映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

平野勝之監督「監督失格」277本目

2011年作品。

半分くらいまで見て、だいたいそのあとに何が起こるかがわかってきて、怖くてその先が見られなくなりました。でもがんばって見た。

すごく親しい人や愛する人の死は、自分の一部を持っていってしまう。
取り戻すのに5年も10年もかかる。20年たっても30年たっても、取り戻せないこともある。

林由美香って人は、若くてきれいな頃からちょっと変わってる。気楽なように振舞ってるけど、大きな目をぎゅっと開いてるのは恐怖の表情にも見える。気楽の反対の極度の緊張にも見える。彼女はさいしょからさいごまで、林由美香っていう映画の監督だったみたいな感じ。平野監督も演出されていただけ。彼が久しぶりに家に来る、誕生日に家に来るから、そのときだと思ったのかもしれない。
平野監督が、自分に心酔していて、けんかはするけど自分が死ぬことすら受け入れてくれるだろうということを、彼女はちゃんと知ってたんだと思う。あ、こんな言い方をすると自殺だって決めつけてるみたいですね。すみません。

キレイで可愛くて負けず嫌いな彼女。愛されることを好み、男たちが愛する由美香という映画を演出しつづけた。映画の98分とか112分が長いか短いか、人生の35年とか78年とかが長いか短いか。どちらも終わりたくないくらい幸せでも必ずぱつっと終わる。

見てみたら思ったほど怖い映画ではなかった。怖いという意味では、津波のドキュメンタリーのほうがもっと個人的には怖い。

これをドキュメンタリーとして仕上げることは彼女ときちんとお別れすることだから、仕上げたくない。という気持ちもよくわかる。仏式の弔いは、49日まで魂がすぐその辺にいて、それから13回忌まではときどき帰ってくるけど、そのあとは本当にいなくなっちゃう。千の風とかになる。私は母の13回忌のとき、もうこれから法事も簡単になっていくと聞いたときに、ぽっかりと寂しくなりました。あんなに面倒だった法事も、なくなることはさよならということだからね。その時点からさらに倍くらい時間がたってやっと、いっしょに死んでる場合じゃないと目が覚めました。

「そんなに泣かなくても。映画を仕上げることイコール別れじゃないよ!」
愛した人は、自分が死ぬまで自分の中で一緒に生きるしかないんだよ。
いっしょに持っていかれるほど愛する人に出会えたということは、映画みたいに短い人生の中でものすごいことだったんだよ、と監督に言ってあげたい。

シッポ振りわんこは、飼い主が急におかしくなっちゃって心細かったんだろうな。

ひとつ、この映画、整音したと思えないくらい音声レベルが低すぎて、ほとんど聞けない感じ、と文句を言っておきたいです。
以上。