映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

ピエール・エテックス監督「ヨーヨー」3723本目

すごく美的にこだわった作品ですね。たのしく、うつくしく、ちょっと切なく、完成度が高い。ジャック・タチを思い出すなと思ったら、実際エテックス監督はジャック・タチのスタッフだったんだ。この作品の権利関係をクリアして再発するための運動には、ゴダールやレオス・カラックスのほかにミシェル・ゴンドリーも加わったというのも納得。フランスのロマンチックできれいな映画の系譜、全部好きです。

なにがジャック・タチ的かというと、どこか寓話っぽいコメディで、主役(エテックス自身)が不愛想、練りに練った動き、言葉にあまり頼らないストーリー、絵としての完成度の高さ、とかですかね。

目に留まったところ:

・ずっとさまざまな演奏で流れるテーマ曲のほかに、音で目立つのは調度品や食器、いろんなものがぶつかったり、ドアがきしんだりするノイズ。こういうのにこだわるんだ。

・物のこまかい部分の繊細な動きを追う映像が多い。面白いけど、ストーリーと無関係なディテールがすごく多いので、意外と見ていて疲れる。で、疲れた頃に筋が動くので、全然筋が追えなくて3回見てしまった。最後は2倍速です。ふしぎと2倍速でも情感あふれる映画として成立してる気がしました。

・犬!主が大富豪のときはリムジンでお散歩したり、甘やかされてたけど、主が小さいサーカスの興行主になったら見事な芸をこなしてて、なんて賢い子なの。

・きらびやかなもの、美しいものが好きで、戦争が嫌い。ヨーヨーは両親を喜ばせるつもりで豪邸を復旧したけど、両親が望んでいないことがわかったので、さっと豪邸を棄てて象に乗って出ていく。一番好きなのは家族とサーカス。

TOHOシネマズの劇場内動画でいつも最後に「夢のある、映画の世界をお楽しみください」って言うのが、昔のキネマみたいでちょっとレトロだな、でもこれから見るのホロコーストの映画なんだけど、など思ってたものでしたが、この映画とかはそういう演出がぴったりな「夢のある映画の世界」だなと思います。エテックス監督が愛するサーカスもそういうクラシックな夢の世界ですよね。

これは確かに復刻すべき名作だなと思いました。