映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

ジョン・ダウアー 監督「LIVE FOREVER」3525本目

久々にTSUTAYA宅配レンタルのサイトを見たら「旧作1枚39円」となっていたのでレンタル。これで「借りたいリスト」が空っぽになった(品薄で借りられないものを除く)。

これは1990年代のブリットポップと当時の英国に焦点を当てたドキュメンタリーなんだけど、なんか胸にチクチクくる。痛くて涙が出そう。私が胸を熱くした英国と、その後の空白。ロンドンに半年滞在した1992年にはストーン・ローゼスが既にいたけど、ブラーとオアシスはまだビッグじゃなかった。あんなに好きで、帰りたくなくて泣いたのに、あのロンドンからこんなに遠ざかってしまった。・・・でも若い頃の憧れから遠ざかる方が普通だろうな、結婚して子どもを産んで育てて、20年後にやっと一息ついてる頃だ。

「トレインスポッティング」や第一回フジロックを同僚と見に行ったのはわずか4、5年後の1996~7年なのに、この間にアメリカの会社に転職してインターネットを始めて、自分の時代は大きく変わった。便利でリッチで孤独でもう何にもときめかない生活。この映画の最後に、キッズのダンスグループが売れ始めたことにノエルもデイモンも触れていて、時代が変わったのは私だけじゃなかった、と当たり前だけど実感。誰にでも一番好きな時代があるんだろうけど、どの時代も永遠には続かない・・・。

このドキュメンタリーが作られたのは、1990年代の音楽がまだ完全には死んでなかった2002年。この時にこの記録を残しておいてくれてよかった、と思います。

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もう買うべきだし、そうするとさんざんお世話になったTSUTAYA DISCUSを利用することもなくなるんだろうか。

 

ミケル・ノガール 監督「特捜部Q キジ殺し」3524本目

<ネタバレあります>

なぜかU-NEXTでこれだけ見つからなかったのでAmazonプライムで見ました。

シリーズ2作目。猟奇的に見えた少女キミーが長期間にわたって姿を消して地下生活を送るのがピンとこないし、肝心の警官の子どもたちが殺害された動機やその状況がわからないまま話が進むし、警官はほんとに自殺なのかな、という点も疑われないまま。疑わしい状況を山ほど提示しておいて、映画進行の都合上関係のある点だけをつまんでつないでいっただけだったので、「?」「?」という感じでした。大金持ちのエリート青年の妻がキミーに見えたりもして、混乱しがち。

意味深な「キジ殺し」というタイトルの意味するものもわからなかった・・・。集中力が足りなかったのかな・・・。

特捜部Q キジ殺し(字幕版)

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ミケル・ノルガード 監督「特捜部Q 檻の中の女」3523本目

北欧に太陽はないのか。とか言いたくなるくらい、ひたすら暗い画面。デンマークとノルウェーを舞台に、地元出身の刑事とイスラム系の記録係が独自捜査を続けて真実にたどりつく、というシリーズの第一弾。だいたいどれも、陰鬱な積年の怨恨が動機だし殺害方法も残酷。でも見てるうちにすぐに、この陰鬱さを楽しめるようになるのが不思議だ。小説を読んでると陰鬱さに滅入るんだけど、映画だと大丈夫。(アーナルデュル・インドリタソンとか何冊か読んだ)これって文章から広げる自分の想像力が陰湿すぎるってことかな・・・

1作目は、陰鬱だけどはみだし刑事たちが記録室で見つけた未解決事件を苦労しながら解いていくのが面白くて、さっそく2作目も見てみようと思います。(テーマは昔のドラマ「ケイゾク」だよね)

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ジョージ・ロイ・ヒル 監督「スローターハウス5」3522本目

久しぶりに今敏監督の「妄想代理人」を見ていたら、彼が影響を受けたというこの作品を見てみたくなりました。

先にあらすじを読んでよかった。戦場の最前線、塹壕の後ろで敵とけん制し合っている若い男が、目を閉じると新妻と二人きりで部屋にいる。また目を閉じると今度は捕虜になっていて、隊列になって歩かされている。この映画の構成は「厳しい戦線の現実から逃避するために兵士は新妻との甘い生活を夢見ては、現実に引き戻される」なんじゃないかと、早くも勝手に収拾をつけたくなる。でも今敏のFavoriteってことは、そんなに簡単にはいかない。日本式マジック・リアリズム、現実と非現実との融合を愛する彼が好むこの作品にはおそらく、論理で納得できる結末はないはず。

見てるうちに、あまりにシームレスに普通に時空を飛び越えて遠くの星にまでぶっ飛んでしまって現地のリアリティショー(トゥルーマンショーみたいな)だか動物園だかの見世物になったりするので、これは映画「メッセージ」(つまり原作のテッド・チャン「あなたの人生の物語」にも)に近いと気づく。”The world is a collection of moments”とビリーは言う。時空は大きく1つで、未来も過去も遠くも近くも自分の中にある。始まりと終わりはない、あるいは、始まりも終わりも知っている。なんて変な面白い作品なんだ。人間にまだ一番わからないものが「時間」だもんな・・・。

ジョージ・ロイ・ヒル監督の他の作品(「明日に向かって撃て」とか「スティング」とか)とあまりに違うと思ったら、原作がカート・ヴォネガットなのね。この時空観が後世の作品に影響したんだな・・・。

ぱっと見それほど惹かれないし、見てても半分くらいは普通なのに、終盤になって急に、すごいものを見せられてる気がしてくる。

見てよかったです!

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ザイダ・バリルート監督「TOVE/トーベ」3521本目

なんとなく既視感があるのは「リンドグレーン」を見たからだな。

第二次大戦前に生まれて戦禍を経験したトーベは、自由を信じて自由を実践する大人になる。

「ムーミン」って童話というより哲学書のようで、「星の王子様」やピーナッツなんかもそうだけど、自分が子供の頃から見てきたものって、ものすごく偉大なる人が作った難解で奥の深いものだという認識を疑うことができない。この映画のようなチャキチャキしたお嬢ちゃんが作り出したものだと聞いても、神の宿る天使みたいな人だったのかな、とまず考える。(正解はないけどね)

戦禍を知った上で自由を信じる。自分を枠にはめるものをスルーする。人に出会い、愛することを恐れない。・・・私と対極のようで、理想のようでもある。せっかく独身なのに、なんで私は女性とつきあってみないんだろう?と変なことを考えたりする。

でも、いくら精神が自由になっても、独占欲もまた天性のものだ。彼女は彼女を愛したけど、彼女は彼女のものにはならず、彼女は少し大人になるしかない。みんなの独占欲をルールで整理してケンカを減らすために結婚というシステムができたんだろう。

一見、子どものように見える人が、深遠な真理をつぶやくことがある。傍若無人で天衣無縫な人こそ、大人のように考えて子どものように振舞える、野生の神の子なのかなー。(理性あふれる普段の私は、そうでも考えないと彼女の奔放さを受け入れられない のと、自分自身がそうなって楽になりたい、という気持ちがこう考える裏にある気がするな。)

常識的な大人として社会生活を送りながら、芸術に本性をぶつけられたら。私に絵が描けたら、詩が書けたら。など考えるのでした。

TOVE/トーベ(字幕版)

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トマス・ヴィンターベア 監督「アナザーラウンド」3520本目

酒は百薬の長・・・なわけないだろ!

この間「ファンタスティックビースト」で見たマッツ・ミケルセンが何かをラッパ飲みしてるサムネイルが気になって、見てみることにしました。酒を飲んだ方が仕事の効率が上がるだって?なんとなくアイルランドとかタスマニアとかの戦前の労働者の話みたいだけど(偏見というより観光で行ったとき飲みながら仕事をしてたって話を聞いた)、デンマークの話なんだよな。・・・えっ違うの。彼らは学校の先生なのか。うまく生徒たちを載せられず、飲んで授業を行うことにしたって?無茶な・・・。

マッツ・ミケルセンって、ちゃんとおっさんで、全然若作りしてないんだけど、おじさんの魅力があふれてるのってなんでだろう。どうやったらグレイヘアでしわがたくさんあっても魅力的でいられるのか・・・。(だからといって彼が「イケオジの勧め」なんて本を書いたりしたら腹立ちそう)

毎日昼間から飲んでる彼らと「アル中」との違いは、彼らは夜8時以降は飲まないことか。しかし「実験」がエスカレートして血中濃度がアップしている彼らは完全にヤバい人だし、どう見ても夜も飲んでる。依存する者が現れ、破滅が訪れる・・・。

と、あらすじを書くと、すごく普通の依存症の悲劇の映画みたいだけど、見終わってみるとやっぱり「酒の効用」がいちばん頭に残るのが不思議。私も少女のころ、バンドのライブで緊張しすぎるので必ずステージ袖で何か飲んでたよな・・・。何飲んでたんだろう。未成年だからきっと養命酒でも飲んでたんだろう(棒読み)

アナザーラウンド(字幕版)

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ルイーズ・オズモンド 監督「ヴァーサス/ケン・ローチ映画と人生」3519本目

ケン・ローチに対して、リスペクトがある一方、そうは言ってもオックスフォードを出てBBCの社員になった人でしょう?という穿った気持ちも少しあった。この作品の中で、BBCがチャンネルを増やした時に増員が必要になって、労働者階級の人たちもたくさん雇われたという話が出た。本物の労働者階級だった。(父親が保守党を推してたという話もあったけど)、オックスフォードで初めて階級の違いを意識した、という話はとてもリアルだ。

じいさんになった「ケス」の少年が当時のことを語ってたり。ローチ自身が事故で息子を失ったときのことを思い出したり。彼が”頭で演じる”、彼自身が使わないタイプの役者だったと妻が語ってたり。

「ケス」や「麦の穂を揺らす風」の一部を見ながら、それらの作品を見たときに感じた辛さを思い出して、気持ちが弱ってしまいそうになる。

改めて、私はどっちなんだろうと考える。長年好きな英国は、昔貴族が建てた立派な建物の前で、労働者階級のミュージシャンたちがロンドンなまりで歌を歌う英国だ。幸福な旅行者にすぎない私は「どっちも好き」と言える。ケン・ローチは保守党支持の労働者階級出身のオックスフォード卒業生でBBCの社員だったけど、どこかで自分のポジションを確固として固めたのだ。私が知りたかったのは、こういうことだった。

彼を本当に知る上ですごくいいドキュメンタリーだと思うんだけど、なんでこんなに平均評点が低いんだろうなぁ?