映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

レオ・マッケリー監督「我が道を往く」2570本目

この監督は私の大好きなマルクス兄弟「我輩はカモである」や、私の大好きなハロルド・ロイドの「ロイドの牛乳屋」とかを撮った監督じゃないですか。ほかにも何本か見てるけど、テンポのいい毒のない笑いで、好きな作品が多いので、期待してしまいます。

劇中歌の歌詞に「the day after forever (永遠の翌日から)I'll begin loving you again」みたいなのがあって、好きだな。映画のタイトルの中で「永遠と一日」ってものすごく好きだし。 

ビング・クロスビーは端正な美声だけど、とってもくだけた親しみやすい牧師。年老いたお堅い牧師に、この町の不良たちは手に負えなかったけれど、新任のビング・クロスビー牧師がうまく皆を乗せてトラブルを次々に解決していく。という素直で前向きなストーリーです。第二次大戦直後、日本でもバラックで希望を見出そうとする映画がたくさん作られたけど、戦勝国にもこんな映画が必要だったんだな。

我が道を往く(字幕版)

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ジェリー・シャッツバーグ 監督「哀しみの街かど」2569本目

 日本ではこれがアル・パチーノのデビューなのかな。ちょっとキャラ濃いけどまだ若いチンピラって感じです。真面目で一途な表情で人をじっと見るんだけど、どうも真っ当に生きていくように見えないのが彼の特徴です。だけど優しいので、若いヘレンは彼をだんだん好きになってしまいます。優しければヤクの売人でもいいの?…見てて抵抗があるけど、それと同時に、なーにも考えないでゆらゆらとこんな生活をしたら楽しいのかな、と思ったりもします。

案の定二人はクスリで判断ができなくなって、身体かクスリを売るだけのその日暮らしに落ちていきます。中毒者のヤバい感じが強まっていき、最初は素朴な女の子だったヘレンが荒んでいきます。演技なのにすごいなぁ。この子の、善にも悪にも何の抵抗もなく、来るものを受け入れていく感じ。人生の計算をまだ始めていない子どもの純真さです。そんな彼女をボビーは愛している。刑務所に入ってよかったんじゃないかな。どこか田舎に行ってクスリから足を洗って彼らは生きていけたんだろうか。どこでどう生きたとしても、この二人が本当に憎み合うことはない気がするのが、救いですね。

哀しみの街かど [DVD]

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  • 発売日: 2005/07/22
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フリッツ・ラング監督「復讐は俺に任せろ」2568本目

フリッツ・ラングのアメリカ時代の作品って、ハードボイルドっぽい流行りもののサスペンスにどんどん寄っていくなぁ。粗製乱造という感じではなくて、クールさとスリルが一貫しています。私わりとこの手、好きなんですよね。毎週金曜の夜とかに帯ドラマでやってほしい。

駆け落ちしようとしているトムの愛人が、バーで刑事グレン・フォードを待つちょっと荒んだ感じが、左幸子っぽい。グレン・フォードって不思議。ぱっと見、すごい二枚目っていう印象ではないのに、人をまっすぐ見つめる感じが眼を引くんですね。「八月十五夜の宿」、「カルメン」と純情な青年の役をやってたけど、実際はプレイボーイだったとかいうし、騙されちゃいかんですね!

悪党の情婦はグロリア・グレアム。私この人の出てる映画、まだ3本目のはずなのに、いつも見てるような気がする。鼻がツンとしてて、ちょっと生意気な感じがなんともチャーミング。

この映画の場合、「黒幕は誰だ?」という謎はなくて、正義で熱血なグレン・フォード刑事と女たちがからみつつ、「どっちが勝つのか?誰がやられるのか?」というスリルを中心に進んでいきます。女たちの暴走が目立つ映画なので、邦題の「復讐は俺に任せろ」はなかなかいいセンスだなと思いました。

復讐は俺に任せろ (字幕版)

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  • 発売日: 2013/11/26
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ジャスティン・ザッカム 監督「グリフィン家のウエディングノート」2567本目

2013年の作品か。ロビン・ウィリアムズもまだ存命だったのだ。

ロバート・デニーロの別れた妻がダイアン・キートン、今の彼女がスーザン・サランドン。弁護士の長女が「グレイズ・アナトミー」のキャサリン・ハイグル、養子にした息子の結婚相手がアマンダ・セイフライド、牧師がロビン・ウィリアムズ。目がくらむようなキャストですが、しかしこの映画のトーンを決めてるのはアマンダ・セイフライド(マンマ・ミーア!)なんだな~。大御所たちが彼女の世界に来ちゃったような不思議な映画です。ドタバタでちょっとエロでハッピー。これも長時間のフライトの機内とか、何を見てもイラつくような精神状態のときとか、Stay Homeの東京とかで見たい作品です。名作と呼んだり、高い点数をつけたりするのはためらうけど、私こういう映画見るのってわりと好きなんだよなぁ…。 

グリフィン家のウエディングノート (字幕版)

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  • 発売日: 2014/08/01
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クリント・イーストウッド監督「アイガー・サンクション」2566本目

アイガーといえばスイスアルプスの超絶、登頂が難しい山ですね。(特に北壁)

なぜかそこを舞台に制裁が行われる映画なのですが、舞台はほとんどアリゾナ州のモニュメント・バレーです。ここって本当によく映画で使われますね!(スイスロケお金かかるんだろうな。)

sイーストウッド監督映画なのですが、映画の中の主役の彼は足を洗った元暗殺人で、行く先々に敵や味方の手先のいい女がいてすぐにしなを作って彼のベッドに入ってきます。うーむ、男しか読まない週刊誌的な世界、イーストウッド監督作品にしてはノリが古い。

登山が始まると緊迫感が出てきます。しかし、楽しい山歩き以外の、こういう厳しい登山って、なんでするんだろう…この北壁なんて致死率5割以上とかなのに。死ぬリスクより欲しいスリルなんでしょうか。この映画でも<突然ですが以下ネタバレ>主人公しか帰ってこないというありさま。

結局、登山隊に紛れ込んでいると言われる敵は、ふもとのサポートチームをやっていた彼の旧友で、お互いに命を奪うこともなくアメリカに戻る…てことは、既に死んだ人たちはいったい何のためだったんだろう?最後の最後のこの「殺し合いのむなしさ、ばかばかしさ」だけが、今のイーストウッド監督作品を思わせる部分だったように思うのでした。

アイガー・サンクション (字幕版)

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  • 発売日: 2015/03/04
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佐藤信介監督「キングダム」2565本目

大人気のマンガが、アニメにもなってるけど、それを映画化したのね。

前半かなり進行が速いけど、コンパクトに、かつみっちりと作ってあるので、ちゃんと筋を追いつつドラマチックな場面を楽しむこともできます。この手の映画化は、映画だけ見ても筋も良さもわからないものが多いけど、主役の山﨑賢人と吉沢亮が張り切っててとても良いでえすね。ふくろう小僧みたいな橋本環奈も可愛いし、大沢たかおも橋本じゅんもノリノリで悪役を演じています。長澤まさみもすごく綺麗。(ほとんど動かないけど~)この映画は美術が素晴らしいんですね。マンガは色合いがちょっとウルサイのに、この映画ではいい具合に濁った色合いに置き換えられていて、調和しています。こんなアフリカの部族の原始神のような造形は、中国の人が見たらびっくりしそうだけど…。

しつらえも手をかけてよく作り上げてあるし、キャスティングが合っているだけでなく、役者さんたちがとても乗って盛り上がって演じてるのも素晴らしい。こういう風に彼らを盛り立てていくのが監督の技量なのかな。…俳優プロフィールをググってたら、スターダストプロモーション所属の人が多いな。

最後もよくきれいに締まっています。なるほど、これはヒットするだろうな。マンガのファン、アニメのファンも大勢見に行って気に入ったんだとしたら、それだけでもすごい。元のイメージを裏切らず、かつ、さらに夢を広げるという大変な技を成し遂げた制作陣に拍手を送りたいと思います。

キングダム(映画)

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  • 発売日: 2019/10/09
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トミー・ヴィガント 監督「バチカンで逢いましょう」2564本目

アメリカか、でなければフランスのハートウォーミングな家族ドラマ、というしつらえなんだけど、イタリアが舞台の映画。ドイツ映画で「ハートウォーミングな家族ドラマ」をやるには、イタリアの明るさや軽さが必要だったのかもしれません。(※バグダッド・カフェのヤスミン=この映画のマルゲリータのほかに)

実際、※をつけてしまうくらい、彼女の太陽のような温かさと家事能力は「バグダッド・カフェ」によって性格づけられた既存のキャラクター設定なので、借景のような感じすらおぼえるのですが、全体的にはあのようなおとぎ話ではなくて現実的なストーリーだし、彼女を懐かしく嬉しく見てしまった人も多いんじゃないかと思います。つまり、使ったもの勝ち。

ヤスミン=マルゲリータという偶像は、明るくやさしく賢く生きて、周囲の誰もを幸せにするというあり方なんですよね。この映画の原題は「オマ・ミーア」という、「マンマ・ミーア」をまるごとパクったタイトルで、内容もまさにそんな感じだけど、バグダッド・カフェのヤスミンを借景としている分だけ、なんとなく含蓄に富んだ感じのする映画なのでした。

バチカンで逢いましょう [DVD]

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  • 発売日: 2014/10/02
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