映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

佛田洋 監督「スーパー戦闘 純烈ジャー」3837本目

なぜ?と思われるだろうなぁ。実は先日、とある筋のご招待をいただいて、純烈のライブを見てきたんですよ。テレビで見るよりさらにスタイルが良くて、大人なジェントルメンで、とても印象が良かったです。ムード歌謡のファンではないけど(むしろ元パンクス)。

スタイルがいいというのは、平均身長183㎝だとかで、普通のアイドルと縮尺が違う。少女マンガみたいな頭:胴体:脚の比率です。で、この人たちどういうメンバーなんだっけ?と調べたら、リーダーは「あばれはっちゃく」→戦隊ヒーローとのこと。U-NEXTならすぐに見られるTVシリーズを見てみたら、とにかく痩せててキャラは「あばれはっちゃく」に近い。で、いつも笑顔のボーカルはどういう人かと思ったら、この人も別の戦隊ヒーローだ。またU-NEXTで当時の映像を見ると、今よりさらに初々しい。でもその時彼は、力士…力士!?をケガでやめたばかりだったとのこと。一番優男がすもうとりってどういうことだ。もしケガをせずに続けてたら、イケメン力士として売れて、歌もけっこううまいよとか言ってCDも出したりしてたんじゃないだろうか。

で、LiLiCoと結婚して純烈をやめた人は戦隊ではなく元仮面ライダーだった。(その「仮面ライダー龍騎」は4人くらい同時にライダーがいたようで、戦隊ものともいえる)普段は弁護士という、割に知的で大人っぽいヒーローでした。ここまで3人、ヒーローの頃はかなり面影がないです。リーダーとリリコ夫は今はおだやかで優しげだけど、当時は全然。痩せてとんがった若造たちって感じでした。

リリコ夫が辞めたあとに加入した人は、この映画のときは悪役として登場。(メンバー交代はこのあと)で、残りの一人は大学を出てそのままメンバーになったらしい。(その彼が元AKBの横山由依と熱烈交際中とのこと。否定してませんでした)

以上、恒例の出演者ウォッチでした。(恒例なのか)

で、実際戦隊ヒーローである彼らが中年に差し掛かってどんな映画を作ったのかというと、歌謡曲の世界に戦隊とギャグを持ち込んだコメディ、ですかね。バカバカしいくらい、いろいろ盛り込んでるのはとても良いのですが、「跳んで埼玉」のように大笑いできないのは、ファンじゃないからか・・・?前川清も小林幸子も、なかなかのコメディアン/コメディエンヌなのですが。これ多分、紅白歌合戦の幕間の余興とか、昔ならお正月の「かくし芸大会」、ドリフの舞台上のドラマ、とかなら、内輪受けとはいえけっこう受けるかも。

確かに、戦隊経験者のみなさんはそれなりにヒーローポーズが決まる。リーダーの”出べそ”つきのビール腹は、あえての露出かな。イケメンが中年になって太っても、なんか可愛いでしょ。ということなら、可愛く見えないこともないです。

思うに、純烈というコンセプトや存在感はとても新しくてニッチで、どこへ行って何をしても彼らはそれだけでもうアッパレ、と思います。

エンドロールによるとこの映画のテーマ曲「NEW YORK」の作曲は影山ヒロノブらしい。彼もまたアイドル~ヘビメタの過去を持つアニメ界のヒーローなわけで、こうまとめて見せられると、そんな歳の重ね方も悪くないなぁと思えてきます。

まさか続編が見たくなるとは思わなかったけど、気になってきました。さっそく次へ。

 

イーライ・ロス監督「ホステル」3836本目

スプラッター・ホラーだと見る前から知ってるのってなんか嫌な気分。でも知らずに見ると途中でギブアップしてしまいそうなので、がんばってみる。

見てみたら、なんか、楽しいSMの世界?かなり明るい人たちが、ジョークで演じてるようで、いくら絶叫しても少しも暗くならないし、ちっとも痛そうに見えませんでした。すごくサラっと見てしまって、すぐに終わってしまった。これも一つのジャンルなんですね、という感じです。2は見なくていいかな・・・。

 

ファックス・バー/ジョージ・ヒッケンルーパー 監督「ハート・オブ・ダークネス コッポラの黙示録」3835本目

コッポラの妻(ソフィアの母)が撮ったフィルムがベースになっているらしい。映画一家だなぁ。しかしこの、狂気と言われた撮影現場に小さい子を二人連れた母がいたとは、どうなんだろう、過酷すぎないのか?

あの映画は、いま思うと多分、1979年ロック少女の私は、聞きかじっていたドアーズが使われてる大作が公開されると聞いて、母を無理やり伴って映画館に行ったのかもしれない。母どれほど戸惑っただろう。私も全然わからなかった。ドアーズが呪文のようにお経のように流れる、白塗りの人たちがいる異様な光景とかは記憶に残った。

今このメイキング映像を見ると、これってあれだな、ゲームでいうと「シェンムー」だし映画ならたとえば「フィッツカラルド」(この映画より後だ)とか「ホドロフスキーのDUNE]のような、構想が大きすぎた作品の仲間のようだけど、今作はカンヌでパルムドールを取るという快挙をなした。それはきっと、戦争の狂気を撮ろうとして映画で、映画の本物の狂気を撮ることができたからなんだろうな、と、これを見て思いました。

この作品、初めて見た公開当時から、全然わからないけどすごいなぁ、と心に残っていて、好きか嫌いかというと好きな映画なんですよ。「アクト・オブ・キリング」や最近の東南アジアホラーのような土着的な怖さもあって惹かれる。

もう一度「黙示録」、とくに完全版を見てみたいけど、長いのでまた今度・・・。

 

相原裕美 監督「トノバン 音楽家 加藤和彦とその時代」3834本目

加藤和彦といえば、ヒットした「帰ってきたヨッパライ」がその後何年もあちこちで流れていたので、私の時代の曲ではないけど小さい頃の記憶としてある。「あの素晴らしい愛をもう一度」は中学のときかな、合唱したので聴くたびに今も脳内でハモってしまう。ミカバンドも1970年代にラジオでよく「日本のロック特集」とかで取り上げられたので聞いてた。あの頃はこれほどの敏腕ミュージシャン揃いだとは認識していなかったし、ボーカルのダミ声は何だ?と違和感も感じてた。その後のソロの加藤和彦、つまり安田かずみ時代は、ヨーロッパっぽくておしゃれっぽくて、あまピンとこなかった。

彼のプロデュース力のすさまじさを知ったのも、ミカを含むミカバンドの総体としての新しさに気づいたのも、わりと最近だ。「SUKI SUKI SUKI」をヘビロテしたのはつい先月か。派手だなぁと思ってたミカがすごく可愛く見える。その頃の彼らより今の私の方がもう年上だから。

すごい人だなぁ、すごい音楽を作ってきたんだなぁ。個人的には、フォークかグラムをもっとやってほしかったかな。だって、北山修とはしだのりひこと加藤和彦だよ。加藤和彦と高中正義と高橋幸弘と今井裕と小原礼に野獣みたいな日本の若い女の子だよ。こんなミスマッチの妙が存在したことは奇跡だ。(YMOも同じくらい奇跡かも)

名だたるミュージシャンたちが今も心からリスペクトしている。見た目はひょろっとして優しくて頭のいい人。優しい、優しすぎる。見ているだけで不安になるくらい柔らかい人だ。最後は誰にも彼を十分に温めてあげらることができなかったのかな、と思う。

私にできることは、まだ聴いてないミカバンドの音源を聴きまくることかな…。

この映画は、日本の音楽界に必要なものだったように思います。

 

クエンティン・タランティーノ監督「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」3833本目

これで、ひとりタランティーノ特集も終わりだ。なんか寂しい。

<以下、結末にふれています>

改めて。これはまたひどい映画だな(けなすつもりではない)。。。

ブラピとデカプリオ。デカプリオは映画スターでブラピはスタントマンの役だけど、ヒーローはブラピだ。タランティーノ作品では常に、裏方と弱い立場の者がヒーロー(注:その判断に属人的なものはあるけど)

映画プロデューサー、アル・パチーノがデカプリオ(49歳)に「あっち(ブラピ60歳)は君の息子かい?」っていうのもひどいが、ブラピが飼ってる血に飢えた肉食犬による最後の殺戮は、この映画の文脈では完全に加害行為だ。ぜんぜん自己防衛になってない。ヒッピーはガラの悪い乱暴者というだけで、ほぼ未遂だったのに犬に食われてしまった。これを正当化するものは唯一、ポランスキーやシャロン・テートの映画をこよなく愛し、あの事件に対する憤りをマグマのように溜めて育て続けてきた映画ファンの恨みつらみだけだ。「イングロリアス・バスターズ」も、映画の中だけに限っていうとナチスによる加害よりナチスを地獄に送った”こちら側”の人間たちの暴力の方が爆発的だ。タランティーノは、自分自身が映画オタクで、マニアのトリビアを構築して作ったこの映画は、自分を含むマニアたちの映画愛を満足させるためだけのものだとよくわかってる。これを見て誰かが暴力行為に及ぶなんてことはない、という前提でしか作れない。

つまりこれは(あるいはタランティーノ作品のすべてが)内輪うけなのかもしれない。同人作品なのかもしれない。大好きで大好きでたまらないスターたちの、自分の好きな部分をおおげさにフィーチャーして、長年のファンとしてのフラストレーションを爆発させる。スタントマンってめちゃくちゃ運動能力がすごくて、スターそのものよりよっぽどカッコいいんじゃないか?めちゃくちゃカッコイイ女性ヴィランをもっとみんなに見て欲しい。自分の愛するスターたちをひどい目に合わせたやつらに、映画のなかで復讐したい。…etc. いや、単純なヒッピー嫌悪だろうか。そうだとしたらユダヤ人嫌悪とわりと性質が似ているような気がする。

そんな私も初見ではずいぶん興奮して見たのだ。タランティーノと同じ映画マニアだから、どっかんどっかん大うけした。でもどう考えても、グリーン・ホーネットの頃のブルース・リーは本筋には関係ないし、こうやってスターを散りばめて喜ぶのはマニアだけだ。必然性はない。うーん。私はこの作品の評価を180度変えようとしてるんだろうか。(初見で90点つけたんだけど)

 

クエンティン・タランティーノ監督「ヘイトフルエイト」3832本目

タランティーノ作品に過去につけた点の中で、これが一番低かった。でも今回は、実に面白い映画だと思っている。いつも出てるサミュエル・J ・ジャクソンが、今回はまるでアガサ・クリスティの密室ミステリの探偵みたいだ。今までで一番ミステリー要素が強いのでは?タランティーノ作品にこういう楽しみ方もあるのか。

この場面の直前まで、荒くれ者たちの間で殺戮は起こらない。(ギリギリの緊張感で自制している)でもいったん始まると止まらないのがこの人の作品。だいたい、1~2名を除いてみんな死ぬ。<以下とつぜんネタバレ>この作品では全滅だ。どいつもこいつも、往生際が悪い。他人はためらわず殺すが、自分は生き延びたい。楽して賞金を稼ぎたい。人間の悪い部分をかためたような奴らなので、面白い…けど、やっぱりちょっと全滅しすぎかな。うまく生き延びるのもこの場合不自然だけど、何かもうひとひねり欲しかったような。

これって、脚本が事前に漏れて書き直したやつでしたっけ?当初の結末はどんなだったんだろう。気になって仕方ありません。

ヘイトフル・エイト(字幕版)

ヘイトフル・エイト(字幕版)

  • サミュエル・L・ジャクソン
Amazon

 

クエンティン・タランティーノ監督「ジャンゴ 繋がれざる者」3831本目

ジャンゴ=ジェイミー・フォックスは精悍でスタイルが良くてカッコいい。クリストフ・ヴァルツは「イングロリアス」ほどのケレン味はないけど、詐欺師の演技もうまい。ファンになりそうだ。召使長のサミュエル・J・ジャクソンは、うますぎて誰だかわからなかった。幅が広い!!デカプリオは、嫌ったらしい富豪が似合いすぎて、本当はこういう人なんじゃないかと思ってしまう。ここまでの4人の演技が本当にすごい。殺戮しすぎのバイオレンス映画だと思うけど、彼らの演技の迫力が。特にデカプリオだな…彼の華やかさ。一人で映画のエネルギーの大半を放出してるような。

11年前に見たときは、これほどの殺戮のかぎりをつくしてる映像を見ながら、私は「サイコ―」とか感想に書いている。KKKの頭巾の縫い方は確かに面白かったけど、二度目に見てもそれほどバカ笑いはできない。当時は仕事のストレスが相当たまっていたことがうかがわれる…。肉片が飛び散るのとか、今はもういいよという気持ち。

ジャンゴかっこよかったし、ブルームヒルダ美しかったけどね。