映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

ジョー・キャンプ 監督「ベンジー」3429本目

たぶん、生まれて初めて劇場で見た洋画。(その次がスターウォーズかな。邦画はゴジラやヘドラ、もっと小さいときに何本か見た)ジョー・キャンプ監督って、ベンジーの映画しか撮ってない・・・

典型的なアメリカの住宅地の、ちょっと育ちのよさそうな家庭の犬の話だと思い込んでたけど、山のボロ家から出てきた。テーマ曲が始まるまで無音なので、最近よく見てるアメリカ1970年代B級ホラー映画かと思った。

まさかの野良犬。それも、もっふもふの可愛い子じゃなくて、薄汚れたような、思ったより小さい犬だ。そして音声がなぜか全部アフレコだ・・・映像のB級っぽさと合わせてテレビドラマみたい!生活音がまったくなくて、なんともいえない低予算感。この映画は撮影用のマイクがなくても撮れるじゃないか。

街の人々に、それぞれ別の名前で呼ばれ、朝はドクターの家、おやつは警官から、そのあとはダイナーに寄って・・・。なんて自由でハッピーな犬なんだ。テーマ曲も「I feel love」だし、劇中音楽もレイドバックなカリフォルニアの若者ふう。これは、自由を謳歌することを、いぬの姿を借りて描いたラブ&ピースなベトナム反戦映画だ(適当)これもまた、アメリカン・ニュー・シネマのひとつなのか、あるいは低予算ゾンビ映画のパロディ?

ベンジーが住む山の中の館に、男たちがやってくる。これは普通、殺人鬼やゾンビが登場する流れ・・・でもこの作品では、こいつらが悪者。ここでベンジーがヒーローへと変貌します。すごい演技力。ここから先は完全に、ベンジーの感情あふれる演技が主導していきます。低予算とはいえ50万ドルの製作費のけっこうな部分が、ドッグトレーナーやベンジーの出演料に使われたのかもしれない。

全体的にシンプルでチープなんだけど、構成や構図がとてもよくできていて、家族で見てあたたかくハッピーな気分になれる映画ですね。

ティファニーのほうは死んでしまったかと思ったら、生きててよかった。(←完全に感情移入している)大団円として、自由犬ベンジーを「こんなにいい犬ならうちで飼おう」となるのが時代を感じさせます。(あくまでも「2匹さえよければ」という条件つきだけど)今は、ノマドランドのデイヴィッド・ストラザーンに一緒に住もうと言われてもノマドを続けるフランシス・マクドーマンドの時代。いやー面白かった。見てみてよかったです。