映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

なるせゆうせい監督「縁の下のイミグレ」3660本目

見る前は、尺が76分と短いので、こじんまりと終わっちゃうのかな?とか、シリアスすぎたら楽しめないかな?などと心配しましたが、なかなか濃くて面白い「シチュエーション・コメディ」でした。

ベトナムから来た技能実習生がトラブルに見舞われ、彼女を守りたい若者、ベテランと若手の行政書士、そこに呼ばれて出てきた監理団体の責任者と二世議員。行政書士事務所に一同が会して繰り広げられる、会話のバトル。

誰か一人がかわいそうだとか、誰か一人が悪いという決めつけをせず、みんなちょっと反省もするけど、たくましく生き抜いていこう!という明るい前向きなトーンがとても良かったです。

舞台劇のような作品なので、役者さんたちのパワーが際立ちます。アクの強いベテラン行政書士にマギー。威張っているようでいて人情派、でもやっぱりちょっとウザい。悪役とされることの多い監理団体の責任者に、いつも巨悪をSNSで告発しているラサール石井というシニカルな配役。彼が演じることによって、監理団体にも、もしかしたら問題意識を持つおじさんがいるかも?と考え始めてしまいます。ベトナムから来たハインがブチ切れる場面が、また秀逸!

若者たちの性格付けもなかなかシニカルで、ハインを守ろうと熱くなっている土井(堀家一希)も、おじさん行政書士を冷めた目で見ている若手行政書士の新垣(中村優一)も、技能実習の仕組みや働く彼らの実態をよく知らない。単純に善・悪を決めつけず、(俺たち誰も実態を知らないよな?もうちょっと知るところから始めない?)と話しかけてくるようなこの作品に共感します。

ちなみにハインを演じた日本の女子高生ナターシャはフィリピン系で、劇中彼女が話している言葉はベトナム語ではなくタガログ語だそうです。最近勉強してるスペイン語の語彙がちょくちょく入るので不思議に思ってたけど、フィリピンは昔スペインに統治されていて、人の名前もホセとか多いし語彙にもスペイン語が残ってるんだな、と本筋と関係ないところを興味深く思ったりしました。

この回は監督、ラサール石井、中村優一、ナターシャの舞台挨拶もありました。私はベトナム人技能実習生にボランティアで日本語を教えるNPOのリーダーや講師たちと一緒に見に行って、その後ベトナム料理を堪能。彼女たちも技能実習生たちも含めて、ボーダーを気にしないでどんどん外へ出て新しい世界でがんばる人たちが、私はほんとに好きだなぁ。