映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

ヤン・シュヴァンクマイエル監督「オテサーネク 妄想の子供」3404本目

すごいなと思うけど「いいな」と思ったことのないシュヴァンクマイエル作品をまた見てしまうのは、”怖いもの見たさ”以外の何物でもない。木でできた赤ん坊って…「アネット」かよ!(ちょっと違う)

チェコスロバキアのスロバキアのほうは絵本の国、ファンタジーの国っていうイメージがある。国は二分されて、絵本の賞が有名なブラチスラバはスロバキアになったけど、これはその流れを汲むダーク・ファンタジーなんだろうか。露悪的だけど様式的。生々しいエグさではなく、現実より気持ち悪いものを生み出そうとする。(参考:「現実より残酷で怖くて美しいもの」を生み出そうとするのが、ギレルモ・デル・トロがプロデュースする中南米の映画、って私のなかでは分類してる)

とにかく食べる。鍋で煮くずれた何かを、食べて、食べて、また食べる。ホイップクリームを塗りたくったキュウリをむさぼっていたら想像妊娠する。木でできたオテサーネクには魂が宿るけど、彼は「食べる」以外何もしない。

・・・すごくヨーロッパ的な映像だけど、ふと、このストーリーは日本の民話にあってもおかしくないと思う。『子供ができない夫婦が川から桃を拾ってきたら(※違う)、恐ろしい怪物になって村人たちをどんどん食ってしまいました。おじいさんから必死で逃げていた少女は怪物と仲良くなって、餌を与え続けましたが、オテサーネクはつい空腹でキャベツを爆食い。怒った農家のおばさんがオテサーネクを退治したら、今までに食べたものたちが全部お腹から出てきました』

これ、普通の民話としてアニメ化したものが見てみたいな・・・。

オテサーネク (字幕版)

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  • ヴェロニカ・ジルコヴァー
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樋口真嗣 監督「シン・ウルトラマン」3403本目

<ネタバレご注意!>

いくつ続くんだ「シン・」シリーズ。でも盛り上がってるみたいなので、何度でも乗ります!・・・というわけで見てきました。

いろいろ笑えたなぁ。Twitterに流れてくるいろんな情報をすでに見てたけど、「巨大な桜井浩子」はそういう意味だったのね・・・。これは、やって良かった。最初のゴーストバスターズのマシュマロマンと同じくらいのインパクト。そもそも、今回の映画化、やたらめったらカメラが人物に寄ってますよね。ベルイマン「沈黙」かよ。人物の大きさ、近さは、それだけでものすごい圧迫感なのだ。大きくて美しい外星人と地球人。

映像よりセリフや文字に物語を語らせるのも、「シン・ゴジラ」からの流れだ。どれだけ俳優たちに暗記させるんだ。でも、戦後すぐの映画を見てると、日米問わず、とにかくセリフが多い。CGがなかったし技術が未発達だったから、というのもあるけど、あの頃の”しゃべくり漫才”みたいな、話芸といえそうなセリフ回しに圧倒されることも多かったので、あれを最新作に持ってくるのは一つのアイデアだと思う。人間のもつ声のパワーは強い。

今回のウルトラマンはタイマーの代わりに体色が変わる。カメレオンみたいだ。そして背中にトサカがなくてツルンとしてる。別に強そうに見えないけど、取っ組み合いで勝つタイプじゃないので、それで合ってる。顏はどこか神永に似てる気がする。私たちがよく知ってるウルトラマンより、宇宙人って感じだ。

中空に浮くゼットンの造形はエヴァンゲリオンを思い出す。いろいろ、いいものを組み合わせて全部のっけて作った映画なのだ。

テレビシリーズの最初からゾフィー、ゼットンまでをわずか112分にまとめたので、短い感じもするけど、現代のウルトラマン入門編か濃いダイジェストみたいで面白かったです。

フランク・リビエラ 監督「ステーキ・レボリューション」3402本目

昨日も病院で悪玉コレステロールをなんとかしろと言われたばかり・・・。衝動的にステーキをUBERしたりしないよう、食後に見ました。

まあまあ長く生きてきたので、神戸のとろける霜降りステーキも食べたし、フィレンツェで柔らかくて味のいい赤身のTボーンステーキを食べたこともある。この映画で紹介されているブルックリンのピーター・ルーガーにも行ったのだ。10年くらい前かな。その後東京にも支店ができたけど、値段を見たら一番安い2人用セットが18000円だ!この映画でちらっと映るブルックリンのメニューでは二人で90ドル。私が行ったときもそういう値段感だった。(だから行けた)出てきた肉が巨大で真っ黒焦げで引いたけど、カチカチなのは表面だけで、中の肉が柔らかくておいしかったのを覚えてる。

羽振りがよかった頃みたいなお金を食事にかけることはもうできないし、第一、血管が「やめてくれ~」と叫んでるので、次にステーキを食べるのはだいぶ先だな。

この映画では、世界各国で丹精込めて育てられているさまざまな牛や、丹精込めて焼かれているさまざまなステーキのことを見ることができて面白かったです。世界がどんなにフラットになったように見えても、土も草も人も牛もそれぞれの個性を持ち続けるのだ。

 

ダンカン・ジョーンズ監督「月に囚われた男」3401本目

<ネタバレあります>

この監督の「ミッション8ミニッツ」は見てたけど、デヴィッド・ボウイの息子の、あのゾーイだとは知らなかった。「8ミニッツ」も良くできた面白い作品だと思ったけど、これもまた引き込まれました。

サム・ロックウェルの、普通にやんちゃなところがいいですね。いい人でもあり悪い人でもある、近所にいそうな男。宇宙船のなかに妻でない女性がいたような場面では、「ソラリス」?って思ったけど、その星(月)には心象風景を具現化する沼はなかった。むしろエヴァンゲリオンの綾波・・・。

綾波がおっさんだったら?というより、月の基地にずっと作業を続けられる人間を置きたいときにどうすればいいか?という疑問から出たSF的な解答か。

サム・ロックウェルの心理的葛藤が、普通の男としてリアリティを感じさせました。結末は「多くを語らず」という感じだったけど、それより妻&娘のところにいた「パパ」が彼のオリジナルなのか、それとも別人なのかが、気になる・・・。

月に囚われた男 (字幕版)

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  • ケヴィン・スペイシー
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ケヴィン・カースレイク 監督「ジョーン・ジェット バッド・レピュテーション」3400本目

「ランナウェイズ」の映画は見たけどソロのジョーン・ジェットのドキュメンタリーは見てなかった。本物はやっぱりカッコいいわ・・・。

ランナウェイズは本当にいい音楽をやってたけど、下着姿はセンセーショナルすぎた。彼女が「アイ・ラヴ・ロックンロール」を出したときに素直に拍手喝采できなかったのは、「一発屋」っぽい曲だと思ったから。この映画で長年の彼女の音楽やそれ以外の活動を初めて知って、すごい女性だなぁと思っています。何ひょり、彼女はいつもどんな時も同じ顔をしてる。常に集中していて、ぶれない。何があっても誰に対しても態度や考えを変えない。こんな生き方に憧れる女性は多いだろうな。

ストイック。自分の夢とか語らないで、ロックのこと、守りたい人やもののことを語る。努力する自分の見方を自分でしていられる。自分のなかにいいサイクルがあるように見える。軍隊を応援するのは、敵になりうる国(同盟国だけど)の人間だし、戦争絶対反対なので気になるけど、体を張って戦ってる人たちを応援してると考えると理解できる部分もある。

うん、カッコよかった。

 

チューキアット・サックヴィーラクル 監督「デュー あの時の君とボク」3399本目

タイ沼にはまっている友達が家に遊びに来たので、「タイ・フェスティバル・ジャパン2022」というオンラインイベントが始まるまでの時間にこれを見ました。(見終わってからタイ料理食べに行った)BL多いな、タイ・・・。

で、この映画はむかしの日本のドラマ「高校教師」のようであり、「月の満ち欠け」(もうすぐ映画化予定らしい)のようでもあり・・・。お気楽に安心して見られるタイ映画だと思っていたら意外な切ない結末。元ネタが韓国だと聞いて、「なるほど」。(相手の性別が逆みたいですね)それにしても、韓流の勢力すごいです。それに続くタイ勢。日本はいつか、プロデュースして外貨を稼ぐほうに回ることはできるんだろうか・・・。

デュー あの時の君とボク(字幕版)

デュー あの時の君とボク(字幕版)

  • パワット・チットサワンディ
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深作欣二 監督「復活の日」3398本目

小松左京だしパンデミック関連だし、いつか見たいと思っていたらこれもU-NEXTに入ってたので見ました。

草刈正雄、まだ演技かたいな。見たことのあるハリウッド俳優たくさん出てるけど、ものっすご日本映画だな。南極ロケとマチュピチュロケ、すごすぎるな!

すごく豪華でお金のかかってる、テレビの単発ドラマのような映画でした。私たちはもうパンデミックを知ってしまっているので、「コンテイジョン」や「ブラインドネス」のようなリアリティ重視のドラマでも突っ込みを入れたくなってしまう。いわんや「復活の日」をや。スタッフも俳優も誰もパンデミックを知らなかった平和の中で作られたパニック映画だったんだな、とイノセントな時代を懐かしんでしまいます。

それにしても、南極ってツアーでも一人200万円ですよ。とにかくこのときの角川の財力に驚嘆しました。

復活の日

復活の日

  • 草刈正雄
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