映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

是枝裕和監督「怪物」3648本目

<結末についての考察やストーリーについて書いています>

迷いに迷って結局、新宿歌舞伎町にできたばかりの109シネマズプレミアム新宿で見てきました。YMO世代の私は坂本龍一の逝去がかなりショックで、彼の最後の映画音楽を、彼が音響をプロデュースした映画館で見ることを自分なりの弔いとしたいと思ったのでした。(ちなみに料金は会員でもClass Sは6000円、Class Aでも4000円。109シネマズ会員になって6ポイント貯めても特典+2600円。サービスデイ割引非適用)

ラウンジは照明を落とした静かな広い空間で・・・というかこの料金なのでほとんど人はいません。坂本龍一プロデュースの静かな音楽が流れ、なんだか彼の葬儀に来ているような気持ち。上映1時間前からラウンジで無料のポップコーン(かなりの量)とソフトドリンクをもらって、写真集などハイセンスな備え付けの本を眺めていると上映時間です。すごく座り心地のいいシート、たくさんある荷物置き場。ラウンジでもらったドリンクがぴったり入るドリンクホルダー。平日の午後、観客はぜんぶで10人くらいか・・・。利益が出ると思えないこの体制、1~2階の屋台街の喧騒と別世界のそこは、東急グループのステイタスとして象徴的に作られた場所なのかな。多分もう行かないけどもし行くとしたら6ポイント溜まってからだな。

で、映画そのものについてですが、坂元裕二の脚本より前に、観客の心を手のひらで操らせたら日本一、いや世界一かもしれない川村元気のプロデュース作品という印象が強かったです。事前に他の方々の感想を読みすぎて、知りすぎてしまったこともあるけど、構成がうますぎてケン・ローチやダルデンヌ兄弟的な”オチのなさ”が今回は薄いです。

しかしそういう制作陣の計算に自分が踊らされているとわかっていても、状況に振り回される登場人物それぞれの考えや反応が自然で、全員に少しずつ共感してしまうのが坂元脚本のうまさです。子どもを守りたいあまり事実確認をせずに攻撃してしまう母。いたたまれず嘘をついてしまう子ども。間違ってるけど学校を守ることに命をかけている校長の嘘さえ、最後は子どもと通じ合うんですよ。(ここは議論あるだろうな)結末は結局どうなったのか。先生は落ちたのか、それともホルンとトロンボーンを聴いてふしぎと踏みとどまったのか。大雨の中、母と先生がたどり着いたときではなく、雨上がりの車外で「生まれ変わってないよ」と笑い合っていた子どもたちはどういう状況だったのか。

まさに現実でもそうなんだけど、誰もちゃんと話し合おうとしないで、自分の思うことが真実だと決めてかかってる。みんな最初から戦闘モードだ。これもし現実に起こったら、本当のいじめっ子や問題のありかを知っている子どもたち、トラウマになるだろうな。本音を話し合ったりぶつけあったりする文化は、もう日本にはないんだろうか。

あと、結局のところ、これがクイア映画であるかどうかという点は最重要ではないですね。「万引き家族」でも何でも、虐待されている子どもを守ろうとしたのは性愛ではなかったわけで。

一番傷ついてる子がいつも、一番かわいく笑っていたのが切なくてたまらんですね・・・。虐待被害者だと知られたとたん、かわいそうな人としての一生が待っているわけで。経験者のほとんどはたぶん(何もなかったことにしよう)と考えるんだろう、乗り越えられる強さは誰にでもあるわけじゃないから、なかったことにして今日も笑おうとする。(直接関係はないけど、沈黙しているジャニーズのアーティストやOBたちが不憫でなりません・・・)

映画としての面白さはいつもより強いので、世界中の人、映画マニアや日本マニア以外の人たちにも届くといいなと思います。