映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

クリスティーナ・リンドストロム、 クリスティアン・ペトリ監督「世界で一番美しい少年」3414本目

「ベニスに死す」を見直したとき、「自分の中の美醜の価値観が試される映画」って感想を書いた。今まで美しいと思っていた人たちより美しい人がいるんだ、という感覚。

「ミッドサマー」は強烈な映画だったけど、見た後で彼が出てたと聞いて、すぐ、あの老人だと思った。自分以外の人々のために殉死する美しい魂。ひどい役だけど、ある種の美しさがある。

当然かもしれないけど、ヘルムート・バーガーを連想するし、変かもしれないけど「シャイニング」のダニー少年も思い出す。心の中に光を持った少年も大人になる。美って、若いうちは誰でも持っててだんだん衰えるものだと思ってるけど、絶対的な美は年月を経ても変わらない気がしてくる。

日本で彼をアイドルとして売り出した酒井政利は、山口百恵や郷ひろみをスターにした有名プロデューサーだ。日本では、良さそうな子を連れてきて大人たちが商品として売り出すのが当たり前だった。アグネス・チャン、ゴールデンハーフといった外国ルーツのタレントもたくさんいた。リンリン・ランランなんて、中国とアメリカのハーフなのにインディアンの恰好をさせられて歌わされてた。今なら少年少女虐待と言われかねないことを嬉々として回想する彼に、亡くなる前に取材ができたのは良かったと思う。できることなら完成した映画も見てほしかった。

ネット上で見つかったこの作品の監督のインタビューによると、彼は日本での経験は「リアリティがなかったけど楽しかった」「撮影でまた日本に行けてよかった」と言ってたらしい。ちょっと、ほっとしました。

繊細な人が辛苦を経験すると、壊れるのかなと想像するけど、彼は「閉じた」と言ってた。過去からも自分の感情からも離れて、静かに暮らしてる。それでいい、そっとしてあげてほしいと思うけど、この映画を作ることで彼はまた何度も何度も傷ついただろう。それでもきっと彼は自分の人生を把握しなおすために、記録して知らしめるために、映画化に応じたのかな。

彼の「いまの彼女」とは、映画のなかでかかってきた電話で別れてそれっきりなんだろうか?その後の場面では仲良くしていたけど、時系列がよくわからない。娘さんと話ができて良かったので、いいか。

彼の今後の人生が穏やかで温かいものでありますように。世界から、美しいものを蹂躙する人たちが消えていなくなりますように。と思うのでした。

世界で一番美しい少年(字幕版)

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  • ビョルン・アンドレセン
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