映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

篠原哲雄 監督「犬部!」3222本目

面白かったけど、時系列が行ったり来たりする一方で、出演者たちの見た目が同じままなので、画面テロップの「200x年」をよく見ていないと混乱する。ワンコの成長で時系列をチェックすればよかったと、あとで気づく。

原作がノンフィクションで、同時期に別の雑誌2つで漫画化されたとのこと。その後別ルートで映画化されたらしい。重いテーマを扱うこともあって、全体的にわかりやすく、なるべく明るく描かれてるのはいいと思うけど、もともと一貫したストーリーとか流れがあるわけじゃないので、個々のエピソードを無理に1つにまとめたような、雑多な感じはある。「ゾッキ」だってそうなんだけど、あっちは場が固定されていてそこで様々な人に起こる様々な事件をつないでいたので、違和感はなかった。こっちが忙しい感じがするのは、やっぱり時系列が私にはわかりにくかったからかなぁ。

テーマの重さについて。飼っている犬や猫が子どもを産むとどんどん数が増える。カレル・チャペックというチェコの作家が描いた「ダーシェンカ」というすごく可愛い犬の本に、生まれた子犬を当時のチェコでは海か川かに捨てに行くという文章があって、読んだときに衝撃を受けたっけ。犬や猫を家族として受け入れて暮らしてきた人にとって、生まれた子どもをどうするかは、昔も今も重い問題だ。避妊手術が普及していなかった頃の人たちを悪く思いたくなくて、若い医師の努力が実を結ぶ前の十和田のセンターを「悪」と決めつけるのも辛い気がする。現場の人たちのなかには、ずっと心を痛めてきた人もいるし、辛いけど盲従してきたことを今は悔いてる人もいるだろう。「行政の責任」というのが正解だけど、民意の総意が選んだ首長が率いる地方公共団体がやっていることだし、若い医師っていう現場の一個人の病むほどの努力がなければ何も変わらなかったわけだ。つまり他人事として批判できるものじゃない。

中川大志が演じた、その「システムを変えるために獣医になってセンターに勤める」医師の、一番辛い部分を引き受ける思いの強さに頭が下がる一方、林遣都が演じた医師の「処分をゼロにする。生体での実験には自分は参加しない」という宣言や、警察やマスコミも動かすパワーがなければ、世論を大きく動かすのは難しかったと思う。

いろいろ考えちゃいますね。一見明るい映画だけど、すごく重いテーマだったな、と改めて思います。

犬部!

犬部!

  • 林 遣都
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