映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

マキノ雅弘監督「次郎長三国志 第八部 海道一の暴れん坊」2388本目

 

マキノ雅弘監督作品をほとんど見てないのは、やくざ映画が多いからかな…。

この映画が作られたのは1954年。時代劇全盛期じゃないですか?この頃の日本映画って、みんなすごく早口で口八丁手八丁の人たちが人気者で、こんなに回転が速いのに世の中には理不尽なことがたくさんあって、結局巻き込まれてとても悲しい思いをする、という映画が多い気がします。登場人物たちがすごく魅力的で、じんわりと切なく暖かい気持ちになります。

この映画は、川島雄三監督作品よりはもう少しカラッとしてますね。だけどやっぱり、口八丁手八丁の石松(森繁久彌、若いころから達者!)のおっちょこちょいなところや、めちゃくちゃ人がいいのにやっぱり不運で幸せを掴めないところが、切ない。いや、なんでも知りすぎてしまう今の世の中より、「なんで?」といぶかりながら死ねる時代のほうが幸せだったのか…?

テンポが私にはちょっと早すぎるのと、字幕もないのでボリュームをかなり上げて何度も何度も見直したので、ついていくのに苦労してしまったけど、女郎部屋やお葬式の場なんかでも、端っこの方までみんな生き生きと動いていて、人物がみんな素晴らしく魅力的。

この監督の作品、現代劇も見てみなければ。 

次郎長三国志 第八部 海道一の暴れん坊

次郎長三国志 第八部 海道一の暴れん坊

  • 発売日: 2015/07/01
  • メディア: Prime Video
 

ライアン・ジョンソン 監督「ナイブズ・アウト」2387本目

面白かった!

前評判(前宣伝?)が良すぎて期待しすぎたかな?前情報ゼロで見るのがベストだし、私みたいにさまざまなミステリー映画を見すぎて、アガサ・クリスティも読みすぎてて、うがった見方とか深読みしかできない者はなるべく素直な気持ちで見たほうがいい。でも、そんな私でも、登場人物の造形がそれぞれ生きているので、すごく楽しむことができました。

でも英国紳士のダニエル・クレイグに「南部なまり」の役って無理じゃないか!?そこは英国探偵でよかったと思うけど、007のイメージから一番遠いところに新しいキャラクターを作ろうとしたのかな。

そんな「キャラ立ち」を支えてるのは百戦錬磨の俳優たち。それぞれ、深くて濃くて長い人生経験を思わせるので、説得力がすごい。

ミステリーとしての謎解きは、クリスティでもエラリー・クイーンでもないので、トリックの妙が最大のポイントというわけではないんだけど、二転、三転する状況、テンポよく交わされる会話、観客は転がされて流されて笑って心配して、いいスリルを楽しめる作品ですね。

ぜったい続編作る気だと思う、監督も配給会社も。私もさっそく次の作品が見たい。。。最初からそんな前のめり感の強い映画でした。お勧めです。

ボー・バーナム監督「エイス・グレード 世界でいちばんクールな私へ」2386本目

もう、痛くて痛くて大変。数十年前の自分を見ているようで。でも、この子はもっと素直で優しいので、痛いのはもっと小難しくてわだかまってた面倒くさい昔の私のほうだな…。こんなに可愛い子でも、ちょうどこのくらいの年齢、はじける前のわだかまり世代には、内弁慶で外ではシャイで、思ったことをなかなか言えない時期があるんですよね。

このイタさをこんなにリアルに描けるなんて、監督は14歳の少女か。せめて性別は女性だろうと思ったら、若い男性なんですね。YouTubeの映像をちょっと見たけど、すごく面白い、才能あるコメディアンという感じです。そういう人がこういうセンシティブでハートウォーミングな映画を撮るのも意外だけど、ここまでリアルに撮れるなんて奇跡的。

ケイラちゃんはちょっと幼児体形だけど素直で可愛いので、男の子たちがちょいちょい寄ってきます。でもやっぱり、感じの悪い美人のパーティで会ったイトコ君が一番ぴったりだね。なかなかオタクっぽくて変わってるけどとてもいい子で。

高校生のオリヴィアとの出会いが良かったですね。あんなにイケてて素敵なお姉さんに可愛い可愛いって言ってもらえて、少しずつ自分に自信がついて、表情が晴れやかになっていくのが、またリアル。

ケイラちゃんは間違いなく、高校でデビューするタイプだな。チャラチャラしてない分、どんどん才能を伸ばして、社会に出たらバリバリ働くかもしれない。

ここまで登場人物に親近感を持たせられる監督って、なかなかいません。すごい新人だなぁと思いました!

キウェテル・イジョフォー 監督「風をつかまえた少年」2385本目

いい映画でしたねー。なにしろ実話ですから。といっても本人のTED映像では最初は風力発電で家電を使えるようにして、その後太陽光発電で灌漑できるようにした、とか、姉妹が大勢いたか、フィクションの部分もあります。

マラウイという国は名前を聞いてもわからないくらい未知の国でしたが、ザンビアの隣か。大きな湖はあるけど海には面していません。洪水と干ばつの繰り返しでダムもない状況だと、こういう行動力のある発明家が出てこないかぎり、自然に翻弄され続けてしまうのかもしれません。

マラウイの広々とした美しい風景や、学校、図書館、参考にした本などは本人映像そのままでした。

風をつかまえた少年(字幕版)

風をつかまえた少年(字幕版)

  • 発売日: 2019/12/01
  • メディア: Prime Video
 

 

ジェームズ・アイヴォリー 監督「最終目的地」2384本目

シャーロット・ゲンズブールにアンソニー・ホプキンスに真田広之で、舞台はウルグアイとは、あまりにインターナショナル色が強いし個性がばらばらで…、何このキャスティング?作家の妻も主役の伝記作家も、全員集合しても接点がありそうな、カップルになれそうな組み合わせが一つもない。

それが狙いなのか。ってことに気づいたのは、他の人たちの感想を読んだ後です。きっと英国人アイヴォリーが、南米のマジック・リアリズムあふれる土地で、普通では起こらない化学反応が彼らの間で起こることを期待したんだろうな。

と言われても、シャーロット・ゲンズブールのロングブーツもローラ・リニーの力んで襟を立てた勝負服も、この土地で長く着てきたものと感じられない。監督も撮影も褒められてるけど、スタイリストにちょっと“無理”がある。そうやってずっとここで、まるで高級ホテルで暮らすみたいに、メイドもいないのに暮らしてきたっていうんでしょう?

しかしここでもアンソニー・ホプキンスの上手さ。彼のふるまいは、南米のゆるさをしっかり身に着けてる人みたいだ。真田広之もそこで働く男としてそこにいる。ニューヨークから“蜂に刺されて昏睡状態”の伝記作家を訪ねてきた彼女役のアレクサンドラ・マリア・ララはKINENOTEではクレジットもないけど、停滞だか安定だかのウルグアイの空気をかき混ぜる大事な役です。

最後の場面。作家の元妻は新しい男性とオペラを見に来ている。伝記作家の元彼女も同様に新しい男性を連れてその場にいる。どちらもニューヨーク在住だ。そしてウルグアイの家ではおそらく、作家の兄&養子、作家の元愛人と伝記作家が今も暮らしている。

しかし、せっかくのウルグアイにもかかわらず、辺境感とか魔術とかが全然なくて、英国連邦の支店みたいだったのはちょっと惜しかったです。 

最終目的地 [DVD]

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  • 出版社/メーカー: パラマウント ホーム エンタテインメント ジャパン
  • 発売日: 2014/06/11
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ラッセ・ハルストレム 監督「セイフ ヘイヴン」2383本目

何かから逃れて小さな町にたどり着いたケイティを演じるのはジュリアン・ハフ。「ロック・オブ・エイジズ」の彼女と同一人物といっていい設定なので「また会ったね」感が強いです。一方のアレックスを演じるジョシュ・デュアメルは記録を辿っても見た記録がないのに、見たことある気がするのが不思議…。

構成は最初からミステリアス。ケイティ(偽名)は何かの事件に巻き込まれて、誰かに傷を負わせて逃げ回っている様子。でも、殺人犯の指名手配と違う方向に執拗に調査を進めている警官が一人…。

結局のところ愛のドラマなんだけど、愛を成就するまでの障壁がちょっと盛り盛りです。「サイダーハウス・ルール」の監督ですもの、生命にかかわるほどの所有欲やバイオレンスのあとに真実の愛にたどり着く、という成り行きがちょっと重めです。

 見ごたえがあったけど、ジュリアン・ハフの笑顔がカッコよくてアイドルすぎて、リアルに痛い恋愛って感じが、ちょっと薄まってるかもしれないと思いました。

セイフ ヘイヴン (字幕版)

セイフ ヘイヴン (字幕版)

  • 発売日: 2014/08/01
  • メディア: Prime Video
 

 

川島雄三監督「女は二度生まれる」2382本目

面白いなぁ、川島監督の映画は。

若尾文子演じる芸者は、純真なのか悪いのかよくわからない女です。泥棒の家に生まれて泥棒になってしまった子供みたいに、芸者の家に入れてもらって芸者になったという。

こんなふうに「女は二度生まれる」のか。令和2年の日本としてはPolitically incorrectだけど、この時代にはある種の美談として語られる。女のほうも一人の男性に尽くして芸の道に精進する。…貞操観念ってのは、一夫多妻制ならこれでも問題ないんだろうな。など、頭がちょっと混乱してきます。

フリー恋愛の芸者→しょっぱい(彼女談)一級建築士の二号さん→おとうさん死亡、芸者に戻る→いまさらフリー恋愛できない→昔知ってた男たちを眺めながら、新宿からなんとなく夜行バスで松本、少年を上高地へ見送って、イマココ

そこで手持無沙汰になっているところで唐突に「終」。二度生まれさせておいてどうする気だ、おとうさん!…ってところでしょうか。

キレイで愛想がいいので、松本の蕎麦屋の店員とか旅館の仲居とか、飛び込みで就職する手もあると思うのですが、この時代の価値観はちょっと想像するのが難しいので、私から彼女にアドバイスするのはやめておきます。

しかし川島雄三の映画は、どれも面白いな。この監督がいま同じタイトルで映画を撮っても、それはそれで面白いものができそうな気がします。舞台や設定と配役を想像するだけで面白い…。

 

女は二度生まれる

女は二度生まれる

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