映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

ヴィクター・フレミング監督「ジキル博士とハイド氏」2551本目

上品なオープニング。純文学の洋書ペーパーバックの目次ページみたい。

ヴィクター・フレミングはジュディ・ガーランドの「オズの魔法使」の監督か。スペンサー・トレイシーは「花嫁の父」でエリザベス・テイラーの父をやった人、そういう年代の人なのか。彼の演技力は素晴らしいですね。それほど極端な特殊メイクもしていないのに、ジキルとハイドはけっこう別人に見える。何もかも違うから。

イングリッド・バーグマンはジキル博士の婚約者ではなく、ハイド氏をひっかける多情な酒場の女という安い役です。バーグマン様なのに!調べてみたら、1939年の「別離」でハリウッドデビューしていて「カサブランカ」はこの翌年。間に3本の映画に出演してどれも好評だったといわれているうちの1本が、この「ジキルとハイド」です。多分「間もなく大スター?」という位置づけだったのかもですね。

正確の善悪が入れ替わる薬を開発したジキル博士。自分を実験台にしてみたところ、大成功。なのですが、それは世に言う「プラセボ効果」ではないか…。

今なら、婚約者の前では堅物の演技を続けつつ、たとえば夜な夜な女装して出歩くとか、SMクラブに通うとか…ジキル博士の倒錯癖はその類が許される世の中なら日常生活を続けられるくらいだったんじゃないかなぁ。薬を飲むことで人格を交代させるというギミックは今は必要ない。そこだけは、今の方が昔より少しは自由になったと言える…のかな。

もうこの原作が映画化されなくなった理由がなんとなくわかった気がしました。