映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

ジュリアン・シュナーベル 監督「夜になるまえに」2547本目

ハビエル・バルデムがまだ若くて(なのに既に重厚)英語がちょっとまだ慣れない感じ。というかなぜキューバの映画なのに英語でしゃべってるのか。…アメリカ製作の、反革命政府の文学者の映画だからですね。2000年にはアメリカがキューバで映画を撮れたのか。あの海岸線、有名なアイスクリーム・パーラー、確かにハバナだ。

映画のモデルとなったレイナルド・アレナスは写真を見るとこの頃のハビエル・バルデムに似てますね。私が見たキューバの人たちは、みんなのんびりしてたので、こんな濃い人たちって想像できないのですが、独裁者のあとの革命の頃はかなり血なまぐさい時代があったのだと思います。

ディエゴ・ルナはいつ出てた?と思ったらまだ少年の役だった。ショーン・ペンはもしかして最初のほうに馬車に載せてくれた人?ジョニー・デップは…刑務所のドラアグ・クイーンの「ボンボン」か!そして高圧的な刑務官も。両極端の一人二役です。

音楽がルー・リードとローリー・アンダーソン。監督が彼らの映画も撮ってるからだな。

で、私の感想をいいますと、ひどい弾圧にあったんだなと胸が痛くなったものの、これはアメリカ映画だから「英雄カストロが実はこんな暴虐を!」という映画なのはお約束。キューバはロシア車がばんばん走っていて北朝鮮大使館も目立つところにある国だ。でも不思議と日本はキューバと悪い関係ではないらしい。日本共産党とゲバラとの交流の資料がゲバラ記念館に飾ってあった。

弾圧が強まるキューバからアメリカに亡命し、アメリカの流行り病で寿命を縮めて、最後は…<以下ネタバレ>

あらすじには「自ら命を絶った」って書いてるけど、ラサロが幇助したみたいでしたね。たくさん苦労したけどたくさん助けられた人生。カストロ政権下のキューバは多分、熱心なカトリック教徒で従順な人にはいい国かもしれないけど、個性があって自分が強い人にはいて欲しくなかったんだ。この人の人物像がいまひとつイメージできない。レイナルド・アレナスの著書を読んでみなければ。

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ペーター・ハントケ 監督「左利きの女」2546本目

ヴィム・ヴェンダースが製作に入っていて、彼の映画の脚本で見かけるピーター・ハントケが監督。そして、かなり若いブルーノ・ガンツの出演作品です。1977年。統一が1989年だからまだ完全に「西ドイツ」の時期の作品です。

だけどなんとなく北欧かロシアの映画みたいに画面が暗い。レストランなんて、灯火統制か燃料不足かと思うほど真っ暗です。

まだちょっと脂ののったブルーノ・ガンツ。「西」ドイツから北欧に仕事で長期出張をしてやっと帰ってきて、妻=左利きの女に、「絆を確認して、逆に君のいない生活を試してみたくなった」と言います。左利きの妻は「啓示を受けたから別れよう」という謎の宣言をする。子どもたちと退屈な日本映画を見に行く(家族で「おちゃらかほい」をやりながら泣いていた女がやがて微笑む、というのを延々見ている)。謎な静けさが、あれ、アキ・カウリスマキの映画だっけ?これ笑うところ?という不思議な既視感を伴います。小津安二郎の写真が壁に飾ってある場面があるところから考えても、この日本映画は小津の初期の作品だろうなと想像します。

ジェラール・ドパルデュー、どこに出るのかと思ったら、妻が電車に乗ろうとする駅でした。一瞬!(でもちゃんとクレジットされてるから気づいた)

 左利きの女というタイトルは、ある意味マイペースで頑固だけど迷わない強い女性というイメージなんでしょうかね。さらっと終わってしまう映画でしたが、カティ・オウティネンに代わってエディット・クレヴァ―が無表情のいい演技してたんじゃないかなっと思います。

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ウォン・カーウァイ監督「2046」2545本目

ブレードランナーは2046年だっけ?と思った人が1万人はいたであろう、冒頭のネオ香港的な街並み。違うんですよ、ブレードランナーの舞台は去年の2019年。しかもこの映画でいう「2046」は年号ではなくルームナンバーということになっています。美しい男女が美しい服を着て、夢とうつつを行ったり来たりする、ウォン・カーウァイの世界です。

常連トニー・レオンは、ちょっぴりオーラが弱まって、やっとちょうどいい感じ(今までは「愛してるよ」圧が強すぎて怖いくらいだった)。チャン・ツィイーは今回は悪い女の訳だけど、やっぱりどこか可憐ですね。遊んでやってるのよ、という風だったのが、すっかり惚れこんでしまって最後は後を追ってしまう。

ホテルの支配人の長女、フェイ・ウォンが付き合っている木村拓哉は「2046という場所から戻ってきた唯一の人間」。日本風味好きなんですね、監督。そこだけピキッと目が覚めたようになるし(母語だから)キムタクは重力(トニー・レオンの「圧」とも違う)がありすぎてあまり好きじゃないけど、香港映画の中では、敵でもあり憧れる部分もある、いいスパイスなのかもしれません。日本の映画にも外国風味や外国人はよくt出てきます。

コン・リーとかチェン・チャンも一瞬出てましたね。香港美形オールスターズ! 

相変わらず、「理解しよう」と思うと迷路に迷い込んでしまう映画ですが、ふわふわと楽しむ分には美麗で優雅な映像でした。大人たちの恋もせつなくすれ違うんだな…。

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山田和也監督「プージェー」2544本目

ちっちゃいおさげの女の子が、堂々と大きな馬を乗りこなしてる。カメラを向けると、馬が嫌がるから遠くへ行けと怒る。このりりしい女の子がこの映画の主人公です。

素朴な遊牧民の暮らし。「ゲル」の中は暖かく快適そう。解体したやつは、トラックで一気に運ぶんだな。昔はラクダが運んだんだろうか。この映画には音楽もないし映像効果もないし、知り合いの旅行のビデオを見てるみたいです。エキゾチックだけど懐かしいようで、ずっと見ていたくなる。続きをもっともっと。

彼らはこうやって彼らの昔ながらの暮らしをしてる。だだっ広い地平線に向かって毎朝毎晩牛たちを移動させる生活。雪の残る地面。顔はいつも強風にさらされてカサカサに日焼けする。 

国には国の都合もあるんだろうけど、他の国の政府がモンゴルを制圧したわけでもないのに、自国の政府が遊牧民をあまり十分に保護してないように見える。彼らは税金をあまり納めない仕組みになってるんだろうか。どんな国なんだろう。

映画を見終わってから、ずっと気持ちが沈んでます。ドキュメンタリーを見て、こんなに悲しい気持ちになったことないです。お父さんはもともといない、お母さんも行ってしまった、家畜たちもどんどん減っていく。

プージェーも…

そしておばあちゃんの優しい微笑みも…

たまたま日本からの冒険家が出会った一家族だけをどうこうしてもしょうがないんだろうけど、探検家 関野吉晴さんには強い思いがあっただろう。一度彼らのことを知ってしまったら、私ももう素通りできない。彼らが少しでも幸せにこのまま暮らしていてほしいと思うばかりです。

ウィル・グラック監督「ステイ・フレンズ」2543本目

まぁ笑っちゃうくらい徹頭徹尾オシャレなカップルだこと。めちゃくちゃ仕事ができて、すっごくルックスとスタイルが良くて超センスも良くて、最先端のイケてるお仕事、もうニューヨークなんて私たち二人のためにあるのよ!という世界。アメリカも日本もだけど、トレンディ映画やドラマで繰り広げられる”気の利いた会話”ってのを本当にやってる人たちっているんだろうか。本当にいたらお腹を抱えて笑ってしまって怒らせてしまいそうだ。いや、フィクションだから週末にビールでも飲みながら楽しめばいいのね。

ミラ・クニスって顔の1/4くらいが眼だ。ウクライナ出身のユダヤ人なのか。生き生きしてて誰から見てもチャーミング!リアリティのないキャラクターだけど、わりと実在しなくもない。ジャスティン・ティンバーレイクも、イケすぎててリアルじゃないけど、意外といるんだな。彼女の母親役(パトリシア・クラークソン)は、ルックスもキャラクターもYOUみたい。

美男と美女、NYもLAも憧れてしまうような素敵な家、素敵な眺め。…こういうのに素直に憧れて真似をするという選択もあったんだろうか。多分そのほうが単純に楽しいかったかもなぁ‥‥。

ステイ・フレンズ (字幕版)

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アニエス・トゥルブレ監督「わたしの名前は…」2542本目

哀しい、切ない、美しい、映画でした。万人が納得できるような勧善懲悪がもたらされないこの映画で、監督は何を表現、あるいは伝えようとしているんだろう?とても、そこに興味があります。

<ネタバレあります>

父親に罰が下されないこともモヤっとするけど、いちばん切ないのは優しいスコットランド人(イギリス人とは言わないのね、ヨーロッパではイングランドとスコットランドは明確に普段から区別されてるのかな)のドライバー一人が犠牲になること。アニエス・ベー監督の視点はどこにあるんだろう。少女か、その母か?

ドライバーはなんとなくケン・ローチの映画に出てきそうな、懸命に生きても世の中の犠牲になってしまいそうな人に見えます。

彼の”犬死に”は、「彼女がその名を知らない鳥たち」みたいです。今の自分の人生に唯一、光をもたらしてくれた花のために、自分は散りたい。と思えるとしたらそれってすごい。でも他の人たちから見て、そこまでの犠牲は、彼女の不幸をカバーしても有り余る。納得できるものじゃない。あえてこの映画で彼にこんな犠牲を払わせた監督の気持ちを知りたいなと思います。

音楽は、一流どころが提供していて贅沢なんだけど、流れる場面は家出少女と自滅に向かってトラックを走らせる移民ドライバーです。目の覚めるような美男美女がロンドンのルーフトップバーでたわむれてるんじゃなく。なんだ、私が家の近くでバスに乗ってるときに流したっていいんじゃん、というような不思議な気持ちにもなります。

白塗りの日本人舞踏家はエンドクレジットにAyaとDakeiとあります。調べたら表記は亞弥さんと雫境さんと書くようです。映画のなかでは自然のなかにいる野生の生き物か森の精霊みたいで、よくわからないけど綺麗でした。

2020年5月17日までUplink cloudで無料配信中です。あと1日しかないけどよろしければご覧になってみてください。

ロバート・ハーモン 監督「ヒッチャー」2541本目

キャスティングが絶妙ですね。ルドガー・ハウアーって逆立ちしても強面系(※「聖なる酔っぱらいの伝説」を見て繊細さにちょっと惚れた)だし、C. トーマス・ハウエルはどう見ても弱虫の少年。そんなに怖いならルート変えて逃げろよ…。普通、こんなに犯罪を重ねてたら他にも通報する人いるでしょ、等々つっこみどころがたっぷりな佳作(突っ込みも楽しみのひとつ)。あんだけ警官が大勢いて、まんまと女の子が犠牲になるとかないでしょう。とか。ルドガー・ハウアーが登場しない場面は緊張感が途切れて、なんでパトカーと競争してんだろうって気持ちになったり、わずか93分なのに冗長に感じる部分も多々ありますが、まあ最後まで見てあげてください。

ルドガー・ハウアーったら今回も殺人マシンだ。ほとんど人知を超えた神出鬼没の存在。C.トーマス・ハウエル君を究極的に嫌な気持ちにさせるためだけの存在です。見た目は体育系でさっぱりしてるのに、大変な粘着質。嫌がられるためにここまでできるのか…。こんな映画だけど、道沿いのドライブインのカウンターのコーヒーやドーナツになんだか憧れちゃうんだよな…。多分全然おいしくないんだけど。

在宅ワークの日々、ざっくりと今週の仕事を終えて、安いワインとおいしいツマミを気の利いたバーで買ってきて、B級サスペンス映画(失礼)を見るのが最高の楽しみ。映画って、最高傑作じゃなくてもいいんですよね。作り手の個性が楽しくて。家に根を生やしてても映画を見てれば世界中どこにでも行けるし。

しかしアメリカのハイウェイをダダ走るのってほんと怖いんだよね。何もなくて。車が故障したら死ぬかな、と思うけど(※携帯がいまひとつ普及しきれてないときに運転したことがある)、ヒッチハイクも怖いしバーで出会ったばかりの男の部屋に行ったりするのも、よくあんなことできる思なーと思う。最悪死ぬかも、と覚悟した上で冒険しまくる人生に憧れないではないですが…。