映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

川島雄三監督「しとやかな獣」2380本目

監督は川島雄三で脚本は新藤兼人。主演は若尾文子です。1962年公開、ひとつの黄金時代だなぁ。

悪~い家族の父は伊藤雄之助、母は山岡久乃(なんてうまいんでしょう)、息子は川畑愛光、娘は浜田ゆう子。だけど息子の横領について問いただしに来た芸能事務所の人たちのなかに、まるで“銀座のマダム”のような恰好をした若尾文子が混じっていて、経理の三谷君などと呼ばれているのが、最初からどうも怪しい。(もっと怪しいインチキ外人「ピノサク」を演じてるのは小沢一郎)この家族、吉沢という売れっ子小説家にまとわりついて搾り取って、まるで、この間見た「パラサイト 半地下の家族」だ。

で、やがて、「経理の三谷」の正体が明らかになります。若尾文子の悪女役の真骨頂ですね。監督もいいけど脚本が素晴らしい。ワルだね~~と驚き呆れながら、どこかスカッとしてしまう。悪い奴らって、騙すのも簡単…。

新藤兼人の監督作品よりも、華やかで脂っこくて、味の濃い料理みたいに面白い。

そこまでして買って始めた旅館も、うまく切り盛りしなければすぐにつぶれるだろう。逆に男たちを騙して貢がせたりしなくても、うまく経営すればすぐに儲かる。そういう経済の勉強をするより、手っ取り早く欲しいものを奪おうという料簡の人たちの末路は、こんなもんなんでしょう…。

「なんかあったのか?」「こっち来るようですわね」

居眠りする夫を振り返った妻の冷たい表情。

ドラマチックな場面の音響効果に能楽を使うのって新藤兼人っぽいですね。

「笑ウせぇるすまん」みたいだった。この頃って「黒い十人の女」(1961年)とか、こういう映画ってけっこう作られてたんですね。面白かった!

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テリー・ジョーンズ監督「ライフ・オブ・ブライアン」2379本目

追悼、テリー・ジョーンズ。

大好きなモンティ・パイソンの中で、テリー・ジョーンズといえば、キーキーうるさいおばちゃん役、あと「Nobody expects the Spanish Inquisition!」の三人組。ひょうひょうとしたキャラクターが多い中で、彼はいつも濃いというか重たいキャラクターを演じてましたね。この映画では監督をつとめていました。

この映画はレンタルで見つからずAmazonでDVDを買いました。最初に見たときは背筋が凍る面白さ…笑っていいのかどうか、日本人の仏教徒の私でもドキドキしてしまいましたが、筋や結末が頭に入っちゃってるので、今回は「確認」という感じしかしないですねー。映画の中のテリー・ジョーンズはキイキイうるさいブライアンの母など。

後にも先にも、ここまで鮮烈で面白いコメディグループってないだろうな。ちょっと高慢なイメージの英国オックスフォード大学に急に親しみが湧いたものだっけ…。

テリー・ギリアムのドン・キホーテもそろそろ公開だな。これからもずっと追いかけていきますよ、パイソンズ。

 

深田晃司監督「よこがお」2378本目

これも、不思議と良かった。ストーリーは「イヤミス」ですよね、家族からの憎悪や嫉妬、マスコミや一般の人たちのネガティブな感情を浴びた主人公が、自分も爆発して最後鎮火する…。といってしまうと身も蓋もないけど。

筒井真理子って、いつも助演女優として出てる美人でエロっぽい年増女性、という位置づけがかなりカッチリしていると思ってたけど、 この映画では脇の甘さ、翻弄される人の好さ(っぽく見える)の魅力が満開でした。いつもは、ちょっとズル賢い役が多かったけど、この映画の彼女はもっと柔らかい。「筒井真理子劇場」というのは大げさな気がするけど、彼女のキャリアの中で一番重要な一本であり続けるんじゃないかな、という気はします。

捉え方としては、姉の基子(市川実日子)は市子(筒井真理子)のことがずっと好きだった、って理解で良いですよね?妹があんなことになったけど、黙っているからずっとそばにいて。彼女のようになりたい、彼女と一緒に暮らしたい。彼女をひどく傷つけることをつい言ってしまった。そしてその後、ばったり会った基子は市子のやっていたヘルパーの仕事についている。そんなふうに憧れることに説得力があるくらい、ヘルパーの市子はキレイで優しくて愛されていました。いやがらせって憧れの裏返し(ということも、ある)かな…。

よこがお DVD 通常版

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  • 出版社/メーカー: ポニーキャニオン
  • 発売日: 2020/01/22
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藤井道人監督「新聞記者」2377本目

映画見すぎてるのに、さらに数年ぶりに「ギンレイホール」年間パスポート買ってしまった。バカか私は。で、記念すべき1作目にこれを見ました。やたら評点が高いけどドキュメンタリーではなく、原案はあるけどフィクション。「半沢直樹」みたいな感情過多じゃないといいなーと思って見ましたが、意外と良かったです。官僚に限らず、日本の大手企業の上の方の人たちの不思議なくらいの隠ぺい体質の表現に、リアリティがあった。ヤバい!という場面で最初から逃げに入るのって、ゲームを楽しんで勝とうと考える他所の民族なり国家なりの人たちより負け戦感が強くて、戦争とかしても勝てる気しないです。自分に自信があれば、大衆を味方につけようとか、少なくとも受けて立とうという意識がないとおかしいけど、実際には小心者ばかりがなぜか上の方にいるから、この映画にリアリティがありすぎて残念です。…ってちょっと感情過多ですね、私のほうが(笑)。

シム・ウンギョンは日本語が怪しいし、表情が能面のように変わらないけど、変わらない表情のなかに知性とか激しい感情が感じられて、不思議と良いですね。ちょっと不器用だけど一本気なこんな若い新聞記者って、いるかもしれない、と思える。

松坂桃李はいつも真摯で好感が持てて良いんだけど、ちょっと、あまりに、いつも演技が同じすぎる気がするので、ここではあえて意外な人を当ててみてくれても面白かった気がします…でもウンギョンさんがかなり意外感があったので、こちらは安定感を重視したのかな。

高橋和也、田中哲司も良かったし、そうか今日本の映画で「男が守るべき妻子」は本田翼なのか。映画の意図があるからだろうけど、ひたすら透明で優しく愛に満ちて可愛いという天使でした。

そして、松坂桃李が仁王立ちして大泣きするみたいな大げさな場面がなくて良かったです。

この映画の製作委員会に朝日新聞社が入っていて、そこで自社の矜持を示そうとしているのかもしれないけど、原案の望月衣塑子は中日新聞社だからね~。

新聞記者 [DVD]

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  • 出版社/メーカー: KADOKAWA / 角川書店
  • 発売日: 2019/11/22
  • メディア: DVD
 

 

 

 

 

ジャン=ピエール・ダルデンヌ 監督「少年と自転車」2376本目

<ネタバレ>

「ある子供」の続編的な位置づけとされてれるんですかね、この映画。

少年が守ってくれる人を得て、はっと目が覚めたように大人びた挨拶ができるようになったり、攻撃されても立ち上がって前へ進めるようになっていくのが、とても救われます。続編というよりアンサー編、と捉えたいんだけど、単純すぎ?

うちには捨て猫だった猫が一匹いて、それなりに満足そうに暮らしてるんだけど、独身の私でも困っている子ども一人くらいは救えたんじゃないろうか?とときどき思います。

 同じ町内で誰かが困ってないか調べて、困っている人がいたら、私みたいな暇で愛情を持て余してる人間が何かしらサポートする、仕組みとかないのかな…。

少年と自転車(字幕版)

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  • 発売日: 2015/04/01
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ポン・ジュノ監督「パラサイト 半地下の家族」2375本目

<ネタバレだらけ注意!>

 

面白いことは面白かったけど、普遍的で深い人間性のような、パルムドール受賞作品に私が期待しているものは、この映画にはあまり感じられなかったなぁというのが、まず、感想です。

息子の治療をもっと瀕死の人より優先する「悪い金持ち」は、貧乏一家に騙されて利用されて殺されてもいいのか?っていう部分が、モヤモヤするのです。この映画に「悪い金持ちを懲らしめてやった!」という快感を覚えるとしたら、それは貧乏人の皮をかぶった金持ちいじめだ。「スノーピアサー」も主人公の独りよがり感が強くて苦手だったけど、この映画も、日本の連続ドラマの主人公にありがちな独善性が気になる…地下で「ほんとに悪いことをした」と息子に手紙を書いたところで、裁きを受けて服役することと比べて反省でも償いでもないのに…。

地下から出てきた男とその妻はこの一家に騙されて追い出された挙句、そろって殺されてしまうわけで、むしろ彼らを主役にしたほうが諸行無常とか格差問題とかが打ち出されて、映画のメッセージ面は強くなったんじゃないか。一人、二人、と家に入り込んでいって、しまいに地下からさらに現れる人がいるほうが、構成的にはインパクトがあるけど。

最後の場面で、この期に及んでまだ地下シェルターが発見されてないなんて、警察は何をやっていたんだ?と思うし、モールス信号のエピソードが、最後の「息子への手紙」のためだけだとしたら、荒すぎてちょっと無理筋。

どこを見てそんなに評価したのかなー。「万引き家族」とはまったく違うジャンルの映画だったと思うけどな。

プレストン・スタージェス監督「サリヴァンの旅」2374本目

この監督の映画見るの、初めてだ。初の脚本家から監督への転身、いまは忘れられた大監督、なのだそうです。爆裂トーク、大げさアクションの典型的なコメディですね。楽しい。

飛ばしてる車の中で乗ってる人たちがあっちにぶつかり、こっちにぶつかり、キッチンのコックに何がぶつかりあれがこぼれて…という場面なんか、テンポとか間が良く、大げさなのにやりすぎず、絶妙。いいなぁこの監督。こういうシンプルな可笑しさって、すごく好きです。80年代あたりのサタデー・ナイト・ライブとかに受け継がれてる気がする。

ダイナーで出会う“謎の美女”の、クールなコメディエンヌぶりも最高。「ルビッチの映画に出られなかった」って話とか出てくるので調べたら、エルンスト・ルビッチ監督とスタージェス監督は50歳違いなので、スタージェス監督から見たら大御所ですね。

主役のサリヴァンを演じているジョエル・マクリーはヒッチコックの「海外特派員」で一度見てた(私すごく面白かったと感想を書いてる、もう一度見てみよう)。骨太で気さくな二枚目ですね。彼が出会う「The girl」を演じるヴェロニカ・レイク、ツンデレのはしりですかね?こういう冷たい美女が破顔一笑したりすると、それだけで可愛くて好感度ダダ上がりです。

社会派に走りかけた映画監督が、苦労を経験したあと「そんな人たちを元気にするコメディを作ろう」と決意する。社会派映画にも素晴らしいものがたくさんあるけど、人を笑わせようという彼の決意は、ルビッチをリスペクトする監督らしくて素敵。

いい映画だったな~。

サリヴァンの旅 [DVD]

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  • 出版社/メーカー: ファーストトレーディング
  • 発売日: 2011/02/16
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