映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

マーティン・スコセッシ監督「ラスト・ワルツ」2668本目

私このDVDを15年くらい前に買って、その鮮烈な出会いでファンになってしまって、その後CDを何枚も買ったくらいなのに、いくら探してもDVDが見つからないのでレンタルしてしまいました。彼らのドキュメンタリーをまたスコセッシ監督が作るというニュースを見て、これは復習しておかなければ!と思って探したのに…。

ザ・バンドって女が惚れる男の魅力のすべてを持ってる、と思う。(多分、男が惚れる男の魅力も持ってるから、男性に圧倒的に人気なんだとも思う)さわやかで色気と茶目っ気があって、無邪気で音楽に一途で仲間とひとつになっていて。おまけに、町から町へと巡業して回っているから、旅人のロマンという最高のマジックスパイスまでかかっている。突出したプレイヤーはいないけど、世界中のどのバンドより長い間一緒に演奏して回ってるからアンサンブルの妙がほかのどのバンドより美しい。誰かひとりがイケメンっていうのでもなく、ロビロバもリック・ダンコも リチャード・マニュエルもリヴォン・ヘルムもガース・ハドソンもそれぞれ素晴らしい。こんなに可愛い男たちがほかにいるか、という。(落ち着け私)

このドキュメンタリーの構成が頭から泣ける。アンコール最後の曲を冒頭に持ってきてるんですよ。サヨナラからの出会い。解散ライブとか死亡記事をきっかけにファンになる人ってけっこういるんですよ…この切なさどうしてくれよう。

1976年当時の私が一番好きな時代のアメリカの、ヒッピーっぽい若者たちの入場の行列。ステージ上のメンバーたちの、やたら大きい襟。

ロビー・ロバートソンは中ではうまく立ち回ったやつとして悪役みたいに言われることもあるけど、トレインスポッティングで言えばレントンだ。どこか図太い芯みたいなものがあって揺らがずに生き延びる。そしていくつになっても若くして失われてしまった仲間のことを語りつづける。

「I shall be released」で全員そろって締める、という場面をもっと若い人たちのフェスでもずいぶん見たけど、これが元祖だ。ボブディラン&ザ・バンドだ。

数十年前、田舎でガールズバンドをやっていた頃、どこからともなくショッピングモールで演奏する話がきて、何曲かやったことがあった。おこづかいくらいはもらえたんだろうか。打ち上げして一人暮らししてるメンバーの家にみんなで泊った。高校生だったけど誰かがパチンコで勝ってもらってきたお酒を飲んだような気もする…ああいう生活を16年も続けるってどういう感じだろう。実力も体力も度胸もなくて、私はふつーのおばさんになってしまったけど…

音楽を聴く感覚は、映画を見るときの全面的な没入感とは全く違う。音楽は目を閉じて聴いても、空を見ながら聴いてもいい。脱力して身を任せられる。言葉とか論理を全部スルーして右脳だけで感じる、ということができる。こういう感覚が今の自分には足りてなかったかも、と感じます。

ついこの間、キャロル・キングが2016年にロンドンのハイド・パークでやったコンサートが無料配信されているのを見て、なんかものすごく感動してしまった。それと同じ種類の音楽の喜びがここにはある。ハイド・パークの白夜みたいに更けない空の下で、あるいはカリフォルニアのコンサートホールで、一生のうちに何回か「ああ生きててよかった」と思える音楽に出会えたら、こんな幸せなことはないです…。

ラスト・ワルツ (2枚組特別編) [DVD]

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  • 発売日: 2017/04/26
  • メディア: DVD
 

 

感想も書いてなかったとは。