映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

ウェス・クレイヴン監督「スクリーム」3159本目

なかなかスリリングで楽しめました。逃げても逃げても追ってくる。神出鬼没で、めげない犯人。こいつが怪しい?いや、あいつか?と思う人たちが片っ端からやられる。警察は肝心のときに来ない。もうこうなると持久戦だ。やがて犯人は興奮しすぎて隙を見せる…。

1996年か。「エルム街の悪夢」から12年後。ぱっと見、古さを感じないけど、ドリュー・バリモアが若いしメイクが古いかな。最近ホラー映画を見始めたおかげで、古典的作品もカルト作品も新鮮な目で味わうことができます。ホラー映画ってほんとにアイデア勝負だから、ホラー慣れしてない目で初見すれば驚けます。

ドリュー・バリモアがあまりにも早くやられてしまい、主役のお嬢ちゃんを演じてるネーヴ・キャンベルも可愛いいけど友達はなんと「グラインドハウス」のローズ・マッゴーワンじゃなのか。この作品で共演した朴訥な警官役のデヴィッド・アークエットと派手なレポーター役のコートニー・コックスは結婚したのか(離婚したけど)。

高校生のパーティとか大学生の寮とかで流行りそうな映画だった。こりゃー続編も作られるわ…。

ホラーの教室中級編にそろそろ入れたかな?私も…。

スクリーム (吹替版)

スクリーム (吹替版)

  • ネーヴ・キャンベル
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ジョセフ・ロージー監督「緑色の髪の少年」3158本目

タイトルとビジュアルに惹かれて視聴。(フランクリン・J・ハフナー監督の「ブラジルから来た少年」を思い出して期待)ジョセフ・ロージー監督の作品は「エヴァの香り」しか見たことない。イザベル・ユペール大先輩の「エルELLE」のリメイク元だと聞いて見てみたので、直近の作品のほうのインパクトが強くてちょっと印象が弱かったけど、「緑色の髪の少年」はとても印象的な作品でした。

賢そうな男の子を中心として、子どもらしいファンタジックなイマジネーションもありつつ、彼の経験の背景にある苦いできごとをたどっていく、ミステリアスな構成になっています。彼の髪が緑色の期間は短くて、冒頭は坊主頭だし途中まで普通の黒髪です。制作年度からして、この子の両親がロンドンで亡くなった経緯は戦争に関係がありそうだけど、あえて明確にしないのは、あくまでも「ある戦争による孤児」として一般化するのが映画の主旨だからかな。

牛乳屋や水道局が自分たちのせいじゃないと訴える場面、優しい先生が子どもたちに自分の髪の色を言わせてみる場面、孤児たちに励まされる場面、いじめっ子たちに捕まる場面など、それぞれが象徴的。そこから引き出されるのは、普遍的な差別ということの本質なのかな。(そう考えるのは、つい最近、茶色っぽい地毛を黒く染める、みたいなばかげた校則の撤廃を考える番組を見たからか)

いい大人たちに守られて、少年がこれからすくすくと育ちそうな感じでよかった。

この少年がその後デヴィッド・リンチとかのクセの強い映画にたくさん出るディーン・ストックウェルだとは(映画とは関係ないか)。

緑色の髪の少年(字幕版)

緑色の髪の少年(字幕版)

  • パット・オブライエン
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ゴア・ヴァービンスキー 監督「ザ・リング」3157本目

もう19年も前の作品らしい。ナオミ・ワッツが好きなので、今さらながら見てみます。(日本のオリジナル版はだいぶ前に見た、たぶん)

時間を空けてよかった。呪いのビデオは、今見ると(ナオミ・ワッツが出てるからかもしれないけど)デヴィッド・リンチのアート作品みたいに気持ち悪くてどこか美しい。馬、牧場、若くてきれいなナオミ・ワッツと、なんだか初めて見るデビッド・リンチのミステリアスな映画を見てるみたいで悪くないです。その後のビックリ箱かお化け屋敷みたいな、やたら刺激的な映画よりは見てて落ち着きます。今見るとだけど、ギレルモ・デル・トロがプロデュースした新人メキシコ映画作家の作品みたい。

ストーリーは知ってるけど、最後の最後まで意外と楽しめましたよ。

ザ・リング(字幕版)

ザ・リング(字幕版)

  • ナオミ・ワッツ
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ジョエル・コーエン監督「ミラーズ・クロッシング」3156本目

なんでこの映画を見てなかったんだろう?コーエン兄弟の傑作と言われてるらしいのに。実際、傑作でした。隙のないよくできた作品で、笑うか感動するか迷うような、人間の可笑しさを絶妙に描いています。

ガブリエル・バーンって他の映画で見ても(「ヘレディタリー」でひどい目にあう父親とか)注目してこなかったけど、この映画では完全無表情で頭の切れる男を完璧に演じてますね。彼は目立ちすぎてはいけない。喋りすぎてはいけない。基本的に自分のことは話さず、相手に突っ込むことで身を守っている。彼との対比で、ジョン・タトゥーロの最低な演技がまた完璧すぎて、俳優自身のことを嫌いになってしまいそうです。なんて演技がうまいんだ、この人たちは。イタリア系マフィアのボスの下世話さ、スティーブ・ブシェミの品のなさ(ほめてますよ!)。マーシャ・ゲイ・ハーデンはこれがデビュー作とは、なんて有能な。難しい役だと思いますよ…誰とでも寝るビッチだけどプライドを失わない。その後もあらゆる映画に出てますね…。

そして、この映画はアルバート・フィニー演じるレオに惚れる映画だ。おっさんなのになんて強くて敏捷なんだ!こういう、ちょろちょろと混ぜてくる意外性が面白さの琴線を刺激するんだよな。

で確かに市長秘書はフランシス・マクド―マンドだ。赤毛の短髪でマニキュア塗りながら受付してる…彼女らしさの対極だけど、はまっている。さすがだ。

ガブリエル・バーン演じる主役、クールなトムはレオに一目置いていたけど、欲しかったものは女だった、とまとめてしまうと途端に面白みがなくなるけど、それ以外はノンポリというか日和見だ。そうでないと映画が面白くならない。人や出来事に振り回されて、あっちに行ったりこっちに来たりしないとつまらない。そして、欲はないのに賭け事が好きで金がない。ダメすぎると見てる者が入り込めないし、クールすぎてもダメ。タランティーノ監督も映画好きの極みで、彼の場合エンタメに突き進んだけど、コーエン兄弟は彼らが思う「面白さ」(笑えるかどうかでも、盛り上がるかどうかでもない)を突き詰めようとするから、これみたいに玄人受けの作品ができちゃうのかもな…。この映画が好きな人は、私と同じような見方、楽しみ方をする「映画好き」なんだろうなと思ったのでした。

 

フランコ・ゼフィレッリ 監督「ブラザー・サン、シスター・ムーン」3155本目

なんとなくタイトルを覚えていた映画だけど、たまたま借りて読んだ山田詠美の小説の中でこの作品の中のセリフを引用してたのを見て、Amazonプライムで見つけて見てみました。イタリア映画だけど言語は英語。

最初、なんか美しいけどよく意味がわからない…と思ったけど、実際に存在したキリスト教の聖人の伝記だから、(ある程度現実味をもたせているとはいえ)象徴的な出来事をつないだ美しいおとぎ話のような体裁なわけですね。

ジュディ・ボウカー、なんて可愛いんでしょう。教会の腐敗というのは、どの宗派であっても、どの宗教であっても、世界のあちこちで起こっていることだと思います。でもそれ追及するのはすごく勇気が要る。フランチェスコの曇りのない明るい瞳、彼らに向かって自分を恥じるローマ法王アレック・ギネスの高潔な姿を見て、いいお話ってあるんだなぁとほっとしました。フランダースの犬的?

 

ジョエル&イーサン・コーエン監督「シリアスマン」3154本目

<結末にふれています>

久々に見る、コーエン兄弟監督作品。「ファーゴ」の監督だから、一見シリアスな作品でも、彼らは手を叩いて笑いながら作っている(と想像する。前に見たインタビュー映像から)。ちょっと変わった人や、誰かが困ってるところを、笑うというより”嗤う”のがこの兄弟の作品。ちょっと昭和なセンスで、日本でいえば「とんねるず」みたいな感じかな?悪いことが起こりそう、起こりそう、起こった、そのあとはいいことがあるといいな、いやなかった、さらに悪いことが…という成り行き。すべては濃密なユダヤ教とユダヤ文化の中で起こり、進んでいく。このコミュニティ体制、自分が中にいたら窮屈できつそうだな…。”妻の婚約者”の事故死は彼にとっては最悪の運命の回避だ。いろんなことが落ち着いてきたところで、最後に訪れたのは胸部レントゲン検査を今すぐ伝えたいという医者からの電話と、間近に迫りくる竜巻。いいことも悪いことも全部チャラにしてしまう事態が起こるのって(別の監督だけど「マグノリア」が印象的だったな)、重いし逃げ場がないけど、それでやっとすっきりする、という不思議な安堵感もある。という意味で、私はこの結末きらいじゃないです。

非ユダヤ人の歯の裏に「助けて」ととれるメッセージが彫り込まれていた事件、面白かった。一番冒頭の、生き返ったのか悪霊になったのかわからない昔の聖職者の話は、結局ナゾだったな…。

シリアスマン (字幕版)

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  • マイケル・スタールバーグ
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ケン・ローチ監督「エリックを探して」3153本目

ケン・ローチ監督(と、ダルデンヌ兄弟)の作品を見るときは、体調を整えてちょっと緊張しながら見る。空腹で見ちゃだめ、落ち込むから。でもこの作品は、ジャンルでいうとハートフルコメディ(なんとなくイケてない呼び方だけど)だった。

ダメダメな郵便配達のおっさんエリックは、自分と名前が同じサッカー選手のエリック・カントナの大ファン。ずっと愛している最初の妻と会わなければならなくなってパニックで自損事故を起こしてしまう。彼の立ち直りを応援する同僚が自己啓発本を読んだ影響で、自分の尊敬する人と話しているイメージを思い浮かべるようになり、彼の部屋にちょいちょいやってくる(想像の)カントナとの対話の中で、過去を振り返り、自分の弱さに初めて向き合うようになる。

エリック・カントナって割と早い時期に引退して俳優とかやってるんですね。どうりで演技がうまい。それにしても、超不器用なエリックおじさんが可愛いんだけど、イギリスの下層社会(と言っていいのかどうかわからないけど)の危うさというか、犯罪世界の近さも感じさせました。こんな風にいつも仲間が助け合えたらいいんだけどね~。ケン・ローチも、これは理想だとわかってるわけですが、たまにはいい気分で終わらせてくれて、ちょっと嬉しかったです。

エリックを探して [DVD]

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  • スティーヴ・エヴェッツ
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