映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

ペドロ・アルモドバル監督「ライブ・フレッシュ」3710本目

(結末どころかストーリー全体に触れています、注意)

アルモドバル監督作品の中で見てないのはこれだけになってしまった。日本製のDVDの中古が安く手に入るので、これもまた買ってしまいました。発売元が紀伊國屋書店、丁寧な解説もついてて価値ある商品です。

ジャケットがとってもスペイン。誰かがひざをかかえている写真とスペイン語だけのデザイン。(日本ではあんまり売れそうにないな・・・。)

リーフレットには、なんと淀川長治の解説も載っています。この人の文章ってこんなに下品だったんだっけ・・・。テレビで軽いおしゃべりをしていた印象しかないから、お茶の間を超えたところまで知らなかった。知らなくてよかった。

劇中映画はルイス・ブニュエル監督の「アルチバルド・デラクルズの犯罪的人生」という作品らしい。これも見なければ!(これがまた手に入りにくい)

「欲望の法則」を見たあとで、そうか「ペイン&グローリー」で監督が再会したかつての主役俳優はアントニオ・バンデラスだったんだ、と当たり前のようなことにやっと気づきました。このリーフレット記載の監督インタビューでも彼の不在の大きさが語られています。私が見たアルモドバル作品の中のアントニオ・バンデラスは、頼りない坊やの役ばかりだったけど、「欲望の法則」の彼は情熱的だし悪の面も見せていて、彼の存在感の大きさとストーリーがやっと結びついたのでした。

冒頭、産気づいた妊婦がバスの中で出産する、その妊婦がペネロペ・クルスにそっくりだと思ったら本人でした。大きなお腹のペネロペ・クルス、「オール・アバウト・マイ・マザー」を思い出します。

この作品の流れ:①誰も外出を禁止された戒厳令の夜に、妊婦が病院に行く途中バスで出産②大人になったその赤ん坊、ビクトルが誤って刑事を撃つ③撃たれた刑事ダビは数年後、パラリンピアンになってビクトルの憧れの女性エレナと結婚している④刑期を終えたビクトルは、ダビ刑事の相棒サンチョの妻クララから性の講義を受ける④その妻は実はダビと昔浮気していて、ダビを撃ったのは本当は彼に嫉妬したサンチョだった⑤いろいろあってビクトルはエレナと一夜を共にする⑥ダビはエレナに激怒(ハビエル・バルデムに激怒はよく似合う)、サンチョの妻クララは夫を撃って去るけど夫はほぼ無傷⑦夫どもの嫉妬は止まる所を知らず、ビクトルの家でサンチョは妻と相撃ち⑦エレナと結ばれて孤児院で働くビクトル、エレナが産気づいて二人で病院へ(ハッピーエンドっぽい感じ)

プロットを書くとやたら複雑で、わかりにくい作品みたいだけど、実際はとてもテンポよくチャッチャッと場面転換が進んでいくので、「あら」「まあ」とか言わされながら楽しめるのです。どんなに重いテーマでも、このさっぱりと美的感覚で明るく楽しめるのが、アルモドバル監督の持ち味なんですよ。なんか小気味よい。絶望しない死生観というか。不幸や死を忌避しない南米マジックリアリズムとも通じるアルモドバル監督の世界が、なんとも言えず好きなんですよね。