエピソードの和やかさ、隠れてやりすごしたときの安心感…の後で、タンクローリーを再び見つけたときの「!」。そのドライバーは最初から最後まで顔を見せない。獰猛で巨大な生きるタンクローリー…。映画をたくさん見ていて、観客(見ていたときの自分)の気持ちがどう動くかをよくわかっている人じゃないと、デビュー作にしてこんな作品は作れないはず。

ドライブインで、話しかけようか迷っているときの男は少し離れたカメラ。路上に降り立って、とうとう直接対決をしようと決意した彼にはカメラがすぐそばに寄って、少し下から見上げる。それだけで彼の心が伝わってきます。

ある意味、監督の意図が手に取るようでわかりやすい。映画製作のお手本になりそうな作品。ここまでシンプルな作品で、最後まで緊張感を持たせるのはかなり工夫が必要。

そして最後の最後には、(低予算作品ながら)2台の大転落で見せ場を作り、満腹感のある結末となりました。

主役のデニス・ウィーバーは「警部マクロード」なのね(年がわかる)。この作品の撮影は「マクロード」と重なってるけど、ここでは別に正義感も普通、妻ともめるし立派でもなんでもない、どこにでもいる男になりきってます。

極悪ドライバーはクレジットにちゃんと名前が出てて、ドライブインでビールを飲んでた一見人が良さそうな兄さんでした。一人だけ背中に汗をかいてたし、人が良さそうなあたり怪しい、というヒントがちゃんとあった、のかな。

それにしても、この先、自動車を運転するときは、赤だとすぐ覚えられてしまうから、なるべく目立たない色のにしよう…。くわばらくわばら。

激突! (字幕版)

激突! (字幕版)

  • 発売日: 2015/06/29
  • メディア: Prime Video