映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

ジョセフ・コジンスキー監督「トップガン マーヴェリック」 3411本目

みんな盛り上がってるので、見に行ってきました。

感想をひとことで言うと、「まさに映画。これが映画」。

小さいころ映画ってこういうのだと思ってた。文句なしにカッコよくて(少しおっちょこちょいだけど)すごいヒーローと、セクシーで強い女性と、ちょっととっつきにくいけど本当はいい奴なライバルと、顔の見えない強い敵と、ちょっと意地悪だけど本当はいい奴なボス。何もかもうまくいきそうだと思ってたら、絶体絶命のピンチに遭遇して、命からがら逃げおせて、大団円で終わる。王道中の王道だ。みんなこういうのを見ようと思って、好きな子を誘って、ポップコーン買って映画館に行ったのだ。

そのスリルを本当らしく感じさせるために、映画の中の人たちはものすごく苦労したり工夫したりする。時には命を張る。その本気度を、見ている私たちが受け止める。

最初はそんな気持ちで映画を見てた私たちが、たくさん映画を見て、年を取るうちに感動のハードルばかり高くしてしまった。さらにすごい技術や意表を突くアイデア、トラウマになるような恐怖や不安、悲惨な現実とかにショックを受けて、それこそが本物の映画だと思いそうになってた。

映画は何よりまず、娯楽なのだ。デートで見に行ったあと、気まずくならないのが映画なのだ。

出演者を振り返ってみると、トム・クルーズだけでなくジェニファー・コネリー(ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカね)が素敵すぎ。「ルースター」は「セッション」でドラム対決した若者、「ハングマン」はガーンジー島へリリーを追いかけた軍人(上がった口角が印象的)、「アイスマン」本人のヴァル・キルマーは実際咽頭がんで今まで通りには発声できないのか。「サイクロン」ジョン・ハムはなんと「ベイビー・ドライバー」の凶悪な「バディ」か!

おまけで一言いうと(蛇足)、あまりのカッコよさにアメリカというか米軍のファンになってしまいそうな気持ちと、技術のない若者の肉弾戦で勝てると思ってた日本の甘さを痛感する気持ちで、自分の中の1割くらいはちょっと戸惑いますね。。

岡本喜八監督「暗黒街の顔役」3410本目

若い鶴田浩二と宝田明が兄弟。宝田明がジャズクラブで歌う歌もカッコいいです。

この頃の俳優って男性も女性もすごくクールで二枚目。三船敏郎、平田幹彦、白川由美、草笛光子(今とあまり違わないのがすごい。ずー--っとクールビューティ!)、佐藤允、ミッキー・カーティス、夏木陽介。

ただ、どうもみなさん熱くて一生懸命で、とても悪い人たちには見えません。お金に目がくらんで周囲の人たちを殺すとか思えない。アメリカ禁酒法時代を描いた映画みたいに、ギラギラと欲望をたぎらせた表情とか、たくさん血を吸った拳銃とか、そういう怖さがなくて、みんな目がキレイなんだ・・・。あんまり怖いのも苦手だけど、お茶の間で見てもOKなやくざ映画だなと思いました。

暗黒街の顔役

 

成瀬巳喜男 監督「山の音」3409本目

1954年の作品。私は娘時代の原節子の、悪い子の演技や怒った怖い顔が見たい。でもこの映画では冒頭から「いやぁねお父様、ウッフフフフフ」という、完成された”原節子美”を見せています。・・・えっこのお父様、実の父じゃなくて義理の父なの?で、夫は平然と愛人を作って家を空けることが多く、父もそれを苦々しく思っている(叱責しないあたりが、昔の日本だ)。

小津映画とも違うイヤな家。川端康成の原作のせいなのか、成瀬監督の演出なのか。妻は子を断念し、愛人は子を産む。

ラストの場面、新宿御苑のプラタナス並木のベンチで、山村聡が原節子に「息子と別れるのか・・・じゃあ私も妻と別れるから、私と結婚してくれないか」と言い出したらどうしよう、と一瞬思った。言うわけないけど。言わないけど、この映画はこの二人の映画だ。息子から「お父さんだって若いころは何もなかったわけじゃないでしょう」。なんとなくちょっとイヤらしいような、イヤらしいと思う自分の方がイヤらしいような、複雑な気持ちで誰も幸せにならない映画なのでした・・・。

山の音

山の音

  • 原節子
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フランク・ダラボン 監督「マジェスティック」3408本目

<ネタバレあり>

ジム・キャリーがコミカルな演技をしない作品には、だいたい期待します。(私は「エターナル・サンシャイン」がすごく好きなのだ)

これは、アメリカの郊外の普通の町で戦地へ旅立った地元の人気者の青年が、記憶を失って戻ってくる・・・という映画かと思って見ました。映画の最初の部分だけ、見始めてすぐ一瞬席を立ってしまって、見逃してた。(家で見てるとこういうことがある。)

途中から、どうも明らかに別人だなと思ったけど、どちらかというと町の人たちの視点で見られました。怪しいけど、信じたい。父親とおぼしい男性、恋人だった女性、他にもルークが大好きだった人たちが彼を取り囲んで、なんとか彼をルークだと信じようとする。

一方の脚本家ピートは、”赤狩り”でFBIに追われている。逃げてきたわけではないけど、捕まったらどんな目に遭うか・・・。

・・・これ、日本で映画化したらけっこう涙涙の物語になりそうなくらい、深刻ですよね、見方によっては。でも、だいたいの人たちが温かくてヒューマニティあふれていて、アメリカにはこういう良さもあったなと思い出させてくれます。無理のない、真摯な優しさ。世界中の人がみんな、自分の中のこういうあったかさを思い出して、大事にできたらな・・・と思いました。

 

R・J・カトラー 監督「ベルーシ」3407本目

ジョン・ベルーシ好きだったなぁ。なんともいえない愛嬌があった。ブルース・ブラザーズの最後に、黒いサングラスをずらして見せる目がとってもきれいだった。

奥さんや親せき、ダン・エイクロイド、ハロルド・ライミス(最初のゴースト・バスターズでトリオを組んでた)とかチェビー・チェイス(サタデー・ナイト・ライブのスター!)といった、最も彼に近くて彼を理解し、サポートしていた人たちがインタビューにたっぷり答えていて、とても濃い、親密な内容です。ビル・マーレイも加えた、若いころのSNLの映像まである。自分の若いころを思い出してるような気分で胸が熱くなる。

彼を知ったのは多分「ブルース・ブラザーズ」だから1980年だ。音楽の興味から見てみて、結果、アメリカのコメディシーンに圧倒された。初めてアメリカに旅行したのは1988年かな。ニューヨークのホテルのテレビでサタデー・ナイト・ライブを見て、狂喜して写真を撮ったけど、ブラウン管だからちゃんと写るはずもなかったっけ。。。

「スター」にどうしてみんな憧れるんだろう。どうして過剰な期待をして、自分自身の期待に押しつぶされてしまうんだろう。これは、薬物の問題だけとも言い切れないのかも。古今東西、大きな成功もどんづまりも、たくさんの人をおしつぶしてきた。彼が特に繊細とか弱かったとか思えないんだよな。

なんとも言えないけど、ベルーシに出会えてよかった。彼の茶目っ気が大好きでした。

BELUSHI ベルーシ(字幕版)

 

リサ・インモルディーノ・ヴリーランド 監督「ペギー・グッゲンハイム アートに恋した大富豪」3406本目

グッゲンハイム美術館のグッゲンハイムだ。でもニューヨークの美術館を作ったのはペギーじゃなくて伯父のソロモンらしい。あの美術館もユニークだけど、ユニークな姪がこんな強烈な一生を送っていたのか。

いちいちお付き合いしなくてもいいと思うけど、自分が本当に良いと思う作品を作る人たちに囲まれて、彼らを応援して生きていけたら素晴らしいだろうな。

私がもし大金持ちだったら。高い服や化粧品や食事にはあんまり興味ないけど、アートコレクションにはちょっと憧れる。(鑑識眼がないので、お金があったとしてもムリだけど)

ペギー・グッゲンハイム・コレクションがあるのはベネチア。1996年くらいに行ったけど、全然存在も知らなかった。自由時間の少ないツアーだったから仕方ないけど、シュールレアリスムはとても好きなので、いつかまたイタリアに行くことがあったら必ずこの美術館に行こう。

 

ジャッキー・モリス/デヴィッド・モリス監督「ヌレエフ-世界を変えたバレエ界の異端児-」3405本目(KINENOTE未掲載)

エンディングが感動的だ。ヌレエフがおそらく最盛期の頃に公開インタビュー番組に出演したときの、彼の登場で、鳴りやまない拍手に彼が陶然とした表情を浮かべる。その後はエンドロールとともに、この映画で取り上げたバレエ公演の映像ダイジェストを、出典のテロップとともに流す。これだけでも見る価値があります。

私はバレエはおろか、ダンス全般まったく知識も経験もないけど、きわめて洗練された踊りを見るのはどんなジャンルのものでも好きだ。バレエは特に、人間と思えないくらい、重たい肉体を軽々と扱う、現実離れした踊りだ。人の肉体はここまで、「美」の純粋概念に近づける。

ヌレエフには、セルゲイ・ポルーニンを知ったときに「ヌレエフの再来」と言われていたことで興味を持って、この映画でやっと実像が見えた。

すごく、肉体や精神に負担をかける踊りだと思う。でもこんな踊りができるなら、生活全部棒に振ってもいいような、そんな人生を送ってみたいような気もする。

ヌレエフと一緒に踊っていたマーゴ・フォンテインも素晴らしいですね。オードリー・ヘップバーンみたいな本物の貴婦人だ。映像が残っていたことに感謝します。