映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

周防正行監督「それでもボクはやってない」597本目

世の中の人たちが、わりと安易に誰かを責めたり決めつけたりするということは、経験からよく知ってる。
泣き寝入りする被害者もたくさん実在するし、逃げおおせる悪者もたくさんいる。

ほんとうに15歳の女の子の精神的な成長を考慮するのであれば、無実の人が裁判にかかわる大人たちによって有罪とされてしまうことを見せつけることのほうが、重大な問題だ。確かなのは女の子のお尻が圧迫されていたことだけで、それが誰かの手なのか、鞄かなにかなのか、それが人間の手だったとしてその人の手なのかどうかまで、その子は知らない。
何が本当かを証明することがいかに難しいか、とか、自分も自分の周りの人たちも、将来いつ逆の立場に追いやられるかもしれないということとか、そういう大事なことをちゃんと教えるべき。

だって日本は赤穂浪士の国だよ。故なきことで簡単に切り捨てごめんできた国で、偉い人ほど、偉くない人たちにいろいろなものを押し付けてきた歴史のある国。私はこういう、「ちゃんと確かめないで決めつけるやりかた」がわりと蔓延してるっていうところが、この国で一番嫌いなところなんだ。科学より感情。

最後に被告人自身が独白するように、裁判というのも、自分より偉い人、りっぱな人じゃなくて、自分のようなあやうい人がなるべく確からしいことを言うだけの場だってことを理解するのも重要だ。

それにしても、満員電車ってそれ自体が異常。久しぶりに乗るとそう思う。しょっちゅう自殺者が出る路線でストレスだらけの人たちをこんなものに詰め込んで、証明のしようがないような犯罪や事故がいっぱい起こるなんて、当たり前のことを、鉄道会社も乗る人たちも避けられないなんて、ほんとに変だ。そういうレベルからリスクを考えていけるようにならなければ…。