映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

三島有紀子 監督「Red」3674本目

<ネタバレあります>

評点低いっすね~。公開時はスルーしてしまったけど、女性が作った女性のための映画だと何かで見たので、KINENOTEでは少数派と思われる女性参加者として見てみて、感想を書いてみたいと思います。

冒頭すぐ、不倫相手らしき妻夫木聡とドライブをしている場面が長い。延々と続く夜のトンネル内は真っ赤な電灯だけ。女性なら誰でも若い頃とかに一度は、この人とこのあとどうなるのかなと思いながら、車でどこかへ走っていた時間があって、なんとなくそういう不安をここで思い出すかも。

いわゆる”退屈な主婦の日常”、保育園の送り迎え、家では姑と夫、間宮祥太郎に気を使いながら家事にいそしむ。しかし専業主婦である夏帆が夫に連れて行かれたのは、ファッション雑誌のロケみたいな、クラシックで高級で、”退屈なパーティ”。そこで彼女は昔の男、妻夫木聡と再会し、彼の設計事務所で仕事を再開することになる。ブランクは長いけど、意外と認められて。なんの取柄もないただの主婦の私なのに、昔つきあっていた人に無理に口説かれて・・・ってハーレクイン・ロマンスの日本版を目指したのか、「フィフティ・シェイズ・オブ・グレイ」のダコタ・ジョンソンを思い出します。やたらと言い寄ってきて、身体を密着させてくる柄本佑にも気を持たせる。

主婦という立場が長いと、自己肯定感が低くなるんだろうか。(仕事を続けてても低いけどな!)自分をどこかへさらってほしい、という願望は、自力では何もできない未成年の考えることだけど、そこから成長できていない。

妻夫木聡も、王子様的で人間臭さがない。彼の部屋がまた、「Casa Brutas」に載ってるようなコンクリート打ちっぱなしの部屋で、ベッドシーンは汗のにおいがしないな。「アデル、ブルーは熱い色」で二人とも顔を真っ赤にして抱き合っていた場面の生々しさを思い出して、だいぶ違うなーと思う。ここまでは”トレンディドラマ”的なファンタジーで、この映画でも、男性優位の映画制作現場で、男性的な感覚で女性を見ているようにも思える。もうこれは「失楽園」だ。

でもその世界は終盤に向かって壊れていく。監督が一番力を込めたのが、電車が止まった大雪の夜の二人の感情の動きの描写なんだろうな。それもまた、病気で休んでいる妻夫木が新潟まで車で迎えに来るのは相当無理があるんだけど(在来線が止まっているときに高速の出入口は開いてるのか、地元のタクシーでも呼ぶより早く着いてるのってなんなの、だったらそもそも宿泊出張の必要ない場所だろ、同僚の柄本はどこへ行った、等々)、冷たくて真っ白で暗い世界に二人だけで閉じ込められるというシチュエーションに彼らをおく必要があったんだと思う。

監督の意図を汲んでか、二人は燃え上がる。自分を出さずに、クールで乾いた世界に生きてきたことを悔やむように、初めて自分の意志で生き始める。「アデル」ほどではないにしろ、ベッドシーンにも熱が加わる。やっと到着した夫と娘を置いて、今度は彼女が不倫相手の車を運転していく。行先は誰にもわからない・・・。

というのがストーリーで、最後に燃え上がる二人を描きたかったんだと考えると、これは特に女性に向けた作品というわけでもない気がする。自分を殺してクールにお行儀よく暮らしている人たちが爆発する瞬間を肯定する映画だ。その瞬間の彼らは、テルマ&ルイーズだし金子文子と朴烈(パクヨル)だし、どちらかというと恋愛より犯罪とか革命、テロとかに走る気持ちに近い気もする。そして、そういうものを取り上げた名作は、目覚めてから破滅するまでの時間を描いたものが多いように思う。

この作品の熱い部分は受け留めたと思うけど、もっと怖い「覚醒から破滅」の部分を思い切って創造してみてくれたら、もっとインパクトの残る作品になったかも・・・など妄想。その方が賛否両論もっと炎上したかもしれないけど。

Red