映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

ヴィム・ヴェンダース 監督「アランフェスの麗しき日々」3510本目

この邦題、原題の直訳なのでしょうがないけど、第一印象は、なんかあんまり面白くなさそうなタイトルの典型みたいで・・・。原作はヴェンダース監督と何度も組んでるノーベル賞作家ペーター・ハントケなのに。

そして鑑賞前におなじみのレビュアーの方々の感想を読むと、かなりケチョンケチョンです(笑)どきどきするなぁ。

冒頭は無人の街並みにルー・リードの「パーフェクト・デイ」が歌詞字幕つきで流れる。完璧な一日なのに陰鬱なメロディ。そもそもドイツ語が母語のハントケとヴェンダースがなぜフランス語劇を撮ろうと思ったんだろう。・・・あ、今はフランス在住なのか。この舞台が彼にとっての現在なのかな。

赤いワンピースの女と紺色の服を着た男が眺めのいいテラスで話をしている。男が尋ねて女が答える。初めて男と寝たのは?・・・についてやけに観念的な話を女がする。この物語を今タイプライターで書いている作家が時折はさまる。女のワンピースの色を途中から青に変える。

・・・なんでイライラしてくるかというと、会話が観念的だからじゃなくて、誰もこの女の初体験とか男性嫌悪とかに全然興味がないのに延々と彼女の頭の中のことを聞かされるからだな。そういう指摘をしにくいのは、書いている作家は男だから。なんで男が女のそんな観念的初体験について書こうと思ったりしたんだろう。

青い女は男が女の性の前で「豚になる」という。ニック・ケイヴが現れてピアノで優しい歌を弾くと女は赤に戻って、愛を思い出したみたいだ。

これは、男から見た女の愛、想像してもよくわからない、愛なんてないのかもしれない、でも温かく流れるようなこの気持ちはなんだろう、やっぱりこれは愛なのか。でもそれは女には届いていないのか。・・・みたいな作品なのかな。

エンドクレジットの出演者のところにペーター・ハントケの名前がニック・ケイヴの前に出ている。姿は見なかった気がするけど、語りは彼自身なのかな。

私は「去年マリエンバードで」みたいな、ゆったりと歌うように語る夢のなかみたいな作品は生理的に好きなほうだけど、途中イラっとしてしまったな。「理解しにくい難解な作品」というより、「伝えようとすることや作った人の気持ちがわかりにくかった」という感じでした。