映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

ヴィンセント・ミネリ監督「若草の頃」3010本目

この作品あんまり聞かないけど、「死ぬまでに見たい映画1001本」に載ってて、U-NEXTにあったので見てみます。ジュディ・ガーランドって朗らかなスター感と深みのある声のギャップが好きです。この作品ってさすがに髪型(女子がみんなかつての「ツッパリ」みたいにトサカ立ててる)や服装(みんなエプロンドレス)が古すぎると思ったら1901年のセントルイスが舞台か。といっても内容はきわめて普遍的なホームドラマ。制昨年が1944年で男たちは戦争に行ってたから、時代をあえてさかのぼったんだろうな。

この作品でミネリ監督とジュディが出会って結婚してライザ・ミネリが生まれたと。ライザとジュディっていまひとつ似てないと思ったら、ヴィンセント・ミネリがなかなかのギョロ目で、納得しました。(なんか失礼な言い方してしまってすみません、みなさんとても素敵です)

めちゃくちゃ生意気で目立ってる末の妹トゥーティを演じたマーガレット・オブライエンは美空ひばりと同い年で、「二人の瞳」って日本映画で共演してたんですね。

地味だけど、だんだん恋しい気持ちが高まっていく「ねずみが怖いから電気を消して回るのに付き合って」「男の子にしては力が強いのね」っていう場面とか、印象的でしたよね。

全体的には「アメリカの家父長制」ってタイトルにしてもいいんじゃないかと一瞬思ったけど、最後にパパが家庭をとって出世を振るあたり、家庭を大事にするイタリア系のミネリ監督らしさなのか、戦地の夫や兄をじりじり待ち続ける妻や娘、妹たちの慰めに作られた映画なのか…とか思いました。

若草の頃(字幕版)

若草の頃(字幕版)

  • ジュディ・ガーランド
Amazon

 

を感じさせる深い声が好き。

 

ミッジ・コスティン 監督「ようこそ映画音楽の世界へ」3009本目

私こういう、裏方のプロフェッショナルな人々の話って大好きです。表面に姿は現れないけど、たしかな技術と感覚で、作品を別物のように素晴らしくしてしまう、魔法使いみたいな人たち。私、はずかしながら映像制作会社にいたときに数分の番組を作らされたことがあったのですが、素材を集めてロケをやって映像編集を終えた時点で、部分的にミュージッククリップを使ってる部分やせりふがある部分にはどういう音が重なるかわかってるんだけど、そこからが音の人たちの出番。スタジオに音響効果さん(まさにこの映画の主人公)と入って、ピシッとかシュタッとか、あるべき音を足したりちょっとした音楽をつけてもらうと、突然、素材が映像に変わるんですよね。それにプロのナレーターさんの声を重ねると、もうそれは番組。(その後にテロップとか入れるんだけど)

ちょっとマニアックで、なんとなく理系のエンジニアっぽくて、見た目エンタメ業界の人に思えない落ち着いた雰囲気。素敵です。

 

映画の音ってものすごく大切で、やたら感傷的な音楽がどかどか乗ってるものは好きじゃないけど、このドキュメンタリーで取り上げられる人たちは特に鋭敏で革新的なので、がっかりするんじゃないかという心配は不要。(ブラック・パンサーは私にはちょっとウルサいかな)

特に印象に残ってるのは、なんといってもスター・ウォーズのライトセーバー、地獄の黙示録のヘリコプターの音、ROMAも確かにいろんな音が聞こえてくる面白い映画だったなぁ。などなど。マトリックス見直そうかなと思ったり。

こんな風に、映画のいろいろな部分を作る人たちのドキュメンタリーが作られるといいな。

 

セリーヌ・シアマ 監督「燃ゆる女の肖像」3008本目

やっとVODに降りてきた。フランス映画なのね。

先生を取り囲んで、キャンバスに彼女を描いている少女たち。教室の後ろに、暗くて美しい海の絵が見える。…この様式的で端正な美しさ、萩尾望都とかの時代の日本の少女マンガみたいですね。同性どうしで出会って恋に落ちる相手って、自分が黒髪なら相手はブロンド、という「自分にない美しさ」に惹かれるパターンをよく見るけど、これもそうです。お嬢様は知的ですこし奔放で、どこか野性的な美少女。浜辺にいたり、ハープシコードに向かっている二人の姿は、印象派の絵みたいです。「ピアノ・レッスン」の画面を思い出すな。

ドレス自体はみんなすごくシンプルで、四角いえりぐりから白いレースが覗いている同じデザインの無地のサテンの赤、緑、紺、などなど。

お嬢様は、「午後8時の訪問者」のヒロインのアデル・エネルだったのか。この家は、母親がいても女所帯だけど、画家とお嬢様とメイドの3人だけの5日間の暮らしが、なんともしずかに華やいでて、ずっとこの生活が続けばいいのにと思ってしまう。 メイドが刺しゅうする花びんの野花が素朴。

北欧とかアイルランドとかのような、無表情な美しさがあるけど、監督はイタリア系のフランス人なんだなぁ。

最後の、絵で語り、静かに泣き笑うっていう恋愛がすばらしく美しいですね。いままで映像で描かれたことがない愛情を描いた素晴らしい作品でした。

燃ゆる女の肖像(字幕版)

 

沖田修一監督「モヒカン故郷へ帰る」3007本目

こういうすっとぼけたテーマで撮らせたら、ほんと生き生きするなぁ、沖田監督。(大体いつもこんなのだけど)ひょうひょうとした離島出身のモヒカンに松田龍平でしょ。ちょっと可愛いけど「あたし頭わるいんで、ちょうどいいかなって」というカノジョに前田敦子。この子はこの辺の位置づけが定番になってきている。その父親、離島の学校の先生で熱烈なヤザワファンに柄本明、その妻がもたいまさこってのはできすぎ(笑)。よく見ると弟はいまや「チバミ」と可愛さ前回の千葉雄大。船でピザを宅配するだの、パンクアレンジでヤザワを吹奏楽部にやらせるだの。なんかもう、彼の作品は日本のいなか各地の民俗学だな。

オリジナル脚本で人間がしっかり描ける監督って強い。安心して見られるんだ。個人的には、是枝裕和のつぎに濱口竜介、そのつぎに沖田修一がくる、と思ってます。これからもがんばれ沖田監督。

 

沖田修一監督「おらおらでひとりいぐも」3006本目

原作は未読。沖田修一の映画なのでわりと期待して見てみました。

冒頭の先史時代のCGは、どんな制作会社のロゴかと思ったらこの映画のはじまりだった。もう、そこから、この映画はシリアスに見るもんじゃないと言われてるのと同じです。

好き嫌いあるだろうけど、私は”毛糸のチョッキ3人組”クドカン、青木崇高、濱田岳がかなり受けてしまった。田中裕子の若い頃が蒼井優というのも、なんとなく割とすっと入ってくる。この暮らしは孤独なのか?愉快なのか?両方、真実だろうな。年の割にしっかりしてるけど、どうにも危なっかしくもある。オレオレ詐欺なんてあいませんよ、と言えるのはすでに実はひっかかったからだし、彼女の豊かすぎる内面のイマジネーションは、認知のおとろえなんだろうかと不安もあおる。

沖田作品で唯一はまらなかったのが「モリのいる場所」だったんだけど(多分主題に対する思い入れが強すぎた)、それ以外は全部好きだな。

原作は「史上最年長から二番目の芥川賞受賞」で有名だけど、55歳で夫を亡くしたあと65歳で受賞。この主人公は65で夫を亡くして10年たった75歳だ。10年後の自分を見越したのか。夫に先立たれた妻はみんな生き生きして若々しいと聞くけど、昔の女性はひたすら夫に尽くして自由が何もなくて、夫の没後やっと自由を得るからなんだろうか。

田中裕子が黙って3人と過ごしているときのナレーションは蒼井優なんだよな。普遍的な桃子さんはいつも若い姿なんだろうか。

私としては自分の20年後を見越しながら見るべきなんだろうか。

お医者さんが原人になったあたり、とてもファンタジーというかマジック・リアリズム感があって、ああこの原作は多分わたしの好きな村田喜代子の仲間だな、原作読んでも多分好きだっただろうなと思いました。私も、心だけどっか飛んで行ってるようなグレイトでマジカルな老婆をめざして、老後までもうしばらく精進したいです。

 

カービー・ディック/エイミー・ジーリング監督「ウディ・アレンvsミア・ファロー」3005本目(KINENOTE未掲載)

U-NEXTにHBOの番組が入るということで、ドラマ見ないんで関係ないかなと思ってたけど、これは気になるので見てしまいました。2回シリーズのドキュメンタリー。ミア・ファローや彼女の長年の友人たち、養子たち、実際に被害を受けていた子を含めてさまざまな人たちの生々しい証言から、白黒が浮かび上がってきてしまいます。ウディ・アレンの映画は面白いんだ。でもこれを見ると彼は黒だといわざるをえない気がする。彼の作品の主人公はすべて、自分のおかしな妄想に突き動かされていて周囲が見えない。自分以外の誰の気持ちも考えることができない。彼自身が幼い少女たちに対してそうだったんだな、ということをなぞっているような映像でした。

それにしても、アメリカの少女たちのどれくらいが大人の男たちにおかされてきたんだろう。この映画に出てくるだけでも、ウディ・アレン以外の男性から被害を受けた人もいる。ほかの大人におかされたトラウマを持ちながら、未成年のときにウディ・アレンと付き合ってしまった女性もいる。のちに結婚したスン・イーもそうだ。怖いなぁ。。。なんか平安時代の少女婚みたい。よくわからないまま嫁がされること自体の是非をいうのは簡単じゃないと思うけど、「その後その男に一生愛されて幸せに暮らしました」が良いわけでもなく、だからといって女性の性の主体性だけにこだわりたくもないんだけど、なんかすっきりしない問題がある。

ここまでくると、多分ちょっと病気であるウディ・アレンという人が、じゃあ映画なんか作らないほうがいいのか、それとも彼にはその才能しかない、その才能に関しては秀でているのでやっぱり作ってもらったほうがいいんじゃないか、という点でも、もやもやしてくる。

人間って、社会って、ほんとうに複雑。簡単に割り切れる問題なんて実社会には存在しないんだ、ということを実感するばかりです。

ジェームズ・グレイ監督「ロスト・シティZ 失われた黄金都市」3004本目

インディ・ジョーンズの元になった実話と聞いて、巨岩が転がってくる洞窟とかを思い浮かべてしまった人(おそらく95%くらいいるのでは)は、あまりに地味で暗くて、拍子抜けしたことと思います。だって実話だから・・・

それにしても、中世?というくらい古めかしく貴族的な英国紳士・淑女たち。家柄とか、時代遅れ的な事情で探検に出たパーシー・フォーセットのいかだは、あっという間に仲間が原住民の矢に射抜かれて、ピラニアの住む川に墜落。抵抗する間もなくやられる場面が続くことにひたすら耐えて耐えて、(だから実話だってば、本当の辺境に楽しい大逆転とかあるわけないし)と最後まで見続けます。

私は高野秀行の本でこの原作を知ったんだけど、原作はパーシーの軌跡を追ってアマゾン入りした現代の探検家の本なので、映画を見るよりそっちを読めばワクワクがあったんだろうなぁ。すみません、この映画に関しては映画化された部分の認識を間違ってました。