映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

ダン・フォーゲルマン 監督「ライフ・イットセルフ 未来に続く物語」2636本目

この映画は、4世代にわたって脈々と連なる家系図を行ったり来たりしつつ、ぶつっと切れてしまうところもあるけど、ちゃんとつながっているよという暖かい生の物語でした。タイトルを直訳すると「人生そのもの」というより「生命」という感じかな。

監督のダン・フォーゲルマンはもともと脚本家なんだな。だから歌詞や、さまざまな登場人物が繰り返し口にする言葉とかがとても強調されてて印象に残る。 あと、血族の物語なので、ある程度は小さい頃と成長後、この親たちにしてこの子、という関連性に無理がないほうが見やすいんだけど、なるほど感のあるキャスティングだなと思いました。

オスカー・アイザックってなんか好きなんですよ、熱いところが。彼が愛しぬいたアビーを演じたオリヴィア・ワイルドは「リチャード・ジュエル」で鼻高々に誤報を伝えるセクシー女性記者でしたね…。(オスカー・アイザックとオリヴィア・ワイルドによる「パルプ・フィクション」のコスプレ、楽しかったですね)

ディランを演じたオリヴィア・クックはレディ・プレイヤー1のアルテミスだ。この2役はわりと近いですね。カウンセラーは安定のアネット・ベニング。ときどき戸惑ったりするのも女性らしくて自然。アントニオ・バンデラスはペイン・アンド・グローリーですっかり貫禄出たなぁと思ったときの彼とほぼ同等の重厚さ。愛と誠実の男でした。

ハラハラ、ドキッ!とさせておいて、まあまあ穏やかで温かい気持ちで終われる感じがアメリカのドラマっぽいと思ったら、大ヒットした「This is us」の製作者なんですね、監督は。死んだかと思われたおなかの赤ちゃんが生き伸びて、結婚して子どもを設けるという生命のつながりありきの安心感や、愛される女性はブロンド、不良娘は赤毛、といった既視感のある設定がどこかステレオタイプで、子どもを持てない人や同性カップルのことも問題意識を持って映画を作る人が多い昨今の映画界の中では、ナイーブな作品という気もします。…などというひねくれた見方をするのは、私が子どもも持てずに一人で老後を迎えようとしているという個人的な事情でしかないのが‥‥。

ライフ・イットセルフ 未来に続く物語(字幕版)

ライフ・イットセルフ 未来に続く物語(字幕版)

  • 発売日: 2020/03/25
  • メディア: Prime Video
 

 

ジョン・カサヴェテス監督「チャイニーズ・ブッキーを殺した男」2635本目

ジョン・カサヴェテスって、名前がギリシャ神話みたいなのに典型的なアメリカ的アメリカ人を描かせたら天下一なんだよなぁ。今じゃなくて1980年代くらいの。私が初めての海外旅行で行ったニューヨークで、ホテルを抜け出してドキドキしながら入ったデリカテッセンを思い出します。やたら大きくて高級感ないんだけど、甘いコーラに合って不思議とおいしかったっけ…。

それはさておき。ギャンブルで欲を出したばっかりにマフィアに弱みを握られて利用されるキャバレーのオーナーを演じたのは、ベン・ギャザラ。なんとなくカサヴェテス監督と似た雰囲気ですね。若干強面、やり手でちょっと色気とヤマっ気があって。 彼の出た映画はけっこう見てるけど(或る殺人、オープニングナイト、バッファロー66、ビッグリボウスキ…画像を探してやっと、そういえば出てたなぁという感じ。名脇役すぎる…。

チャイニーズ・ブッキーというのはどんな三船敏郎のような大物かと思ったら、おまけしてくれそうな中華料理店の爺さんみたいな弱そうな人でした。アメリカのあちこちにチャイナタウンはあるけど、マフィアって実際はどのくらいいるんだろう。

撃たれたコズモ(ベン・ギャザラ)は自宅でセクシーなブラックのお姉ちゃんに応急処置と痛み止めをしてもらったんでしょうか。

カサヴェテス監督の目の付けどころって、やっぱりどこかユニークなんだな。この映画では、コズモが撃たれてからあちこち行った挙句、自分の店の楽屋で今まで見たこともないような、子どもみたいな笑顔を見せる。「オープニング・ナイト」みたいに、自分にとって最高に大切な店の舞台袖で、これから幕を開けようという時間。舞台でショーの開始の遅れを詫びて、客の全員に一杯御馳走する。愛すべきショーガールたちとショーマンたち、胸躍るショー。そう悪い人生じゃなかったんじゃないか?彼はこのあと路上でこと切れたかもしれないけど…。

 

フアン・アントニオ・バヨナ 監督「怪物はささやく」2634本目

フルネームで呼ばれる主人公、コナー・オマリー。「ドニー・ダーコ」を思い出すな。呼びやすい名前の、さいなまれている少年。ルイス・マグドゥーガルくん、素晴らしい演技力ですね。この少年の暗さもズルさも愛も憎しみも自分のものにしている。

怪物の正体は「イチイ」の木なんだ。母を演じるフェリシティ・ジョーンズは「ローグ・ワン」にも「博士と彼女のセオリー」にも出てたな、ちょっと暗い感じの美人。

不幸な子どもが非現実的な世界にあそぶ映画って、見てると胸が痛くなる。この映画は特に、タイトルを見ただけで胸がいっぱいになる。中学生の頃、母と姉が大げんかをした日の夜に私は「怪獣が飛ぶ夜」というおはなしを書いたのだ。姉が家出したあと私の部屋の窓に怪獣がやってきて、その背中に乗って町を一周して戻ってくるっていうおはなし。私がそれほど「かわいそうな子ども」だったかどうかわからないけど、空想に逃げるしかない子どもの気持ちが少しだけ思い出される。

はっ!校長先生がまたジェラルディン・チャップリンだ。「永遠の子どもたち」でも重要な役を務めてた。

この作品の少年は、さいなまれるだけではなく、生き延びて強くなる。母親にしがみつくのをやめて「行かせる」ことをまで選択する成熟を経たのだ。この監督はいったいどんな子ども時代を送ったんだろう、この人間のサガの理解の深さは。だからラテン圏の監督の作品ってやめられないんだよなぁ。。。 

怪物はささやく(字幕版)

怪物はささやく(字幕版)

  • 発売日: 2017/12/30
  • メディア: Prime Video
 

 

アレックス・インファセッリ 監督「キューブリックに愛された男」2633本目

キューブリック監督の運転手兼パーソナル・アシスタントを30年も務めたイタリア人、エミリオ・ダレッサンドロに取材し、その手記をドキュメンタリー化したもの。

彼は在職中、なんと一度も映画を見たことはなかったのですって。将軍に使える忠実な家臣みたいに、マフィアのドンのお気に入りみたいに、滅私奉公を長年続けていたのに。あるいは、起きてる時間のほとんどがキューブリック監督で埋め尽くされていたから、短い家族との時間くらいは彼ナシで過ごしたかったのかもしれないですね。

エミリオの誠実さがにじみ出る人柄。こういう実直な片腕が、天才が天才を発揮できるようにするのに必要だったんだろうな、と思います。

キューブリックも、文字通り身を削りながら映画を作り続けたんだな。天才ってきっと、自分ですべて作り上げられる人というより、抜きんでて美しいビジョンを自分の中に持っている人んなんだと思う。それを実現するには、世界中のいろんなものや才能をかきあつめてこなければならない。だから、どんなわがままにも応えてくれる「右腕」がないといけない。

エミリオの顔はなんとなく見覚えがある気がしたけど、アイズ・ワイド・シャットで見た記憶があったのかどうかは何ともいえません。でもいい話だったな。この映画は見て良かったです、ほんと。 

キューブリックに愛された男 [DVD]

キューブリックに愛された男 [DVD]

  • 発売日: 2020/06/03
  • メディア: DVD
 

 

バスター・キートン監督「キートンのセブン・チャンス(キートンの栃麺棒)」2632本目

わずか56分のサイレント映画。 公開時の日本のタイトルにある「栃麺棒」というのはおっちょこちょいという意味らしい。1925年の映画なので、自動車はいわゆるクラシックカーだし、黒人の召使がふつうに家にいます。女性たちは深い帽子を被ってアール・デコ風のストンとしたドレス。素敵~~。

100人は下らない数の花嫁エキストラ!(笑)

彼が27歳の誕生日の7時までに結婚出来たら相続するという700万ドルって今のお金でも7億円は下りません。Inflation finderというサイトで現在の価値に換算してみたら(ググれば何でも見つかる時代!)、103,810,187.34ドルですって。1億ドル、100億円以上。現実感のない、コメディらしい金額になりました。時代背景としては1939年の世界恐慌の影も見えない、史上最高の好景気だそうです。そんな時代のバブリーな映画なわけですね。

町の中を走っていたのが、いつのまにかアリゾナ州の砂漠みたいなところで崖から落ちそうになったり、亀がネクタイに食いついてたり…。すごい運動神経、反射神経ですね。この頃のコメディアンというかボードビリアンは体を使って演技してたんだなぁ…。

やっと結婚式が挙げられた!彼女にキスだ!というときに(6時半に町を出てアリゾナに行って、よく戻ってこられたな)ワンコが間に入って二人の顔をペロペロするエンディングは最高にハッピーエンドですね。この時代にこの映画を見て幸せになった人がうらやましい‥‥。

キートンのセブン・チャンス [DVD]

キートンのセブン・チャンス [DVD]

  • 発売日: 2003/03/29
  • メディア: DVD
 

 

キャシー・アン監督「ハーレイ・クインの華麗なる覚醒」2631本目

メイキング映像を先に見てしまったんだけど、勢いのある女子だらけのすごい現場ですね。こんなカラフルな映画製作ってまず他ではないので、それだけで面白そう。 

このテンションと色彩はちょっと中年の私にはtoo muchかな~。特にハーレイ・クインちゃんの顔が白塗りすぎてちょっぴりイタイかな…。可愛いけどね。 

ぶっちゃけ、メイキングとインタビューの方がもっと勢いがありました。特に監督。一見派手なわけじゃないのに、エネルギーがあふれてます。彼女自分で映画出ればいいのに。 

ハーレイ・クインの華麗なる覚醒 BIRDS OF PREY(字幕版)

ハーレイ・クインの華麗なる覚醒 BIRDS OF PREY(字幕版)

  • 発売日: 2020/05/15
  • メディア: Prime Video
 

 

ジャック・アーノルド監督「大アマゾンの半魚人」2630本目

ピーター・ローレの「Mr.モト」シリーズみたいな、一度も行ったことのない密林を妄想して作られたエキゾチックな映画かと期待していたら、心身ともに健康のかたまりのようなアメリカ人の若者たちがアマゾン探検に出かける、極めて健全でかなりリアリスティックな映画でした。科学に寄りすぎないし、半魚人が等身大な分、リアリティがちょっと高まってる気がします。

黒い河の中から現れたやつは、ウロコやヒレがたくさんついてて、泳ぎが上手だけど、人間です。この辺のハイテクなのかローテクなのかわからない造形が、かえって共感を誘いますね。この丸い頭の半魚人の役者さん、本当に泳ぎが上手で、姿が美しいですよね。水面近くを泳ぐイルカみたいに綺麗な女の人に憧れて出てきただけなのに、報われずにかわいそうだなぁ…。ギレルモ・デル・トロ監督は、このかわいそうな半魚人さんが憧れの女性と結ばれる映画を作ってあげたいって思ったのかなー。

ところで、半魚人の登場の仕方が、映画史上もっとも唐突で笑ってしまいました!誰かが話してる途中とか、映画演出上の盛り上がりをあえて無視して、俳優たちをリアルに驚かせようとしたのか!?

大アマゾンの半魚人 [DVD]

大アマゾンの半魚人 [DVD]

  • 発売日: 2012/10/24
  • メディア: DVD