映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

オリヴァー・ストーン監督「ウォール街」2450本目

(ネタバレというのか?これは?)

一言でまとめると、インサイダー取引はダメよ!という映画。日本でも優秀な人たちから次々に証券会社に入社していったバブルの頃のお話です。なんとなく、のちの「ハゲタカ」のオリジナルという感じもしますが、こっちはお縄になってもエンディングにトーキング・ヘッズがまったりと流れたりして明るい。

1987年のウォール街は、有線電話で同時に何本も通話しながら、メモを回したりして相場が作られてた…ということがもう遠い昔のようですね。今はAIだかBotだかが一瞬のうちに株価を何十ドルも上下させる時代だもんなぁ。

この映画の公開時には、企業の株価を操作しながら買収するようなことは、たいがいの人たちから見て雲の上の出来事で、これで知恵を付けた人も相当いただろうな。

チャーリー・シーンがとても美しくて、父親の若いころソックリなんだけど、その父親が父親役で出てるのがちょっと面白い。対するマイケル・ダグラスを見てると、だったらカーク・ダグラスも彼の父親役で出て息子に説教のひとつもしてやっていれば…なんて思った人が世界で100万人はいたんじゃないか。(どうでもいいけど)

※ 自動スシ・マシンが安っぽくてたまりませんね!

ウォール街 (字幕版)

ウォール街 (字幕版)

  • 発売日: 2013/11/26
  • メディア: Prime Video
 

 

 

ルイ・ガレル監督「パリの恋人たち」2449本目

「グッバイゴダール」でめんどくさいゴダールを自分で演じたガレル監督が、また自分を主役として撮った映画。ゴダールの流れをくむ、女性礼賛にともなう男の卑下をこの映画でも描いています。だって原題は「L'HOMME FIDÈLEA (FAITHFUL MAN)」、従順な男ってところでしょうか?これを「パリの恋人たち」というタイトルで上映するのってフランスのエスプリをなかったものにするような、パリのファッション雑誌でも見て憧れてるんだろうと日本女性をナメているようなマーケティング戦略が、なんか不満。観客をもうちょっと信じてくれないかな。

リリー・ローズ・デップの初々しい美しさ、恋に恋する若さも素敵だけど、元同性相手を演じたレティシア・カスタの余裕と知性がまた素晴らしい。若い女性はこんな大人を目指すと良いと思います(私はもう遅いが…)。結論はそこなんでしょうね。ゴダールは妖精を求め続けたけど、ガレル監督はFaithfulなだけの自分を包み込んでくれる大きな女性を求めるのかな。

マダムの息子を演じたジョゼフ・エンゲル君、まだ声変わりもしてない子どもなのに大人のようなまなざしは何だ。ミヒャエル・ハネケの映画に出てくるような悪い子の役もこなせそうなたたずまい、今後が気になります。

(そういえば、主役の親友で元カノの夫だったポールって留守電メッセージでしか登場しなかったな。。)

諏訪敦彦監督「風の電話」 2448本目

これもまた「別府ブルーバード劇場」にて。観客はきわめてまばらだけど、今日は館主の方もいらして、湯の街で映画文化を長年守り続けてきた方の笑顔がとてもまぶしかったです。

この映画は、感想を書くのが難しいですね。作り手と現実の被害者やその家族の方々の意識や思いは一致するわけではなく、もしかしたらすれ違うだけなのかもしれない。でも作らずにいられなかった気持ちが、ハルを何かと気に掛ける通りすがりの人たちの気持ちとなって、映画のなかに現れているのです。

ハルの言葉は、9歳で家族を見失った人たちの言葉に聞こえないかもしれない。本物の彼女には、通りすがりの人たちの言葉やサポートが、空虚にしか感じられないかもしれない。でもそれがみんな熱い思いなんだということが、いつか、彼女の人生のずっと後のほうでも、伝わればいいな、と思います。

主演を務めたモトーラ世理奈の、特徴のある透明ですこし暗いビジュアルや至極素直な演技が、とても良かったですね。少女特有の危なっかしさ、悪いもの・黒いものに取り込まれてしまいそうな弱さを持っているけど、本人は至って健康な若さも持っているから、見ていて不安になるほどのヤバさがない。つまり安心して見ていられる暗い少女なんですよ。この映画のなかではまだ希望といえるほどのものが見えなかったけど、それでも生き延びて成長して、きっと笑ってくれる、と思える。

最後に出てきた男の子は最後には姿を消していました。あれは彼女を風の電話へと導く天使みたいなものだったのかな…という余韻を残してくれましたね。

イ・ビョンホン監督「エクストリーム・ジョブ」2447本目

面白かった!こういう抱腹絶倒なおバカ映画って大好きです。

「なんか乗り切れなかった」という感想の人もけっこういますが、私にとってはこの映画はまさに好みのタイプでした。「パラサイト」には富裕の差にもとづく敵・味方という敵対関係があって入り込めなかったけど、この映画はただただおバカという平和があるのが好きです。

そしてこれは私の「別府ブルーバード劇場」初体験ともなりました。別府に来るたびにずっといつか行こうと思っていた、歴史ある劇場です。宣伝が派手な映画も地味な映画も、監督が有名な映画も無名な映画も、館長のセレクションによって平等に選ばれています。こういう映画館がこの温泉町に50年以上もありつづけてることって素晴らしいですね。

映画に戻ると、俳優のキャラ設定が明確でしっかりしてるし、大真面目の中の”抜け感”が絶妙だし、”バカだけど強い”というキャラが憎めない上に痛快だし、なんだか水原カルビチキンが旨そうで旨そうでたまりません。

韓国映画もメジャーなものは結構見るようになったつもりだったけど、今回の出演者は全員見事に初見です。新しい韓国映画の扉を開いてくれて、ありがとう。班長の賢そうで全然賢くない感じ、不死身のゾンビ戦法。ちょっと川原亜矢子っぽいチャン刑事も、殺人マシンみたいな敵方の女性ファイターもカッコいい。岸田森似のマ刑事があの髪型でニヤリと笑うのはちょっと反則。ひとりだけ真面目に張込みを続けるヨンホ刑事は一見クールだけどやっぱり相当抜けている。子犬みたいに可愛いジェフン刑事は…野球部でどMって…そもそも戦力外でしょ!

インテリヤクザみたいな麻薬王は意外と弱虫だし、IT長者みたいなもう一人の悪党は、大物のようだけどちっちゃい奴。…こういったキャラ設定がほんとに絶妙です。脚本もいいけど演出もいいし役者もいい。揃わないとこういう面白さは出ません。

映画好きにもいろんなタイプがいると思うけど、私はこういう映画が好きな人たちとお友達になりたいわ~。

公式サイト:http://klockworx-asia.com/extremejob/

マリエル・ヘラー監督「ある女流作家の罪と罰」2446 本目

マスコミに出てこない地味なアル中の作家が、忘れかけられたスターの伝記を書いても売れそうにない。その作家は食い詰めて、とうとうスターからの手紙の贋作作りを始める…。

コメディエンヌとして名高いメリッサ・マッカーシーが地味な中年女性をうまく演じていますが、この映画自体、もとは「オレンジ・イズ・ニュー・ブラック」の監督がジュリアン・ムーア主演で撮る予定で進んでいたらしく、それがこうなると日本では劇場公開されないというこの事実が、映画の内容をなぞっているようで、なんとも。(USではすごくヒットして評価も高かったみたいです。

メリッサ・マッカーシーってこんな人だっけ…?いつもコミカルな役どころだけど、もっとゴージャスなイメージ。「SPY」や「ゴーストバスターズ」の画像を検索してみて思った。アイラインとマスカラって重要…。

偽造ってけっこう重い犯罪っていうイメージがあって、けっこうハラハラしながら見てしまったんだけど、執行猶予もついたし、買い取った店は10倍の金額で売ってるし…笑ってもいい映画でした。

エンディングの歌はルー・リードか?調べたら「Good night ladies」という彼の曲でした。ニューヨークといえば彼ですからね。 

ある女流作家の罪と罰 (字幕版)

ある女流作家の罪と罰 (字幕版)

  • 発売日: 2019/06/19
  • メディア: Prime Video
 

 

です)

真利子哲也 監督「宮本から君へ」2445本目

俳優がみなすごく役に入り込んでいて、深い演技で見ごたえがありました。好き嫌いはあるだろうけど、力の入ったいい映画だと思います。これはやっぱり監督の力なんだろうな。

真利子哲也 監督って「デストラクションベイビーズ」だし、バイオレントなイメージがあります。原作もテレビ版も知らないけど、池松壮亮と蒼井優と井浦新なんて、すごく映画的なキャストですよね。

バイオレントな井浦新は久しぶりで、やっぱりいい。「日曜美術館」の静かな彼も良かったけど、ブチ切れた井浦新は何者にも替えがたい。(「蛇にピアス」とか)

 「俺、靖子と子どもを愛してますから」と言ったときの池松壮亮の眼の中の星が、大竹しのぶみたいだった。似てきた?

街の乱暴者を演じた一ノ瀬ワタルのワルっぷり、大熱演でしたね。心底憎い乱暴者が最後にやられる場面をリアルにやりきった感じ。

この映画では性暴力の場面は、淡々とドキュメンタリーのように描かれるけど、やられた女とその男の慟哭はすさまじい。男が簡単に強姦する動物なら、自分の女がやられたらこれほど慟哭するのか。それより、間髪入れずに警察と医者に行くという啓蒙活動がまだ足りてないと思ったりもする。最大の報復は、証拠を突き付けることだから…。(原作は1990年頃だから難しいのかな)

 主人公の「宮本浩」のモデルがエレファントカシマシの「宮本浩次」であることは明らかなんだけど、1990年当時の「ファイティングマン」とか「奴隷天国」で熱いイメージの彼だったのかもしれない。私がエレカシを聞くようになった2000年以降は文学的で繊細なイメージもあったので、このキャラクターが宮本浩だというのはちょっと違和感あるな。逆に、この役を宮本浩次が演じたら…(無理か)

この映画のピエール瀧をそのまま公開するかどうか、ずいぶんもめたんですよね。彼の役どころがもっと極悪なら、麻薬=悪の反面教師になるということで問題なく公開されたんだろうか。公開をやめたり、差し替えたりすることの意味が私にはいまもよくわからない。

 この映画は作者が、卑劣な犯罪を身近に見聞きしておぼえた怒りをぶつけたものなのかな。今の時代の閉そく感を写しているように感じられるけど、実はバブルの頃の漫画だ。日本は昔からほんとうは病んでるのかな。

その中で真っ正直で大バカな宮本浩。私も大バカ者になりたいな。この映画がキネ旬主演男優賞、平均評点(2020/3/17現在)82.4点っていう日本は、まだ諦めるのは早いかも、って思いました。

千切谷知子演出「扉の向こう ロック歌手・宮本浩次という生き方」 2444本目

是枝監督がプロデュースしてますね。なんのつながり?ファン?最後のクレジットにテレビマンユニオン(制作会社)、フジテレビって出てましたね。もともとテレビ用に作った作品だそうです。

私がエレカシをちゃんと聞き始めたのは、ソニーからポニキャンへ移籍後第一弾、1996年の「ココロに花を」からで、このドキュメンタリーが撮影された「扉」、2004年までに私はエレカシのアルバムをあまり買わなくなっています。なんか、「扉」ってタイトルのアルバムを彼らが出すこと自体、なんとなく少し不自然で、行き詰まりを感じます。その後また買い始めたのは「Starting Over」、次の2008年の「昇れる太陽」では「新しい季節へキミと」(亀田誠治プロデュースかぁ!)を聞きながら、こぶしを握り締めて新しい仕事にまい進していたのを思い出します。(ここだけ見ると私が女性だとは誰も思わないだろうな)

宮本って、真っすぐ過ぎるくらい真っすぐで、男性は大いに共感し、女性は少年みたいで可愛いと思うんですよ。ただ、それは女性向けに振舞ってるわけじゃないので、やがて女性たちは持て余す、という流れが多分あるんじゃないかと…。遠くから見ているだけでいいです、私は。