映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

ギレルモ・デル・トロ監督「クロノス」3135本目

クロノスという言葉は、車の商品名だったり、会社名などいろんなものに使われているけど、元々はギリシャ神話の農耕の神様の名前らしい。錬金術みたいに、本当に命をつかさどる時計の存在を信じる人が昔からいたんじゃなくて、監督の創作なのね。現在のような「時間」の観念は時計が発明されて初めて生まれたというし、その逆で所有すると時間をコントロールできるようになる時計が存在するっていう想像は、なかなか独創的で面白い。ただ、人間の精神にいつも重きを置いているこの監督が、機械を中心に置くのは意外…でも、その機械はやがて滅ぼされる運命なのだ。

英語とスペイン語が混ざった会話が続いて、聞き取ろうとすると頭が混乱するな。監督お気に入りのロン・パールマンがアメリカ人だからか…。この人何回も見たわ。

虫が媒介するというアイデアも面白い…でも、全体的にはストーリーが追いづらい。なぜ古物商が”クロノス”に刺された後、同じことを繰り返したり、血を求めたりするようになるのか…いつからどのように彼が内面的に変化したか、わかりづらくて。その辺が監督の若さを感じさせます。

クロノスによって得られる永遠の命ってのは、要はバンパイアなのか?機械でバンパイアになって日の光を恐れたり、血を欲したりするようになるって、これまた斬新。

監督のWikipediaに衝撃的なことが書いてあります:デビュー作『クロノス』は、コメットさん第75話『わんぱく受験生』が発想の根源である。

わん…ぱく…受験生…?

ネットで見つけた動画を、違法アップロードではないと信じて見てみました。魔法使いコメットさんが正体を隠してお手伝いさんとして入っている家のたけしくんが、公園で怪しい男(大泉晃)から何でも願いが叶いすぎて困るという魔法のピンポン玉をもらうと、頭で考えたことがどんどん実現してしまう。デコレーションケーキ、顕微鏡、明日のテストの答…。やがて持て余して捨てようとすると、すぐにポケットに戻ってきてしまう。そこでコメットさんが魔法でピンポン玉の中に入ってみると、時空に浮かんだオルゴール箱の中に巨大工場があって、大勢の人たちがご主人様の願いを実現するために必死に働いている。彼らの悲鳴を聞いて、コメットさんは魔法で彼らを自由にしてやると、ピンポン玉は爆発し、彼らは渦になって空へ消えて行った…。

ってお話。共通点は、まほうの道具の中身がすごい歯車を使った精密な機械でできていて、生物がそれを動かしてるってことかな。この部分はコメットさんでも子どもにトラウマを与えそうなインパクトでした。それ以外は全然共通点はないけど、監督の印象にも残って、膨らませずにいられなかったのかもしれません。

不死を得る古物商の名前を英語読みすると灰色のジーザス、機械を買いあさる男は守護天使。不思議な思い付きや、いたいけな少女、最後は愛が勝つとか、デル・トロ監督ならではの特徴がいくつもあるけど、これからだね!っていう感じも新鮮なデビュー作なのでした。