映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

クリストファー・ノーラン監督「インターステラー」2673本目

この映画の「ブラックホールの本棚」の場面も、一生残る場面だったなぁ。

だけど最初に見たとき私は、「あと一歩」みたいなことを書いてた。もう一歩進んだところにあったと私が感じたのが「メッセージ」で、そこから原作を読んで現代中国SFも読み始めた。人類はまだ経験していないことに対して謙虚に観察と実験を続けるべきなのだ、きっと。

ガルガンチュアに突入する場面は、ガラガラといろんな破片がぶつかってうるさいけど、「2001年宇宙の旅」みたいだね。データを取るために自ら生身でブラックホールに飛び込むのって、これほどの自己犠牲があるだろうか?どうしても、たまたまそこに本棚の反対側があるという飛躍の納得できる説明が見つけられないけど、でも、面白いからよし。

次元の違いによって時間が稼げるという理論から、どんどん物語が膨らむ。妄想といってもいいし夢といってもいい。このくらい大きなことを想像して、丁寧に確実に執念深く積み重ねていくことが科学研究だし、映画の制作も同じだ。常に「その先」はあるから、映画で語ることは語りつくしたなんて思わないで、常に前を向いて作り続けてほしいと思います。

インターステラー(字幕版)

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  • 発売日: 2015/03/25
  • メディア: Prime Video
 

 

クリストファー・ノーラン監督「インセプション」2672本目

前にも見たけど、「テネット」の公開(明日からだ!)に先駆けてやたらみんな見てるので(だってIMAX上映中だから)私も見てみることにしました。家でだけど。

前に見たのはもしかしたら飛行機の機内とかだったかもしれない。あまり細かいところを覚えてない。最初に見てから10年近く経ってるんだろう。その間に私は2700本くらい映画を見て、この映画の中や外に他の映画の断片を見つける、普通の映画好きくらいの知識はついてきたかもしれません。

マリオン・コティヤールがエディット・ピアフを演じた映画を見たばかりなので、この映画のなかで繰り返し流れる「水に流して」が耳につく。監督はあの映画を見て彼女をキャスティングしたのかな。(Wikipediaを見たら、この曲を使うことはその前から決まってたそうです)「500日のサマー」でゴードン・ジョセフ・レヴィットを、「ローラーガールズ・ダイアリー」でエレン・ペイジを、「硫黄島からの手紙」~「バットマン・ビギンズ」から渡辺謙を。「バットマン・ビギンズ」からキリアン・マーフィーを(あるいはイギリスどうしなのでその前からよく知ってただろうけど)。トム・ハーディはどこから来たのかわからない。

エレン・ペイジはローラーガールズのキャラクターのままだしゴードン・ジョセフ・レヴィットもちょっと弱いキャラを継承してる。でも「借景」とは感じない、もっと大きく広げてるから。

最初の方、デカプリオとエレン・ペイジが「夢」の中で街を折りたたんで町の半分が空から折り返ってくる衝撃的な映像、よく覚えてる。郝景芳「折りたたみ北京」を読みながらこの映像を思い出したんだけど、この小説はこの映画の2010年より後の2012年に書かれたそうだから、この映画の印象が彼女にそんな小説を書かせたのかもね。

アリアドネというあまり見ない名前をググったら、迷宮から主人公を救い出すギリシャ神話の登場人物らしい。なるほど、いい名前だ。(こういうことをきっと町田氏の解説では話すんだろうなー)

そして、私の「マリオン・コティヤール=弱い女性」っていうイメージはこの映画からきてたかもしれない?

この映画そのものは「惑星ソラリス」のテーマを「エターナル・サンシャイン」の仕組みを膨らませて創造してる部分もありますね。亡き妻の思い出を追い続け、悪夢に囚われ続けるデカプリオ。そう考えるとチャーリー・カウフマンって、スタニスワフ・レムくらい斬新ですごい人なのかも(変なだけの映画もあるけどw)。

もしかしたらノーラン監督は、様々なイメージを強力に焼き付けてかき集めてアレンジする人なのかもしれない。てんこ盛りで、巨大なクロスワードパズルみたいに、複雑だけど確実に解が一つだけある。

不思議でSFで革新的なコンテンツって中国の小説とアメリカの映画が圧倒的に先に行ってるなぁ。前に見たときは不思議で難しい映画だと思ったけど、今回は複雑で面白い。全部理解できてはいないと思うし、全部理解しなくてもいいと思ってるけど、こういう映画を見たり小説を読んだりしてると頭のいろんな部分を使う。いろいろ活性化する。刺激されて気持ちが上がる。だから、これほど創意工夫をする監督や制作者のことは尊敬してしまうなぁ。 

インセプション (字幕版)

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  • 発売日: 2013/11/26
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グァルティエロ・ヤコペッティ 監督「世界残酷物語」2671本目

この映画なんで借りたんだっけ?

残酷さではタイトル負けしていて、面白さもわからなかった…。

こんなの感想といえるのか?と思いますが、見たぞという記録を残しておきます。 

世界残酷物語(字幕版)

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  • メディア: Prime Video
 

 

オダギリジョー監督「ある船頭の語」2670本目

ちょっとびっくりするくらい美しい画面。と思ったら撮影監督はウォン・カーウァイの一連の作品の撮影監督だったクリストファー・ドイルですって。オダギリジョーってどんな映画を志向する人なんだろうと思ったけど、まずこういう美しさをとても重視する人なんだな。まるで葛飾北斎の浮世絵みたいに、惑星ソラリスの最後に出てくる水みたいに、重い質感のある水の風景。

公式サイトにロケ地のこととかちゃんと載ってますね。新潟かぁ。行ってみたいな。

映画好きならおなじみの個性派俳優めじろ押しなのは、監督がまっさらな役者たちに演技を付ける自信がなかったんだろうか?これほどイメージ通りなキャスティングってなんか「借景」って感じがします。

冒頭のタイトル画面の左に、真っ赤な椿の花から大きな血の染みが広がっていく。椿の花を少女になぞらえると、これがストーリーをそのまま表してるとも言えます。謎めいているけどテーマは「ボルベール(ペドロ・アルモドバル監督)」と同じともいえる。あっちは開き直って底抜けに明るいけど、日本ではそれはひたすら悲しいこと、不幸なこと、として描かれるのが、監督がせっかく若いのにちょっぴりステレオタイプな気がします。夢とうつつを行ったり来たりする場面が中盤以降にたくさんありますが、少年に説明をさせようとしてかえってわかりにくくなってるような。いろいろ、生煮えな部分があるけど、次の作品も楽しみにしたいと思います。

美しい風景の中に一人で座ってるのって、私から見ればすごいことだけど、あの風景の中で生まれ育った人にとってはどんな感じなんだろう。都会の喧騒を夢見たりすることもあるんだろうか…

ある船頭の話

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  • 発売日: 2020/08/12
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ジャン・ガブリエル・アルビコッコ 監督「金色の眼の女」2669本目

1961年のフランス映画。

独特の美意識の横溢する世界。日常の生活の泥臭さが存在しなくて、登場するのはすべて美男美女でお金持ちで、ミステリアスで少し病んでいるけど純粋。ちょっと大人向けの少女マンガみたいな世界です。

だいいち、主人公の男が登場する場面でウサギみたいな頭を被ってるんですよ。演じるのはポール・ゲール。この役ジャン・ルイ・トランティニャンでもいけそうです。アフター5にやってるスポーツがフェンシングってカッコよすぎです。

彼が出会う謎の「金色の眼の女」はマリー・ラフォレ。彼女の要望が少女マンガを思い出させるのかもしれません。大きすぎてとろけそうでちょっとだけ離れた目、眉から鼻へすっと通るすっきりした鼻筋、少女みたいな唇。彼女の瞳の色が白黒映画ではわからないのでカラー写真をたくさんググってみたら、実際金色っぽいです。すごく薄い茶色。綺麗だなぁ。スタイリッシュなファッショングラビアみたいなマンガがたくさん出て来た頃、ヒロインとして描かれたタイプのなかにこんな女の子もいました。

彼女を「囲っている」デキる女性実業家を演じてるのはフランソワーズ・プレヴォ―。彼女もまた、目を離せないくらい強くて美しい大人の女です。

フランソワーズ・ドルレアックは新進モデル、カティア役として、主役に待たされて空港まで走らされるだけの役でした。

 いちいちライトが十字に輝くようにフィルターか何かかけてある映像が、少女マンガの背景の花みたい。羽枕を割って散った白いふわふわの中で詩をつぶやきながら部屋の中をさまよう金色の眼の女。なんて美しい映画なんでしょう。これカラーだったら「シェルブールの雨傘」みたいに今でも女子に人気の美しい映画リストに入ったんじゃないかな。感想書いた人なんて一人しかいないし平均評点50点だけど、これはなかなかの美麗ロマンス大作ですよ。

それに、この映画って詰まるところ女性どうしの同性愛の話だし、原作は19世紀のバルザックとあるけど、他にどんな小説を書いたんだろう。気になる。…おっと「美しき諍い女」も彼の原作か。やっぱり貴族的な美麗世界の人だなぁ。Amazonで検索したら、なんと去年、少女マンガ家が彼の作品を美麗絵本化した本が出てますね。少女マンガを連想した私の感覚は一般的だったようです。

この映画、誰も見てないけど、画面が常に名画みたいに完璧で本当に美しいしロマンチックなので、見てほしいです。2回目、3回目のほうが魅力が増してきます。

金色の眼の女 [DVD]

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  • 発売日: 2019/03/11
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マイケル・アンダーソン 監督「80日間世界一周」2668本目

コロナのせいで世界一周に出かけられなかった腹いせじゃないですが、見てみることにしました。186分もあります。

「イントロダクション」という最初の章ではメリエスの「月世界旅行」やロケット打ち上げがゆっくりと収録されていて、なんとなくディズニーランドのアトラクションの中に入る前の長ーい列の途中で見せられる紹介映像みたいな感じ。

最近の現実的な世界一周の最短期間はだいたい2週間だそうです(※世界一周チケットを買って元が取れるくらい乗りまわる、という前提で)。この映画は気球という、どこにでも行けそうでどれくらい時間がかかるかわからない便利なものを使って飛んでいくんですね。最初から最後まで賑やかで楽しくて…有名な俳優が入れ代わり立ち代わり、ヨコハマには大仏があるしインドのお姫様は青い目だし、いろいろアレだけど全体的にディズニー映画みたいに健全。お正月特番みたいな映画ですね。楽しいけどあまり印象が残らない…。

この映画に限って言えば、マレーネ・ディートリッヒよりピーター・ローレが見られたことのほうが嬉しかったな…。彼ってハンガリー生まれでヨーロッパ一円の舞台廻りをした後でドイツ、フランス、イギリスで映画に出てからハリウッドで活躍して、「ミスター・モト」っていう日本人探偵の役が当たったという、いわば一人世界一周でした。

コロナが明けたら行くつもりの世界一周旅行の参考には、全然ならなかったかな(笑)。 

80日間世界一周 (字幕版)

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  • 発売日: 2013/11/26
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渡辺歩監督「海獣の子供」2667本目

宇宙創生の壮大なスペクタクルを描いた美しい子どもたちの映画だった。

原作のマンガを描いた五十嵐大介がこのあいだインタビュー映画に出ていて、私がなぜか韓国版を見てしまった「リトル・フォレスト」も彼の作品だと知ったので、この映画も見たくなりました。
CGと手描きのマジックだなぁ。今って本当に美しい映像が作れるんですね。100年前の活動写真の頃の人たちに見せたら、異世界を覗き込んだような気分なんじゃないだろうか。
ストーリーは、ジュゴンがどうやって子供を育てるんだろうとか、人間とジュゴンの間の子供ならエラ呼吸もできるんだろうかとか、不思議に思うけど、そもそもこの映画では一切説明をするつもりはない。だからうっとりしながら感じるべきなんだと思う。
海って怖いと思うし、身をゆだねるには荒々しすぎるけど、海の中から地球上のすべての生命が生まれてきたんだろう。ここまで海に対して相思相愛になれたらいいな、とうらやましいような気持ちになりました。

海獣の子供

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  • 発売日: 2020/01/29
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