映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

フリッツ・ラング監督「西部魂」3084本目

「メトロポリス」と「M」のフリッツ・ラングが西部劇なんて…(ショック)

でも、けっこう面白かった。さすがフリッツ・ラング。

この映画の原題からして「ウェスタン・ユニオン」。実在の会社の名前の映画って、スポンサーで宣伝映画なんだろうか。今はどこの町にもある両替屋に看板が出てる国際送金会社だ。西部開拓時代にすでにこんなに羽振りのいい会社だったんだな。電信って今なら最先端の高速通信みたいなもの?とはいえオペレーターが手打ちしてるのはテレックスの時代が最後だから、前世紀って感じですね。この電信が通じる前は手紙しかなかったんだろうから、東部からみて西部がいかに辺境の地だったかうかがえます。

通信会社って石油や石炭会社みたいに発破かけて何か爆破したり地下にもぐったりするわけじゃないから、危険性の少ない仕事だったはず。

先住民に化けて白人を襲う白人グループって本当にいたんだろうか。悪いことを考え付くやつはどの時代にも、世界中のどこにもいるので、いたのかも。(ググっても何も情報は見つからないけど)この作品は、先住民に化けた強盗団と、そこから抜け出してウェスタンユニオンについた男との争いっていうドラマが柱としてあって、それに恋のライバルやら尊敬やら友情やらがからんできて、作品を豊かにしています。

ラング監督の作品って、なかなか見られないものも多いけど、もっと見てみたいなと思いました。

(追記 2022/8/20)

フリッツ・ラング「映画監督に著作権はない」でこの作品に触れています。「西部劇は嫌いじゃない」「地獄への逆襲よりずっとこの作品が好きだ」「退役軍人クラブから、”これまで作られたどの映画よりも見事に西部を描いている”と手紙をもらった、ヨーロッパの監督の分際で」など。最後のコメントについては、その後カズオ・イシグロが英国貴族の没落を描いた「日の名残り」をアメリカ人ジェームズアイヴォリーが映画化して高評価、なんて例もあるし、外の人間が見た方が美点が際立つこともあるんでしょうね。

それから監督は自分の撮影術について語ります。自分には「監督の細部描写(Directorial touch)ができると。電線架線工事は実際には簡単だったのを大変に見せたとか、ネイティブ・アメリカンを呼んで戦いのメイクをさせたのは自分が初めてだ、とか。この本は監督の「美学」が伝わってきて非常におもしろいです・・・。

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