映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

デイヴィッド・リーン 監督「オリヴァ・ツイスト」2554本目

デイヴィッド・リーンですよ。新大陸へ大旅行をする大映画をたくさん残した、「インドへの道」「アラビアのロレンス」の。

オリヴァ君は端正なんだけどいじめられ続けて悲壮感が漂っています。彼が流れ着いた泥棒の親方はアレック・ギネス。まだダークサイドです。1948年の映画だからまだ34歳!なのに、魔法使いみたいなつけっ鼻の独特な容貌で、おじいさんみたい。彼のところに出入りする女、現れたとたん、ヘレナ・ボナム・カーターかなと思ってしまいました。彼女のこれ系のキャラはかなり鉄板ですから…。

映画は、最初のほうはひたすらオリヴァが不憫なのですが、彼がよい男性に助けられてからのアレック・ギネスやヘレナ・ボナム・カーター(出てないです、本当はケイ・ウォルシュ)、警察や町の人たちや犬、入り乱れての大騒ぎがなかなか面白いです。

下手すると、オーストラリア~タスマニアに送られてたかもしれない時代。DNA鑑定どころか血液型検査もしていなかった時代に、孤児として育てられた子どもの身元を探すなんて大変なことだったと思います。

でもひるがえってこれが現代だとしたら、トレインスポッティングの悪ガキたちがこの子達に取って代わったってことなのかな…。どちらがどう深刻なのか私には比べようもないのですが…。

オリバー・ツイスト(字幕版)

オリバー・ツイスト(字幕版)

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ウィリアム・ワイラー 監督「嵐が丘」2553本目

ローレンス・オリヴィエのやつ。また見ました。

いくらマール・オベロンが可憐でも、ヴィヴィアン・リー以外にはキャシー役は考えられない気がする。だってヒースクリフがローレンス・オリヴィエだから。彼の妻への愛情は、ヒースクリフがキャシーに捧げたような深いものだったんじゃないかと勝手に想像してしまうんですよね。「王子と踊子」は、当初舞台ではオリヴィエとリーが演じたのに、彼が監督した映画では踊子役を不慣れなマリリン・モンローが悩みながらやったことが、「マリリン7日間の恋」で描かれていますが、彼女がキャスティングされたことをリーが快く思わなかったという話もどこかで読みました。

そういう深い男女の因縁を、オリヴィエとリーで演じてくれたら、龍と鳳凰とかゴジラ対キングギドラみたいに、噴煙たちのぼる凄みのある作品ができたんじゃないかしら…

と、本編に触れずに自分の妄想だけを今回は語ってみました。ワハハ。

嵐が丘(字幕版)

嵐が丘(字幕版)

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ジュリアン・デュヴィヴィエ 監督「アンナ・カレニナ」2552本目

ヴィヴィアン・リー主演のやつです。クラシックの名作だけど私が先に見たのはキーラ・ナイトレイのごく最近のやつだけ。ヴィヴィアン・リーのほうが業の深さを体現してくれるのではないかと期待。

作りが1948年らしい、なんというか「まじめな」流れなので、ストーリーも正しく追えるし頭に入ってくるけど、アンナの業の深さは思ったほどすごくは感じられないですね。やけに美しい人妻と、若い愛人の道ならぬ恋、映画で「末永く幸せに暮らしました」というのは見たことがありません。アンナが貴族と軍人の間で揺れ動き、結局幸せになるのは額に汗して働く農民、という、まるでソビエトの到来を予感してたような原作だったんだなーと思いました。 

アンナ・カレニナ(字幕版)

アンナ・カレニナ(字幕版)

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ヴィクター・フレミング監督「ジキル博士とハイド氏」2551本目

上品なオープニング。純文学の洋書ペーパーバックの目次ページみたい。

ヴィクター・フレミングはジュディ・ガーランドの「オズの魔法使」の監督か。スペンサー・トレイシーは「花嫁の父」でエリザベス・テイラーの父をやった人、そういう年代の人なのか。彼の演技力は素晴らしいですね。それほど極端な特殊メイクもしていないのに、ジキルとハイドはけっこう別人に見える。何もかも違うから。

イングリッド・バーグマンはジキル博士の婚約者ではなく、ハイド氏をひっかける多情な酒場の女という安い役です。バーグマン様なのに!調べてみたら、1939年の「別離」でハリウッドデビューしていて「カサブランカ」はこの翌年。間に3本の映画に出演してどれも好評だったといわれているうちの1本が、この「ジキルとハイド」です。多分「間もなく大スター?」という位置づけだったのかもですね。

正確の善悪が入れ替わる薬を開発したジキル博士。自分を実験台にしてみたところ、大成功。なのですが、それは世に言う「プラセボ効果」ではないか…。

今なら、婚約者の前では堅物の演技を続けつつ、たとえば夜な夜な女装して出歩くとか、SMクラブに通うとか…ジキル博士の倒錯癖はその類が許される世の中なら日常生活を続けられるくらいだったんじゃないかなぁ。薬を飲むことで人格を交代させるというギミックは今は必要ない。そこだけは、今の方が昔より少しは自由になったと言える…のかな。

もうこの原作が映画化されなくなった理由がなんとなくわかった気がしました。

チャールズ・ヴィダー 監督「カルメン」2550本目

リタ・ヘイワースといえば、米兵が兵舎の部屋の壁にピンナップを張り付けてるというイメージ。これは第二次大戦後すぐの1948年の作品。彼女はブルネットの色白でぶっちゃけジプシーには全然見えないし、フラメンコはスペイン人が見たら怒るだろうという適当さだけど、男がみんな振り返りそうな明るくてさらっとした色気が素敵です。

リタ・ヘイワースについてググって驚いた。彼女の本名はマルガリータ・カルメン・カンシ―ノ、アメリカ生まれだけどスペイン系で本名がカルメンとは。見た目はゲルマン系の美人って感じなのにね。

一方、堅物の兵士を演じるグレン・フォードは、誠実そうな魅力がいっぱい。そしてカルメンに入れ込んで道を踏み外していく。昔の映画って「嘆きの天使」なんかもそうだけど、悪い女に入れ込んで破滅する純情な男のお話が多いですね。これは多分映画を作ってたのが男だけだったから、男性目線の被害者的発想なんだろうな。「悪い女」ってたいてい貧しくて親に売られたり、もっと悪い男に囲われたりしてた不運な女ばかりで、今のハリウッドでは彼女たちの方がかわいそうな人々だからね。古今東西の映画なんでも見てると、もはや善悪の設定はどうでもよくなってきて、映画としての魅力のほうを重視するようになってきましたが…。

木下恵介監督「笛吹川」2549本目

白黒フィルムを鮮やかに彩色した画面。1960年の作品。

面白いですね、なんか怖いですね。賽の河原かと思ったら合戦場のあと、累々と死体が横たわっているフィルムを紅色に染めています。今なら、元の色をもう少しうまく着色できるんだろうな。1960年っていったら1939年の総天然色「オズの魔法使」の21年もあとだ。監督が彩色を施した意図はなんだったんだろう。本当は彼らの生活にはちゃんとカラフルな部分があったてことか。それとも、ダークグレイの彼らの世界にときに鮮烈な災いが降ってきたことを強調したかったのか?

映画全体は、百年の孤独か千年の愉楽かというくらい、代替わりが次々に進んでいく大河ドラマです。冗談みたいに簡単に武士に切り捨てられる農民たち。(武士どうしもだけど)捨てられた動物たちの命に多くの人が胸をいためる現代に、この命の軽さは比較対象もないし想像するのも難しいです。テレンス・マリック「シン・レッド・ライン」を見たときに、アリの群れみたいに集団の一部として戦って死ぬ兵士の気持ちをはじめて想像したけど、この映画の農民たちはそんなふうに犬死にするくせに、本人たちは功労をあげて一旗揚げるくらいの大きな気持ちで戦地に向かっていたようです。死ぬとすぐどこかで赤ん坊が生まれる。輪廻転生を信じていれば死んでも悲しくない?というより、犬死にが悔しくないんだろうか。一生楽をして綺麗な服を着ておなかいっぱい食べて、家族に看取られて死ぬという普通の理想をそもそも想定してなければ、生きて死ぬ人生になんの不満があるか…ってことなんでしょうかね。人生60年で人は老いて死に、避妊もせずに子どもがどんどん生まれる世界。

川にかかったけっこう長い木造の橋がすごいです。かなりのリアリティ。これ映画のために作ったんだろうか。高峰秀子と田村高広が夫婦なんだけど、「張込み」ですでにちょっとくたびれた妻を演じた後の高峰秀子、汚れ役も堂に入っています。といってもこの老婆、今の私より若かったりして(絶句)。息子の名前を呼んで兵列を追いかける母の姿は、誰かも書いてたけど「陸軍」の田中絹代だなぁ。木下監督は戦後だいぶたってから時代設定を変えて、どんな気持ちでこの映画を撮ったんだろう。

合戦の場面は膨大な人数のエキストラですね。1000人はいるんじゃないか?…怖いな、当時は宗教めいた領主への従順で農村からこれくらいの若者が駆り出されて大勢が死んでしまったんだから。うまく使われてるなんて全然思わないまま、何かとんでもなく大きなことを成し遂げようとしているくらいの気持ちだったのかな。

見る者の胸をむなしさでいっぱいにする、挑戦的な作品でした。

笛吹川

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ガイ・ハミルトン 監督「レモ 第1の挑戦」2548本目

訳ありで組織に顔と名前を変えられて特別捜査官にされる、ってすごく既視感があるのは、この映画をあとのが真似たから?ではない気がするなぁ。謎のアジア人武闘家「チュン」ってどうもおかしいと思ったら一重まぶたふうにメイクしただけの「キャバレー」のジョエル・グレイですね。「クラウド・アトラス」のジム・スタージェスか「八月十五夜の茶屋」のマーロン・ブランドか。なんか、そこだけ「ドラゴンボール」みたいで、真剣に全米大ヒットを狙った作品だと思えない。主役のレモもたまにブルース・リー風に見えることがあるし、この監督は若干アジアオマージュな感じなんでしょうか。これほどギャグというかチュンに寄せ過ぎなければ「第二の挑戦」もあったか?なかったか?(笑)

最後の最後まで、もうなんというか、むかしお正月の「かくし芸大会」の中でやってたパロディドラマみたいなギャグの安さが…嫌いじゃないんですけどね。 

レモ/第1の挑戦 [DVD]

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  • 発売日: 2003/05/23
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