映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

リューベン・オストルンド監督「逆転のトライアングル」3697本目

<結末に触れています>

原題の意味は、眉間の”悩みジワ”を意味するtriangle of sadnessなんですね。(ボトックスする部分)邦題を決めるにあたって「逆転」ということばを使った時点でtriangle関係なくなってるけど、なんとなく、バミューダトライアングルとかを思い出して”謎の遭難地域”のイメージがtriangleにあるから残したのかな。意味ありそうでない感じの、こういう邦題のつけ方って、わりと好きです。

オストルンド監督の過去の作品の感想を見直してみると、いつも主役はイケメンの情けない男なんだな。そして、この映画のタイトルの「三角形」は全作「四角」との対比になってるのかもしれない。「フレンチアルプス」を見て私は三谷幸喜みたいだと書いてる。この作品は設定から「ブルジョワジーの秘かな愉しみ」(あれも爆笑映画だと私は感想に書いてる)を連想しました。

面白ーい!!と腹の底から思える作品って、人間のおろかさを神のような高い視点で見下ろしてる感じがするものも多い。オストルンド監督の作品はどれも全然重くないけど、すごく意地悪な「神の視点」は共通してますね。そういうのがカンヌの審査員は好きなんだろう。

観客がすっかりロビンソン・クルーソーの気分に慣れた頃に唐突に出現するブランド商品の偽物や、ビーチのパラソルとエレベーター。このどんでん返し、鮮やかですね。

最後の場面のアビゲイルの形相が素晴らしい。鬼です。すっかり”インフルエンサー”の顏に戻ったヤヤに「元の生活に戻ってもよくしてあげたいのよ」などと言われて、一瞬殺意をひるがえしそうになったアビゲイル。でもその後の「雇ってあげてもいいわ、マネージャーに」で殺意Max!しかし彼女は、ヤヤではなく自分が死なない限り、元の生活に戻らざるを得ないのだということを失念している。

H&MのスマイルとValenciagaの睨み、という冒頭がすでに最高でしたね。持たざるものは平等に憧れ、持てるものは上に立って下を見下す・・・いや、実際はどうなんだろう。お金持ちが「私はこういう服も着るのよ」とH&Mを着てポーズをとったり、ぎりぎりの生活の中でねん出したお金で普通のOLがValenciagaを買ったりしてる気もする。シンボルはシンボルでしななくて、実態と一致するわけではない、みたいな。

とても面白かったけど、目新しい視点とか一生心に残る感動はないし、なんでパルムドールなんだろうな。それほどカンヌの審査員たちは、消費社会のマーケティングとか富裕層のマウント合戦とかが身近にあるから、皮肉がツボに入ったんだろうか。日本でこの映画を見た人の多くが、そんな気持ちなんじゃないかなーと思っています。

逆転のトライアングル(字幕版)