映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

ピーター・クリフトン 監督「レッド・ツェッペリン 狂熱のライブ」3743本目

何で今まで見てなかったんだろう。ハードロック世代とパンク世代のはざまで育って、同い年でもパープルツェッペリン、あるいはストーンズからブルースやジャズへと行く人たちに背を向けてパンクに走った最年長のパンク世代だと思うのですが、教養としてこの人たちのメジャーなアルバムは聴いてきたしジョン・ボーナムが亡くなったときは悲しんだのに、なんでこんな大事なものを見てなかったのか。

‥‥理由はたぶん2つ。①音楽もののドキュメンタリーは上映期間も短いし、ソフト化されても映画としてほとんどプロモーションされないので、だいたい気づかない。②見てて気づいた。そういえばこの頃のハードロック~プログレって曲が長すぎて聞いてて疲れてしまうので、あまり積極的には聴いてなかった。

一方でモヤシみたいな虚弱なガキどもが虚勢を張るのがパンク。私も若い頃はモヤシみたいにガリガリで、30分もギターソロを弾く体力はおろか、聴く気力もなかったっけ。全盛期のツェッペリンって、なんてタフだったんでしょう。

ロバート・プラントの声のハリもすごいしパフスリーブはなぜか異常に似合ってるし、ジョン・ボーナムのドラムは強くて重いのに軽やかで、イントロが始まると胸が高鳴る。ジミー・ペイジは(そんなにギターうまくないんじゃないかという話がちょいちょい出てくるけど)素晴らしく繊細でセンスがいい。なんか、琴線に触れるギターですね。懐かしいような切ないような、魔法の国の冒険へいざなわれるような、いわくいいがたいセンチメンタリズムを引き起こします。私はベースがちゃんと聞けてないほうだけど、ジョン・ポール・ジョーンズのベースリフあってのギターリフだということはわかる。ジミー・ペイジのギターは浮遊するようなので、しっかりと収める「おもり」が必要。

楽曲はだいたい予定調和を壊して、途中でどんどん変わっていく。その辺も、sense of wonderというか、ワクワク感を保たせる効果があるような気がします。

で全員とにかく体力Max。全盛期というのはこういう時間のことをいうんだ。ツェッペリンをほかのどのバンドよりも愛する人たちの気持ちが、少しだけわかったような気がします。第一印象でぴんとこなかった映画や音楽を、いい!と感じるまで何度も見てみる、聞いてみる、というのもいいもんです。

やっぱり、司馬遼太郎の長大な小説のようなプログレ~ハードロックの長い楽曲は、私にはハードルが高く見えて近づきづらいんだけど、少しだけ近づけた気がします。