映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

リドリー・スコット監督「ハウス・オブ・グッチ」3415本目

リドリー・スコット監督って、好きだけど(エイリアン、ブレードランナー、テルマ&ルイーズだもん)「プロメテウス」を作ってしまうくらい”思い入れの強さ”のある、ちょっとクセの強い監督だと思っていました。でも「最後の決闘裁判」がとても完成度の高い、名作と言っていい作品だったので、巨匠とか名匠としてこれからは二枚目にやっていくんだろう・・・と思ったら、これは・・・イタリア人のパロディ映画か?「ブルース・ブラザーズ」みたいなものか?占い師が紹介した怪しげな男たちと会うときのパトリツィア=レディ・ガガは、女ギャングを演じている渡辺直美にしか見えない。お人が悪い、スコット監督。ドル箱=日本人に「コニチワ」と笑いかけるアル・パチーノは、イタリア人と日本人のどっちを嗤ってるんだ、というくらいのカリカチュア感。私がグッチのファンやグッチ・ファミリーの遠縁とかだったら、レディ・ガガのへたくそなイタリアなまり英語(わざと)を聞いた途端に「バカにしてんのか?」って頭から湯気を立てて怒るかも?

レディ・ガガは「アリー/スター誕生」で唐突に完璧なハリウッドスターだったし、彼女もアダム・ドライバーも”悪”の側面があって(本人の人格とは無関係に)、本物の悪をためらいなく演じられる、引き込まれて深淵を覗いてしまうような怖さを感じさせる、稀有な俳優たちだ。だからこの映画を見るのはちょっと怖かった。こんなカリカチュアだとわかっていたらすぐ見たんだが。。。

残念なポイントは、ハイ・ブランドの映画でありながら、私がデザイナーや建築家のドキュメンタリーを見るときに期待するような美的感覚がまったくない映像だったことかな。美しくも格調高くもない、ただ値段が高いだけのものを転がしているようで、これではデザイナーもお金を出す客(日本人か)もバカみたいだ。知らないミュージシャンの映画でも、音楽にリスペクトがあれば感動的な部分も作るものだけど、スコット監督は美術とか服飾には興味ないのかな。彼がプロデュースした「スプリングスティーン&アイ」はとても良かったことを考えると、アンチ・ハイブランドなのかな。

しかしレディ・ガガを見ているだけで十分価値のある映画でした。この人ほんとすごいわ。