映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

グレタ・ガーウィグ監督「バービー」3707本目

もっかの悩みとして、死とセルライトが並列で出てくるのが女の世界(笑)。

公開時に、夢の世界を壊すとか過激すぎるという話をかなり聞いたので、期待しないで見始めたんだけど、要はこれはグレタ・ガーウィグの世界なんだな。シアーシャ・ローナンに初恋の男の子の上で鼻血を出させる、前から皮肉キツイなとみんなが思っていた、あのグレタ・ガーウィグ。もう一つ大切なのは、彼女自身が多分、かつて初々しくバービーで遊んでいた元少女だということ。この映画には例えていうなら「オンネリとアンネリのおうち」のような、本物の少女だけが実体験として持つ甘い夢の記憶が詰まっていて、皮肉やジョークもその世界と女子の現実世界とのはざまで繰り広げられている、と感じました。私には「テッド」はちょっと下品すぎるように思えるけど、この作品はOK。つまり、女性は安心して見ていられるけど、もしかしたら男性には見慣れない世界なのかも?

キャストの話をすると、マーゴット・ロビーは「アイ、トーニャ」や「ふたりの女王」では不美人を見事に演じたけど、「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」や「スキャンダル」では完璧な美女を演じてました。この映画でさらに後者としての存在感を強くしましたね。あと、マーゴット・バービーの持ち主の少女の母、すごく見覚えがあると思ったら、「アグリー・ベティ」のアメリカ・フェレーラだ!もう母親役の年齢なんですね~。パンクなやさぐれバービーを演じたケイト・マッキノン(なんとなく、監督自身を表現したようにも思える)、ゴーストバスターズ等で見た、一見シリアスだけどぶっ飛んだキャラを踏襲してます。妊婦バービーや大統領バービー、ノーベル賞受賞バービー、ケンのほうはアジア系もいるし、ハリウッド規範上パーフェクトはdiversityが、グレタ・ガーウィグ作品だと思うとむしろやりすぎて皮肉にも思えます。

ライアン・ゴリズングの情けないキャラも完璧に監督の意図どおりなんだろうなぁ。これが男性を象徴するなら、男性は見ていて面白くない映画なんじゃないだろうか・・・。ウィル・ファレルも、嬉しくなるほどはまってます。男がどいつもこいつもちょっとバカっぽいところも、女性が作った映画らしい・・・。普通ガールズ・トークの外へ出て行かない話なので、男性のみなさん気を悪くしたらゴメンね、などと、いち視聴者の私が謝ってどうする。(それにしても、この映画に20点とかつけてる男性が全然いないのは不思議。レビューを読んだら低評価の人もいるけど、こういう映画に悪い点をつけるのはカッコ悪いという感じがあるんだろうか)

謎の老女を演じたのはリー・パールマンだけど、ナレーションのヘレン・メリルが演じても良かった?

バービーたちの、砂漠の中に放射状に並んでるピンクのベッドルームを見てると、どうも「ドント・ウォーリー・ダーリン」を思い出してしまって、ものすごく不穏な気持ちになる。あれもまた、ジェンダーにまつわる違和感を強烈に打ち出した女性監督の作品だった。どちらの映画にも、旧来の女性の典型的な幸せは、もはや幸せではない、という考えがある。(・・・なんか、こういうの多いな。こればっかりになると、そのうち逆に、旧態依然とした男女関係の良さを見直す映画がはやる時代がくるんだろうな)

私の家にもリカちゃん人形はいくつかあったな。初代は耐久性が低くて、その後買ってもらった三代目ほど可愛くなかった。バービーは日本では売られてなかったと思うけど、タミーちゃんという類似品みたいなのが親戚の誰かから流れてきてたな。うちは彼女たちの洋服を買うほどのお金はなかったので、母がちくちくと縫ってくれたものがあったっけ・・・。

影のうすいサーシャの父が、ひとり部屋でDuolingoを使ってスペイン語を勉強してた場面が一番笑いました。(私も同じアプリ使ってスペイン語勉強してるから)名画のうんちくをたれたり、自作の歌を聴かせたりするのって、なんか私(女です)の若い頃を思い出して恥ずかしい部分がある・・・。女子力より男子力のほうが強いかもしれない私は、むしろ男の視点でこの映画を見るべきなのかもしれません。。。