映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

森達也監督「A」3066本目

U-NEXTに入ってたので見てみます。いつか見ようと思ってたやつ。1995~1996年の映像らしいんだけど、元気だったころの教祖や見覚えのある人たちの姿を見るのってちょっと怖い。選挙活動をしてたときのこととか思い出してしまうなぁ。

今ってヨガスタジオに行くと、一時期タブーみたいになってた「オウム」の真言を唱えてるんですよ。もともと昔のインドの「音」なのが、真理教の影響でその後しばらく口にできなくなってた。それが戻ってきてる。事件は2000年より前だから、若い人たちは実感をもってあの一連の事件を覚えてないのだ。(私なんかも、当時のことをよく覚えてるのに、インドの人がアメリカで始めた瞑想なんかやってみたりしている)(もちろん何の宗教とも関係ない)

森達也って面白いのが、取材対象に自分で判断を下さず、いろんな切り口を当ててみて何が出てくるか面白がって実験してるような感じがあるところだ。そういう意味で、恣意的な、結論ありきのドキュメンタリーをわりと憎んでるドキュメンタリー作家って感じがする。

信者たちは純粋というより「夢中になってる」っていう感じだな。よくそこまで(森監督と反対に)見たくないものに目をつぶって、 1つのことを信じ切れるな。このとき既に裁判中なのに。私みたいに、いつもふらふらと目移りして、仕事も違う職種、違う会社に何度も転職するような者からはとても遠い世界。

一般市民の懲罰感情と信者たちの反発心がぶつかって、小競り合いが起こる…。一度「いやだな」と思ったことが好感に変わる可能性はとても低い。反感はむしろ増大する。誰かが誰かを突き飛ばしたのをたまたま撮影していた森監督たちを見ていると、Black Lives Matter運動のきっかけになったジョージ・フロイドさんの事件を撮影していた人のことを連想する。感情じゃなくて映像があれば判断が早くて確実だ。森監督の、相手のふところに入り込むようなアプローチ自体は、ドキュメンタリー手法としてひとつの王道だと思う。

教団広報の荒木氏個人を追ったドキュメンタリーとして見れば、将来に向けた不安げな表情や、哀愁漂うエンディングの曲も、わからないではないかな…。

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