映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

久松静児監督「神阪四郎の犯罪」64

1956年作品。
いやーー面白かった!すごい映画です。

神阪四郎(森繁久彌)はある出版社の敏腕編集長。女好きでお金に節操がない彼の周りには、偉そうなくせに手癖の悪い作家や、男に遊ばれつつ自分もうまく利用している事務員や、貞淑を絵に描いたように見えるけれど計算高いところもある妻(新珠美千代)…。彼が使い込みで会社から訴えられた後、愛人(左幸子)と心中事件を起こして自分だけ生き残り、彼を裁くための裁判が始まる…。

この映画の評判を見ると、「羅生門のように、誰もが自分に都合のいいことばかり言って、真実は闇の中だ」というようなことを書いてる人が多いけど、そういう普遍的なテーマを何を使ってどう料理するかが映画です。このテーマ自体はほかにもいっぱいあるよ。
12人の怒れる男」とか。(←これ「リーダーシップ論」の授業で見た)「鍋の中」とか。(←これ、映画化された「八月のラプソディ」より原作が好き)。

若いころの森繁ってほんとウサン臭い敏腕営業マン…というよりデパートの包丁売りみたいで最高ですね。凄みのなさが、たとえばヒットラーみたいな独裁者って現実にはこんな人だったんじゃないかなと思う。彼と、左幸子だの新珠美千代だのが平然と演じてるから見応えがあるんじゃないですか。この監督もすごいですね。人間のイヤらしさ、面白さを徹底的に公平に撮っています。役者さんたちも、ノリノリで演じてます。

森繁のすごさってのは…どんな場面でも…詐欺師でも誠実な男を演じていても、生き延びるために必死なんですよって顔に書いてあるところだ、と思う。嘘かもしれないけど真剣なんですよ、って。本当かどうかなんてどうでもいいじゃないですか、こっちは真剣なんですから。って感じ。

人間、大御所になんかなってしまったら、これほどつまらないことはないです。(極論ですか?)こういう軽みって身につけようとして着くもんじゃないから、一生インチキジジイでいてほしかったです。

左幸子のイっちゃってる神経症的な演技もすごいけど、むしろもうちょっと抑えてくれてもよかったです。

しかしこの年代の日本映画って、本当に面白いものが多いですね。黄金時代といっても過言ではなさそうです。
以上。