映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

ジェイソン・ウォリナー監督「続・ボラット 栄光ナル国家だったカザフスタンのためのアメリカ貢ぎ物計画」2735本目(KINENOTE未登録)

なんてこった。この映画もAmazonオリジナルで、日本の映画館で上映もDVD発売もされていないのでKINENOTEでは非映画扱い、未掲載だ。

前作で故国カザフスタンをコケにしたために、レポーターの職を追われ島流し(のようなもの)にあったボラットは14年後の今年、恩赦を受けて復活。

もう、冒頭から実に下劣で最低なんだけど、嬉しそうに笑っている私。カザフスタンは行ったことないけどウズベキスタンまでは行ったときの感覚からするとボラットのような奴はカザフスタンにもいるわけなく、彼の娘役をやってるマリア・バカローヴァはカザフスタンではなくブルガリア出身らしい。眉毛がつながっててうっすら口ひげを生やしてて、世間知らずで野性的。キャラクター造形すごいな…この子のコメディエンヌの才能もすごい。もはやこの映画はマリア・バカローヴァ劇場といってもいいくらいだ。

娘と二人でアメリカ各地のあちこちに出没するとき、父の方は常に金髪とか茶髪とかに変装してるのは、ボラットのままだと有名だからバレちゃうからですね。サシャ・バロン・コーエンがかつて「続編はない」と言ったのにやっぱり作ったのは、この方法を思いついたからなんだろうな。しかし全くサシャバロンコーエンに見えない。

…前作を見たときは神をも恐れぬ映画だと感じ、今回の作品はもっとひどい気もしてるけど、慣れって怖いですね。「ヘレディタリー」に続いて「ミッドサマー」を見た気持ちみたいに、最悪だけど慣れてる。

ちまたの善良な人々をダシにしたりコケにしたり、全くひどいんだけど、面白かった…。 でももう続編は作らないでくれ、特にイスラム教の人たちは純粋だから、馬鹿にすると死ぬぞ!

 

ダニス・タノヴィッチ 監督「汚れたミルク あるセールスマンの告発」2734本目

「セプテンバー11」でボスニア・ヘルツェゴビナ代表で短編の監督を務めた人の作品だた。私は某英語学習教材の中でネスレの粉ミルクの問題に触れているのを見たことがあって、レンタルしてみました。

清潔な水がなければ使えない粉ミルクを、汚い水しか入手できない地域で販売すること。スイスの研究所の人にバングラデシュの水事情を正確に想定するのは難しいけど、現地営業はわかったことを本社に伝えて是正する責任があります。学習教材を見たときは、地元のことを良く知ってる現地の営業員が現場を仕切ってるとは思わなかった。若い営業員が問題を現地の医師から伝えられたところでやっと、現象と原因がつながった。ここがスタート地点となります。

正しく告発を行った医師や営業員を脅迫し、排斥しようとするのは、リベートを受け取り続けていた現地の他の医師たちだった。リベートを社内規程で禁止しつつ黙認していた企業の責任は重大だけど、現地の倫理感がこの状態でどうやって改善すればいいんでしょうね。新聞販売店の営業インセンティブみたいなもので、監督責任と同じかもっと、現地で身近に死にかけてる赤ちゃんを無視しながら私利私欲を追求した医師と営業員の問題が解決しない限りどうにもならない問題だ。

映画1本見ただけではわからないこともある。映画の中でもちゃんと言ってるんだけど、この問題は1930年代から顕在化していて、ネスレは1970年代に改善を約束しています。約束が守られてないっていう問題はずっと続いてる。みんなが知ってる問題を1980年代に握りつぶせると思っていた現地の会社の人や軍部がいたってことが、根深い問題なんだ。

世界中のどこでも、どの会社でも起こりうる、起こりつつある、かつて起こったことがある問題として捉えて、常に自戒して周りにも注意を向けていない限り、防ぐことはできないことなのだ。蚊帳の外から批判だけしたくなった人は、今自分が被害者の関係者でも加害者の関係者でもないことに感謝したほうがいいのだ。(関係してることに気づいてないだけかもしれないけど‥‥)

汚れたミルク/あるセールスマンの告発(字幕版)

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  • 発売日: 2017/08/19
  • メディア: Prime Video
 

 

荒井良平 監督「怪猫有馬御殿」2733本目

映画史の中で語られる「化け猫女優、入江たか子」について、一本くらいは見ておこうという趣旨でレンタル。でも本当は、戌年生まれで猫嫌いの父が、母に内緒でこっそり「小さい頃に見た化け猫映画が怖かった」と話してくれたことが忘れられなかったこともあります(笑)

悪さばかりする猫「タマ」を飼っているのは、 殿様の側室のひとり。古参の側室からの妬みもあって愛猫を手放したが、嫌がらせはエスカレートする一方。げに恐ろしきは嫉妬ですな…。当人たちは義憤だと自分に思いこませているから反省することがない。

意地悪チームもいじめられっ子チームも、じつに美しい人たちです。入江たか子って、無声映画時代のハリウッド女優みたいな面長美人ですね。

1954年って昭和29年。このとき入江たか子、実は43歳。かなりクリアな白黒映像ですが、HDとか4Kだったら姫の役は難しかったかも?(カラーだったらなかなかのスプラッター映画になったかも)鐘楼にぶら下がるお女中、香を焚いた屏風の間の死体、勝手にめくれる布団、暗闇から現れる幽霊…。化け猫化した「おたき」に起こされて新体操ばりの動きを見せるお女中たちの動きも見事。シリーズ的に角川で映画化したらなかなか面白い映像になったかも!?

生首が飛び回る特撮の場面で流れる「ヒュ~ドロドロ」は、円谷プロの特撮映画と似てるなと思ったけど、「ウルトラQ」が1966年だから、これより10年以上後です。化け猫映画は時代の最先端を行ってたのだ!

それにしても、私に何かあったら、うちの猫も仇を取ってくれるかなぁ~。。。

DVDに収録された、大林宣彦監督と入江若葉の対談も、すごく良かった!

怪猫有馬御殿 [DVD]

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  • 発売日: 2004/07/23
  • メディア: DVD
 

 

エマニュエル・ローラン監督「ふたりのヌーヴェルヴァーグ ゴダールとトリュフォー」2732本目

トリュフォーもゴダールも、評価できるほど多く見てない。この映画は、この二人の作品、影響を受けた先人たちの作品のクリップがたくさん入っていてすごく参考になるんだけど、一生懸命見てもこの二人の関係性や「ヌーヴェルヴァーグって何」とかが、あまり頭に入ってきませんでした。まだ私には見るのが早かったのかな…。アントワーヌ・ドワネルシリーズを数本見て、ジャン・ピエール・レオが二人の板挟みになったというのはどういうことなのか知りたくて見てみたのですが。

なんで伝わってこないかというと多分、”二人の父親”が仲たがいして以降の、彼らがお互いをどう思っていたかを語る場面が、収録されていないからじゃないかな?面と向かってあいつは嫌いだとかなかなか言わないだろうから、映像がないのかもしれないけど。

やっぱり、誰かがつなぎあわせた映像じゃなくて、監督については彼らの作品を順を追って見ていくのが一番なんだろうな…。

 

アーロン・ソーキン監督「シカゴ7裁判」2731本目

これは10年以上計画し、制作し、配給の段階で初めてNetflixの手に渡った映画。配給権5600万ドルって60億円近いです。興行収入は10万ドル、わずか1000万円か。つまりほぼ100%配信印税で利益が出せる自信があったわけだ。いったい何人がNetflixで見ればいいんだ…。サブスクリプションって自動的にどんどん課金して、下手すると映画館に年に1回しか行かない人からも年間9600円取れちゃうビジネスだからかなり売上が大きい。全世界のユーザー数、今1億9500万人。そのうちの半分が6円換算、10分の1のユーザーしか見なくてもひとり60円のサブスク料金を負担するだけでペイするわけだもんな…。すごいな転職できないかなNetflix…

さて。「シカゴ7裁判」のことはまるで何も知らなかったので、ネットで調べて他の方々のレビューも全部読んでから鑑賞。法廷劇は一見では私には歯が立たない~~

サシャ・バロン・コーエン、エディ・レッドメインにジョセフ・ゴードン=レヴィット、ジョン・キャロル・リンチ。個性がバラバラな人たちを起用したことで、反戦運動が自然発生的に各地でバラバラに発生したという特徴が際立ちます。

とても面白いんだけど、裁判の進め方があまりにもデタラメで恣意的で、誇張しすぎ?と思ってしまった。でもWikipediaに書いてあることと同じだった。(Wikiが偏ってないとは言い切れないけど)アメリカの司法がこれほど崩れてたら、世界中のどこでちゃんと裁判が行われてるんだろう?

戦争で亡くなった人たちの名前を読み上げる場面は、まだ10代とか20代の少年たちも多かった。そういう若い子たちを戦争に追いやる戦争を推進してるのはおじさんやおじいさんたちだけど、彼らにも息子や孫はいないんだろうか。ベトナム戦争は狂気の戦争だったんじゃないかと思うけど、関連する国内の状況も狂ってたんだなと思いました。狂気のトランプ政権が終わって協働のバイデン政権が始まっても、コロナで各国、各地域の分断は深まってるから、この先まだ明るくはないなぁ。

デヴィッド・グッゲンハイム監督「天才の頭の中: ビル・ゲイツを解読する」2730本目(KINENOTE未登録)

テレビドキュメンタリーと同様、監督の名前は探してもなかなか見つからないのね。(英語のWikiでやっと見つけた)これはNetflixのドキュメンタリーです。50分強×3本。このインタビュアーは誰だ?Steven Levy?彼はマイクロソフトの社員だったんじゃないか?

アメリカでWindowsとInternet Explorerの”違法”バンドル販売についての連邦訴訟がマイクロソフトに対して提起された少し後に、日本ではWordとExcelをOficeとしてPCに搭載して販売することの違法性が争われていました。その頃のマイクロソフトやビル・ゲイツはNHKでも平気で「悪の帝国」扱いしてドキュメンタリー番組で扱っていたけど、心底チーズバーガーが好きで金銭的な欲が皆無の彼は、やがて世界一のフィランソロピストとして伝記を書かれる人になると、私はいろんな人に入って回ったものでした。「世界一の大金持ちになって困っている人を助ける」は、あらゆる子どもや若者の目標であるべきだと思います。

彼の両親が地元の慈善家だったことは有名だし、メリンダというもう一人の慈善家を妻にした時点で、彼の慈善家としての次の人生がもう決まってたと思います。ほんと、いい人というかぴったりの人と結婚したと思います。

ビル・ゲイツ、センスはゼロだし、ビジネスに関しては英語を使うアメリカ人以外の「rest of the world」に対する関心度や理解が低いと思います。でも彼はヨーロッパや東アジアじゃなくて世界の最貧国のほうに興味を持ったんですね。日本語版の打てば響くような素晴らしいソフトウェアはいまひとつ作ってくれなかったけど、世界のすべての子供たちに清潔な水とトイレを使わせてあげたい、という気持ちを強くしてったんだな。いいんじゃないでしょうか。彼を守銭奴とか悪の帝王とか呼んでた人たちも、黙って10円でも100円でも募金すればいい、と思います。

やったほうがいいことを普通にやり続ける。やらない人たちが何を言ってきても。

Part 2で、ビルがウォーレン・バフェットに初めて会ったのが彼の母親の勧めだったって言ってて、これはびっくりしました。大金持ちになる前の話だったんだ。

Part 3では、財団が原子力をもっと安全に利用する方法を開発していることが語られます。「えっ!」と思ったけど、こういう、ショックや悲しみに影響されず長い目でものを考えるのが、欧米というかユダヤの強さなのかなという気もしてきました。冷静にものを見ているつもりでも、原子力には爆弾や発電所の大事故の印象が強すぎて「絶対撤廃」以外考えられないと思っていたけど、実は撤廃するにも、使用済み燃料の処分は埋めたままでいいのか?例えばそこに大地震が起こったり隕石がぶつかったりしたら、核融合が再び起こって世界は滅亡するかもしれない、という問題が残ってる。少なくとも「使用済み核燃料の安全な処分」はこの先ずっと研究し続けるべきなんですよね。営利企業がやると株主にも一般イメージにもマイナスになる恐れがあるので、ビル&メリンダ財団が研究し続けてくれるのは、人類にとってありがたいことなんじゃないかと思います。

莫大なお金を様々な、人類に必要だけど誰もやりたがらない研究開発に使い続けることは、アメリカだけじゃなく世界中にソフトウェアを売って莫大な利益をあげた企業主としての使命感もあるのかもしれません。財団の困難な研究がいくつかでも、大成功を収めることを願っています。

フランソワ・トリュフォー監督「夜霧の恋人たち」2729本目

ロッテの新しいチョコレートか何かみたいなロマンチックなタイトルだけど、中身は全然ロマンチックじゃなくて、少し成長して女狂いになってしまったアントワーヌと美しいパリの女たち、でした。いつも思うけどフランス映画のヒロインたちって、なんで揃いも揃ってこう美しい、というか、完成度が高いんでしょうね。

しかし、仕事にも何にも興味を持たず、要領だけで立ち回っては入れ代わり立ち代わり女の尻ばかり追いかけてるアントワーヌには共感しにくいけど、まあそういう奴なんでしょう。

彼が憧れの「幻の夫人」に電報を送った「気送管」(プヌマティークって呼んでた)がなんか素敵でした。1984年まで実用されてたらしい。詰まったりしてメンテが大変だったんじゃないかなー。