映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

沖田修一監督「さかなのこ」3484本目

沖田監督の作品は好きでよく見てます。公開初日に劇場で見たのは「映画の日」だから、もあるけど、去年1日だけこの映画のエキストラ撮影に参加したので、自分が映ってるのかどうか早く見てみたかったのが一番の理由です。

撮影時には監督名以外すべて伏せられていて、タイトルも不明だったので、まさかのんが「さかなクン」を演じていた!ということを知ったのは情報解禁の後でした。

その後、原作というかベースになったさかなクンの自伝を読んだので、雰囲気は想像してたけど、のんがさかなクンなのが合ってるような不思議なような、彼のペースに周囲の人たちが巻き込まれていく感じが自然なような、ちょっと引いちゃうような。。。忠実な映画化ではなく、かなり映画ファンタジー的に創作された作品だし、「少し戸惑いながら、彼の純真さを前にして誰もが心を開いてしまう」というのがこの作品のキモだと思うので、それで良いのかなと思います。

見終わって家に帰ってきてお茶を飲みながら、なんともいえず温かい気持ちになる。沖田作品の良さですよね。

さかなクンの小さい頃を演じた西村瑞季ちゃんが可愛いし、個性の強い俳優さんたちがみんな適当な役名をしれっと演じてるのもよかった。個人的には「青鬼さん」と呼ばれていた前原滉がすごく気になります。

で、私が映ってたかというと、判別可能な状態で数秒間映ってました。主役より手前を歩いてくる場面だったので、知り合いが見たら「あれ?エノキダさん?」って感じだと思います。(エキストラなのでもちろん何の演技もしてませんが)あの時期はヒマでしょうがなかったけど、最近わりと仕事が忙しくなってきたので、ふたたび何かのエキストラができるとしても、だいぶ先かな・・・。でも映画大好きな者としては、制作の現場を垣間見させていただけただけで感謝です。

(これをご覧になった方、もしまだでしたら、一度エキストラを経験されてみると面白いかもしれませんよ。)

クリント・イーストウッド監督「ルーキー」3483本目

<結末近くの内容にふれています>

クリント・イーストウッドの監督作品は片っ端から全部見る価値があると思うけど、これはそれに加えて、私の大好きなラウル・ジュリア(いつ見てもギョロ目)が出演していて、しかも明日でU-NEXTでの提供が終わるというので、急いで見てみます。

ラウル・ジュリアとトニー・レオンは、私から見て、世界二大「”愛してる”が本気に聞こえる男」なんですよ。ラウル・ジュリアの方は、敵に回せば「愛してる」って言いながら撃ってくる場面も想像できるけど、恋人や夫でなく、父親でも弟でもいいから身内にいてほしい、愛情深い男性です。(というイメージ)

で、この映画。ストーリーだけ見ると、どこか既視感があってあまり面白そうじゃないんだけど、やっぱり見せますね、イーストウッド監督。お坊ちゃんっぽいルーキー(マーティン・シーン)がスーツを脱いで本性を現していくのが痛快。囚われたままのニック(イーストウッド)を救うために、デタラメに敵の手の者を襲う。火をつける。妻を助けるためにがむしゃらに走る。そして、彼のトラウマの斜め上を行く、爆発寸前のビルから車で飛び出す場面。無事着地したとも言えないけど、無傷で逃れられたのを見て、トラウマから解放されて観客はスカッとする。

そこからどういうわけか(観客が納得しながら見られるように、ちゃんと練られてる)ニックの身代金を預かった奴を、逃げ出したニックとルーキーが追う。それを警察が追いながら戸惑うのが愉快。

金を受け渡す男が当然撃たれて、ニックとルーキーが見つかって銃撃戦。トランクが壊れて金が散乱、ニックとルーキーは飛行機にひかれそうになり、最後は飛行機どうしが(地上で)ぶつかって炎上。こんなの初めて見た!

追いつめられたストロム(ラウル・ジュリア)とニックが荷物室から「預入荷物受け取り」のベルトコンベアへ走り上ってくるのもいい絵だ。

昇進してしまったニックが急に貫禄を見せるのも可笑しいし、ルーキーが新パートナーを追い出す「既視感芸」、よしもとのギャグのようです。

イーストウッド監督はほんと、こういう小ネタで観客を喜ばせるのがうまい。最後に大きなデスクで葉巻をくわえて笑う笑顔が誰かに似てると思ったら・・・所ジョージ・・・似てる?

ポール・トーマス・アンダーソン監督「マグノリア」3482本目

<結末にふれています>

最新作の「リコリス・ピザ」を見たら、改めてこれが見たくなった。あの映画で、私はこんな感想を書いた。

『この監督のほかの作品は重いものも多いけど、どれも”どうしようもない人間のサガ、あるいは運命”を描いてるように思える。この作品では、年齢差も性格の違いも、お互いの欠点も、他の魅力的な異性たちも乗り越えてしまう二人を描いたのかなぁと思ってる。理性にも親にも他の誰にも止められない。』

一方のこの作品。監督が運命を描く人だと私に刷り込んだのはこの作品。強烈に不吉な運命論的な作品なのになんだか明るい。運命の存在を信じ、かつ、しれっと受け入れる覚悟でいる。

何かに巻き込まれている警官とジャンキーの女性。女を落とす方法を教えて儲けてるカリスマ伝道師と、死の床にあるその父。錯乱するその若い妻。昔の天才少年。クイズ番組で倒れる余命わずかな司会者。おしっこを漏らして答えられなくなった現在の天才少年。

ずっと、静かなお葬式みたいな音楽が流れているのが「バッドエンディング・フラグ」なので、なんだかいたたまれない気持ちのまま、引き込まれて見入ってしまいます。

胸が詰まるような状況に陥った全員が、ふと同じ歌を口ずさみはじめる。・・・この間見た「龍とそばかすの姫」は、すごくいいとは思わなかったけど、ネット上に広がる膨大な数のユーザーたちがリアルに歌いだした場面はすごく好きだった。言葉でも気持ちでも通じ合えない人たちでも同じ歌は歌える。雨が降って歌を口ずさんで、ここからこの映画はテンションを下げていく。

最終章は「カエル落ち」のあとにもうひとくさりあったんだな。最初に見たときは、カエルまでずっと緊張して見てたけど、この「最後のひとくさり」大事だな。「何を赦すか、それが大事だ」と警官が言う。

エンディングの楽曲で歌詞がよく聞こえるようにしながら、各場面の人たちを追うのって、この頃のアメリカのテレビドラマみたいだな。優しくて好きだった。今もアメリカのドラマはこんな感じなんだろうか。

愛の伝道師の父アール・パートリッジを演じたジェイソン・ロバーズは2000年没。余命わずかな司会者を演じたフィリップ・ベイカー・ホールは2022年6月に亡くなってた。フィリップ・シーモア・ホフマンが亡くなったのは2014年だった。

トム・クルーズは史上最低の役だけど、最高の演技だったなぁ。説明できないけど、やっぱりこの映画は名作だと思う。

ドミニク・セナ 監督「ソードフィッシュ」3481本目

21年も前の作品か。みんな見た目変わらないなぁ。

昔の007シリーズを2本見たばかりだからか、音楽がそれっぽいからか、イメージと違ってスパイ映画のような感じを受ける。それから、ジョン・トラボルタ、ヒュー・ジャックマン、ハル・ベリーは既にあるイメージに沿った役柄なのか、それともあえて裏切ってるのか、と考えながら見始める。・・・やっぱり、ジョン・トラボルタが知能犯の首領には見えないし、ヒュー・ジャックマンもハッカーというより用心棒に見える。

それにつけても、爆破とか車が突っ込む場面は迫力がありますね。無計画にためらいなく破壊する感じで。

どんでん返しが続くといえば続くけど、ホットケーキを何度も裏返しているみたいな軽さで、恨みつらみとか積年の思いとかはないし、くるくる回って面白いなと思っていたら終わる、という感じだったなぁ・・・。

ソードフィッシュ (字幕版)

ソードフィッシュ (字幕版)

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ダニー・ガルシア 監督「SAD VACATION ラストデイズ・オブ・シド&ナンシー」3480本目

このテーマの作品、けっこう見てるな。アレックス・コックスの「シド・アンド・ナンシー」、レック・コワルスキーの「D.O.A.」。

ナンシーが20歳で亡くなったのは1978年、シドは21歳で翌年亡くなった。安全ピンや破れたTシャツの”ロンドン・パンク”が終わったのはその時期だと思う。音楽でなにかを表現しようとした、彼の少し前の世代の人たちと違って、彼らはパンクかっこいい、自分たちもパンクになって爆発したい、と思って集まってきた子たちだった。パンクを売り出した人たちが、ドラッグや酒や暴言や暴力をその魅力として宣伝して、きちんと楽曲を作ったり楽器を練習したりする場面は彼らには見えないままだったから、パンクスになったらドラッグで若くして死ぬんだと思って彼らは飛び込んでいった。

誰が誰を殺したのか殺さなかったのか、彼らが生き延びていたらどんな大人になったのか。正直、私はこの二人はあまり清潔感のないジャンキーたちだと思ってたけど、ニューヨークのナンシーの友人たちは彼女が知的だったというし、ロンドンのシドの友人たちはシドがいい奴だったという。そういう話が聞けたのは良かった。

それにつけても、彼らはパンク・ムーヴメントの最後に花火みたいに爆発して燃え尽きて、幸せだったんじゃないかという気がしてしまうんだよな。生命が長いことはなんで「いいこと」とされてるんだろう。自然に生きてるものを断ち切るのは良くないと思うけど、彼らは長く生きようなんて1ミリも思ってなかっただろうし、これが彼らの寿命だったんじゃないかとも思う。今はもう、ロンドンパンクシーン関係者や当時の熱烈なファン以外は忘れかけているかもしれない。天国だか地獄だかで、二人はきっと仲良く暮らしてるんじゃないかなという気がします。

 

デイビッド・イェーツ 監督「ファンタスティック・ビーストとダンブルドアの秘密」3479本目

<ネタバレあります>

以前出かけたとき、行きのJALの機内で途中まで見て、帰りに続きを見ようとしたら映画システムのない機材だった。後日ANAで映画が見られる機材だったのにこの映画は載ってなかった・・・。やっとVODで見られて嬉しい。

ジュード・ロウと相対するマッツ・ミケルセンがまた違うタイプのクールな存在感で、緊張感を高めます。BLと考えるとジョニー・デップよりこの組み合わせのほうがゾクっときます。(すみません、なんか俗っぽくて)

キリン?チリン?(むしろバンビの仲間に見える)と、唯一のマグルであるジェイコブの純真さがこの作品の中心線で、邪悪の親玉グリンデルワルドが一応は滅びるんだけど、最後の結婚パーティは何を意味するのか。ジェイコブとクイニ-が結ばれてできた子どもがまた結婚して、その子どもあたりがハリー・ポッター、という流れになったりしたら面白いのに・・・と思ったけど、ハリーの来歴を見るとちょっと無理筋かなぁ。

それにしても良い、エディ・レッドメイン。これほどフレッシュな、まるで新人のような演技を長年続けられるなんて、いったい彼の普段の姿はどんな人なんだろう。

私はハリポタシリーズもファンビシリーズも楽しく見てるんだけど、戦闘シーンはハリポタのほうが、子どもたちが戦ってるのがいたいけで、なんだか心配になってしまって、見入ってしまうんですよ。その分、今回も一部、集中力が散漫になったところがありました。

でも続きが楽しみです。

 

ケネス・ブラナー監督「ベルファスト」3478本目

冒頭に流れる歌がパワフルで、ヴァン・モリソンみたい、と思ったら当人だった。ちょっと声が細くなったな。頑固で純粋な彼のキャラクターが北アイルランドらしさなのかな。

広がるヨーロッパらしい風景、まだ見ぬベルファスト。言葉はアイルランドなまりで、「アイルランド人」たちとの違いは私には何もわからない。世界中にいるアイルランド系の人たちは、冒険心だけで海外へ散ったんじゃなくて、宗教闘争を避けた人が多いんだろうか。

昔、ボニーMの「ベルファスト」っていうヘビーな曲があって、ディスコヒットのイメージだったけど、調べてみたらあれもプロテストソングだな。しかしプロデューサーが西ドイツ、メンバーはオランダ領のカリブ海諸島などから集められていてインタビューはスペイン語、唯一の男性メンバーは実は歌ってなくてあの声はプロデューサーだった、とか、なんか調べれば調べるほど頭が混乱してくる。小学生の私が戸惑うほどセクシュアルだったけど、当時バカ売れしてたなぁ(このくらいでこの話は止めなければ)

さて。この映画はアルフォンソ・キュアロン「ROMA」と同一ジャンルだ。すごい良いんだけどこんなにノスタルジックでいいんだろうか。どうも、ケネス・ブラナー監督作品って、「オリエント急行」も「ナイル殺人事件」も、私にはほんの少し「盛りすぎ」なんだ。シェイクスピアを子ども用に演出してるみたいに、わかりやすい盛り上がりを作り過ぎてて、腹にドカンとこない。。。映画を3000本も見たおばちゃんだからそう感じるんだろうな、きっと。

またUKに行けたら、リバプールとベルファストには絶対行きたいな・・・。