映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

ジョージ・ロイ・ヒル 監督「スローターハウス5」3522本目

久しぶりに今敏監督の「妄想代理人」を見ていたら、彼が影響を受けたというこの作品を見てみたくなりました。

先にあらすじを読んでよかった。戦場の最前線、塹壕の後ろで敵とけん制し合っている若い男が、目を閉じると新妻と二人きりで部屋にいる。また目を閉じると今度は捕虜になっていて、隊列になって歩かされている。この映画の構成は「厳しい戦線の現実から逃避するために兵士は新妻との甘い生活を夢見ては、現実に引き戻される」なんじゃないかと、早くも勝手に収拾をつけたくなる。でも今敏のFavoriteってことは、そんなに簡単にはいかない。日本式マジック・リアリズム、現実と非現実との融合を愛する彼が好むこの作品にはおそらく、論理で納得できる結末はないはず。

見てるうちに、あまりにシームレスに普通に時空を飛び越えて遠くの星にまでぶっ飛んでしまって現地のリアリティショー(トゥルーマンショーみたいな)だか動物園だかの見世物になったりするので、これは映画「メッセージ」(つまり原作のテッド・チャン「あなたの人生の物語」にも)に近いと気づく。”The world is a collection of moments”とビリーは言う。時空は大きく1つで、未来も過去も遠くも近くも自分の中にある。始まりと終わりはない、あるいは、始まりも終わりも知っている。なんて変な面白い作品なんだ。人間にまだ一番わからないものが「時間」だもんな・・・。

ジョージ・ロイ・ヒル監督の他の作品(「明日に向かって撃て」とか「スティング」とか)とあまりに違うと思ったら、原作がカート・ヴォネガットなのね。この時空観が後世の作品に影響したんだな・・・。

ぱっと見それほど惹かれないし、見てても半分くらいは普通なのに、終盤になって急に、すごいものを見せられてる気がしてくる。

見てよかったです!

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