映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

メル・ギブソン監督「アポカリプト」3278本目

メル・ギブソンってなんとなく、暴力を志向する人のように感じられて(良きにつけ悪しきにつけ)苦手分野なのですが、どこかで推薦されてたので見てみます。

マヤ文明が栄えた地域を改めて確認してみると、ユカタン半島が中心だから、メキシコの東の端とグアテマラ、ベリーズだ。メキシコシティのテオティワカン遺跡はマヤではなくてテオティワカン文明の遺跡らしい。かなりk表痛点があると思うけど、同一ではなくて”ご近所”ってことか。それとも、マヤ文明は一つの統一国家ではなくて群雄割拠だったらしいから、その中の一つと取ることもできるんだろうか。

彼らは白い人たちが来る前から、部族どうしでこんなに争ってたんだろうか。ブードゥーや魔術が使われたり、予言する少女がいたりしたんだろうか。敬虔なカトリックだというメル・ギブソンは、この映画をどんなつもりで作ったんだろう。ダイナミックな争い、赤黒い肌の人々の美しさ、など映画としての出来はとても良いと思うけど…マッドマックス(から派生した作品)だよね?と言いたくなる力と力のぶつかり合いそのものを楽しむ作品だから。

これでもか、これでもか、と畳みかける。味方も敵も、ひとすじなわでは死なない。うーむ、マッドマックス。見終わったあとは焼肉大盛でも食べてエネルギー補充しなきゃ…。

アポカリプト(字幕版)

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ジョニー・デップ監督「ザ・ブレイブ」3277本目

ジョニー・デップ(若い!)自身がメキシコ人の役だとは気づかなかった。解説を読むまでメキシコ人の中にいるアメリカ人っていう設定だと思い込んでた…。

マーロン・ブランドは薄汚れた老獪な男の役がはまってるけど、どうなんだろう。もっとひたすらお金に汚いだけの男でもよかった気もする。ネガティブな精神性を描こうとして彼の出番はすごく長くなってるけど、スカッと「金を出すから殺されてくれないか?」でもよかったんじゃないか。悪は凡庸なほうが最近はリアリティを感じるんだ…恐ろしいけどそれがリアルなのかも。全体的に、主役の心象風景を作ろうとしているけど、見ている人のスピード感とずれてきちゃってて、ちょっと冗長に感じてしまう。

ちょっと似たテーマでハビエル・バルデム主演の「ビューティフル」の方が痛々しくて胸に迫るものがあったような気がしました。

エドガー・ライト監督「ラスト・ナイト・イン・ソーホー」3276本目

<ネタバレあり>

そっか、「ベイビー・ドライバー」に続いて、クラシックなポップスの楽曲がそのままタイトルになってるんだな。

カウチ映画派の私でも、これは劇場で見たかったので、時間が作れてよかった。ビビり顏のヒロイン、エロイーズ(トーマシン・マッケンジー、ジョジョ・ラビットに出てたのか)に感情移入しすぎて映画館でずーっとビビりまくりながら見たので緊張したー。これこそが映画館で新作を見る醍醐味ですね。

エロイーズに相対するのは、「クイーンズ・ギャンビット」で愛嬌あふれるヒロインを演じたアーニャ・テイラー=ジョイ。似てないから別人格ってわかる設定の、チャーミングな二人。それぞれ本当にカワイイです。グランマ、下宿の家主、バーのオーナーもスウィンギン・ロンドンの女優たち。女子力高いよ監督。家主を演じたダイアナ・リグとバーのオーナーを演じたマーガレット・ノーランは撮影終了後に亡くなっているけど、二人とも癌の闘病中の出演だったみたい。人柄のいいボーイフレンド、最後までずっと彼女を見つめていてくれて、暖かい気持ちになれます。その辺も「ベイビー・ドライバー」に沿ってるのだ。

エドガー・ライトがこういうエンターテイメント性が高く、かつ高品質な映画を作り続けることは、イギリス映画界にとって重要だと思う。「ベイビー・ドライバー」で悪の一味の奴らが粛清されることについて、気の毒だと思う人はたぶんいなかっただろうと思う…映画だし。それと同じように、(少なくとも犯人から見て)粛清される必然性のあった悪=食い物にした男ども、という設定を受け入れて#MeTooの視点はあまり気にせずに、スウィンギン60sってことで見たいものです。(そうしないと、それだけで一晩中議論してしまいそう)

男たちの影は完全にフランシス・ベーコンの絵だったな。あと、テレンス・スタンプ翁のその後が心配でたまらない。「しばらく昏睡状態だったけど、エロイーズのファッションショーの後くらいに意識を回復した」くらいな感じでオチをつけてほしいところです。。

すごくスリリングでドキドキしながら見られて、主人公やまわりの人たちに共感できて、勧善懲悪すっきり感があり、美術や撮影技術が卓越している。という意味で一級のエンタメ映画といえるんじゃないかな、と思います。見に行ってよかった~~

たまたまだけど、太古の昔にカムデンマーケットで買ったセーターを久々に着ていったので気分出ました。

アニエス・ヴァルダ監督「幸福」3275本目

タイトル通りの、若くて美しい夫婦と可愛い子供たちの愛情あふれる時間から始まります。絵に描いたような幸福。…でも幸せってなんだっけ?

<ネタバレあります>

夫にとっての幸せは、愛する家族のほかに、素敵な女性との新しい出会いと恋にときめいているときだったのかな。妻を亡くして浮気相手に慰めを求めても、罪の重さから逃れられる日はたぶんない。

妻にとっては、理由を知らずに、輝いている夫を見ていた瞬間までが幸せだったんだろう。彼女と別れたらもっと夫を愛する、と笑顔で言ったけど、そんなこともう無理だった。幸福じゃない状態を予想して耐えられずにその先の時間を断ってしまった彼女が一番、幸福を意志的に選んだ人だったのかもしれない。

浮気相手は別れることもなく、後釜としておさまりそうな気配。でも最初から後ろめたさはあったし、この先一生それはついて回る。

幸せって…。

すごく(いやな表現だけど)女子力高いヌーベルバーグ、だった。赤裸々に描いたのは普通の女性の普通の感覚だから、広く受け入れられたんじゃないかな。

こんなに面白い、深い、作品を作ってたんだなぁ。もっと早く見ればよかった…。引き続きヴァルダ監督作品、見てみようと思います。

幸福~しあわせ~ (字幕版)

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アニエス・ヴァルダ監督「5時から7時までのクレオ」3274本目

ヌーヴェルバーグというと、なんだか小難しい最先端を気取った何かを見せられたらどうしようと思ってしまうけど、リアルな若い女性の夢や不安を率直に描いた好感触の作品でした。

冒頭、タロットカードだけはカラーで、それ以外は白黒。検査結果を恐れて、頼みの綱のタロットカード以外はすべて灰色に見える彼女の心象風景。一番かわいいドレスを着てカフェでコーヒーを飲んだり、素敵な帽子を買いに行ったり。若い女子の感覚が自然に出ていて、やっぱりこういう作品は女性監督にしか撮れないなぁと思う。

クレオを演じてるコリンヌ・マルシャン、可愛いですね。同性からも親しみを持たれそうなベビーフェイス。そして彼女は人気歌手で、お付きの人や取り巻きに囲まれた、誰もが憧れるような境遇にあることがわかってきます。だけど死んでしまったらみんなおしまい。いつか死ぬ、という恐れは老若男女、美醜や豊かさや賢さを問わず誰もが持つもの。

最後にクレオはチャーミングな軍人さんと、いつか来るその日を見据えながら、今までよりも希望に満ちた時間を過ごすのかな。そういうのを幸せっていうんじゃない?という実感にたどりつけたようでした。見終わってみて、意外なほど満足感のある作品でした。もっと早く見ればよかった。

5時から7時までのクレオ (字幕版)

 

ゲレオン・ヴェツェル 監督「世界一美しい本を作る男 シュタイデルとの旅」3273本目

この分野に関しては、シュタイデルさんが特別だとは思えない…本を作るときに紙やインクにこだわるのって、日本では割と普通じゃないか?私が作ってたDVDでも(本じゃないけど)「特色」インクを何色まで使えるとか、透明スリーブと紙スリーブの二重構造にするとか…思う色がどうしても出なくて何度も色校を出しなおしたり…なんてことが毎回だった。デザイナー本人と同じくらい、細かい良い仕事をする印刷屋さんがあって、付録ステッカーもいろいろ提案してくれたり…いろんなものを作った。

装丁に凝った単行本も、本屋に行けばたくさんある。「紙鑑定士の事件ファイル」って本は、設定上、本文の紙質が途中で何回も変わる凝った本だった。装丁家として著名な人が何人もいる。お菓子のパッケージひとつ取っても、見惚れて買ってしまうようなものばかりがデパ地下に並んでる。…同じような日本版のドキュメンタリーをAmazonやNetflixの出資で作って全世界に流してほしいなぁ。

アメリカイギリスのペーパーバックはとてもつまらないデザインだし、単行本もあまり魅力を感じないものが多いから、ドイツのこの装丁家が際立つのかな。

日本のどんな職人にも装丁家にも、重厚なヨーロッパの伝統に基づく装丁の本を作ることはできないけど、「iDUBAI」なら日本で作った方が品格+キッチュ感のあるものが作れる気がするのでした。

 

ホン・サンス監督「3人のアンヌ」3272本目

イザベル・ユペール…監督きっと好きなんだなぁ。冒頭に、ローカルで地道な韓国映画に出てくるような、ハングル丸文字でカラフルに書かれたペンションの看板。そこにどうやってユペール女史をはめるのか。

韓国の女性脚本家が、韓国にやってきたフランス人女性をモチーフにした脚本を3種類書いてみる。それを全部映像にしてみた。ユペール女史はいつもの彼女だけど、韓国のどこかの町に行ったらこうだろうな、という自然ないでたち。何かのきっかけで韓国の男性とお付き合いした、と言われても驚かない。

それぞれのエピソードに驚きや新鮮味があるわけじゃない割に、たてつけが実験的だけど、なんとなくまぁこれでいいのかな、と納得してしまいました。そんな映画。

3人のアンヌ(字幕版)

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  • イザベル・ユペール
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