映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

ポール・マクギアン 監督「リヴァプール、最後の恋」2577本目

グロリア・グレアムという女優の出ている昔の映画を最近何本か見たので、彼女のことをもっと知りたくなりました。

演じたアネット・ベニング、ちょっと似ててぴったりですね。今も華やかで美しくて、だけど少し疲れてきてしまった、崩れる美しさがあります。それでも誰でも歳をとる。エルヴィス・コステロの楽曲もイギリスが舞台の映画らしくて雰囲気出してます。 ジェイミー・ベルの落ち着きも、普通なら手に余るような年上の経験豊富な女性を愛する大きさを感じさせます。

美しい人として生きたことのある人は、最後まで美しい。そういう鍛錬と努力と張りを保ち続けるっていう緊張感は、一般の私たちにはない。いくつになっても、そういう輝きが男性をひきつけるんだろうな。

リヴァプール、最後の恋(字幕版)

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  • 発売日: 2019/09/03
  • メディア: Prime Video
 

 

ジム・ジャームッシュ監督「デッド・ドント・ダイ」2576本目

シアターで見てそのあと3人でワイワイ飲みながら(※オープンエアのバーでそこそこ空間を取りつつ)話すという、いちばん幸せな見方ができました。シアターバンザイ、女子飲みバンザイ。

まず一言目に「コメディかよ!」ときて、「ティルダ・スウィントンとトム・ウェイツの役がおいしすぎ」「日本刀操る外国人、ていうか宇宙人、これ本当の日本人じゃダメなんだよね」「ユマ・サーマンでもちょっと違うんだよね」「イギー・ポップも生き生きしてたよね」「いやまずビル・マーレイ最高」「アダム・ドライバーいいよね良すぎるよね」…などなど。

ゾンビ映画は怖いんじゃないかというイメージは、日本では昨年「カメラを止めるな!」で払しょくされたので、この映画の新鮮味は少し薄いかもしれません。

小ネタとしては登場人物の名前に「~ソン」が多すぎるのはスウェーデン資本が入っているからなのか。スティーブ・ブシェミの犬の名前はラムズフェルト国防長官なのか。雑貨屋が一見の客に「フロド」って話しかけられるほど指輪物語の主役に似てるのか、むしろあのメガネはハリポタっぽくはないのか、などなど。

ゾンビ演技を指導する会社も実在するらしく、これからも怖くない新しいジャンルのゾンビ映画は増えていくのではないかと思われます。全員「ゾンビ映画のエキストラやりたい、超やりたい」で意見が一致。

この週末は「ハウス」、「ドン・キホーテ」ときてこれですから、巨匠ご乱心三大作品もうお腹いっぱいだ~

大林宣彦 監督「HOUSE ハウス」2575本目

<ネタバレだらけ>

やっと見た。あの大林監督の怪作と聞いてたけど、池上季実子!と大場久美子!が可愛いらしくて(檀ふみも!)池上季実子の父が笹沢左保だったり、新しいお母さんが鰐淵晴子(綺麗すぎてサイボーグ)。尾道三部作と同じように、少女たちの清純でデリケートな感情を美しく描いた作品じゃないですか。カキワリというより子どもの貼り絵みたいな背景、ゴダイゴのメンバーも出てたりして、少年少女の夢や憧れを詰め込んだ「学園もの・夏休み編」じゃないですか。

そして学校の場面のロケ地がまぎれもなく津田塾大学…知らなかった…廊下が似てるなーと思い、本館全景で確信。改装前のタイルが懐かしい。

華やかな女の子たちが「里山」バス停でバスを降りて南田洋子邸に向かう姿が、「ピクニック アット ハンギングロック」みたいで、不穏。

悪い予感は当たります。常にやたらと暗い室内。アニメーションと重ねたり、当時の特撮怪奇映画で使われていたような映像効果をふんだんに使って「いつもとちょっと違う」感を醸し出していて、なかなか面白い。全然怖くないというか、あえてあまり怖くしてない感じ。「タイム・トラベラー」みたいな昔のジュブナイルドラマの味わいです。なんで怖くないかというと、友達の首が飛んでても、友達の手首がホルマリン漬けされていても、「なんだか怖い気がするわ…ううん、そんなことない!」でスルーされるし、指や手首がなくなっていても「あら?ないわ」と笑顔。モンティ・パイソンかよ?あるいは大昔の「化け猫映画」とかはこういうテイストだったんじゃないか。

このくらいの薄い現実認識でいられたら気楽だろうな…。でも予想を超えて面白いです。今の私だからそう言えるだけで、10代のときに見たら「なにこれ?」って思ったかも…。

最後に新しい母となるべき鰐淵晴子が訪ねてくる場面が、無駄に長くファンタジックで、命を長らえることになんの価値も与えず「人の心に残り続ける…」で締めくくっちゃうのがまた面白い。普通の映画だと、彼女がもう少し早く着いてオシャレちゃん(名前の設定がないため鰐淵にまでオシャレちゃんと呼ばれている)と心を通わせて、思いとどめさせる…という流れになりそうなものだけど、この映画はとても斬新でした。こういうのを見ると、今の映画の価値観って古今東西問わず、わりと固まってるんだなということに気づきますね。

あーー面白かった!

HOUSE (ハウス)

HOUSE (ハウス)

  • 発売日: 2013/11/26
  • メディア: Prime Video
 

 

テリー・ギリアム監督「テリー・ギリアムのドン・キホーテ」2574本目

待ってましたー!テリー・ギリアム!ドン・キホーテ!

原題はちゃんと「ドン・キホーテを殺した男」なのね。そして現代の風車は粉ひきとか水くみじゃなくて風力発電…。という21世紀の設定で映画を撮りに来たはずだったのに、クレイジーな靴屋のドン・キホーテ翁に巻き込まれているうちに、オルガ・キュリレンコも中世の姿で登場。どこからが映画だっけ…?それでこそテリー・ギリアム。現実らしい現実を見せてもらうことなんて、はなから考えてません!

ジョナサン・プライスは本当に良いですね。「未来世紀ブラジル」から35年。いい顔になりました。スペイン語も自然です。そしてまさかの映画監督アダム・ドライバーが夕陽に向かって馬を走らせるエンディング。ああ、終わったんだ…本当に完成したんだ…(感涙)アダム・ドライバーも、これからますます癖の強い役者になっていったらいいなぁ。

もし年代とか生死関係なく、パイソンズの中から主役を選べたとしたら誰だろう?グレアム・チャップマンかな…。生きてたらいい具合におかしな老人になってたかもしれません。

ペドロ・アルモドバル監督作品の常連、ロッシ・デ・パルマが出てたはずなのに気づかなくて残念。オンデマンドで見ると、繰り返し見るとそれだけ「ギガ」を食うのでやめておくかなぁ…。(だから意外とDVD・Blu-Rayって便利なのよ) 

テリー・ギリアムのドン・キホーテ(字幕版)

テリー・ギリアムのドン・キホーテ(字幕版)

  • 発売日: 2020/04/28
  • メディア: Prime Video
 

 

アラン・ロブ=グリエ監督「ヨーロッパ横断特急」2573本目

家の有線インターネットを解約してWi-fi一本に絞ったのはいいけど、テレビがネットにつながらない日が多くて、なかなかAmazonプライムで映画が見られない。今日はなぜかつながってるので、切れるまでは見てみようと思います。

これはなんか怪しい映画ばっかり撮ってるアラン・ロブ=グリエ監督で主演があのジャン・ルイ・トランテイニャン。

…しかしコメントしづらい映画だなぁ。映画ごっこ?列車に乗った映画制作陣がこの映画についてあーだこーだと言いたいことを言っている。「マルコビッチの穴」みたいにトランティニャンは実名の俳優。彼は「運び屋」トライアル中。だけどしくじる。敵と味方を間違えて情報を渡してしまい、ブツも抜かれる。おまけに新聞広告にひっかかって「緊縛ショー」を見に行って捕まってしまう。素人っぽいなぁ。なんとなく、この映画、普通に作っても名作にはならなかったんじゃないか?メタメタな構造が物珍しいけど、それって「世界初の3D映画」とかと同じで、歴史的な価値が評価される作品なんだろうか。うーむ、私にはあまりよくわからないのでした…。

ヨーロッパ横断特急

ヨーロッパ横断特急

  • メディア: Prime Video
 

 

キャロル・リード監督「フォロー・ミー」2572本目

なぜ借りたか覚えてないけど、私が愛読しているレビュアーの皆さんが高く評価してるので、見るのが楽しみです。 

夫役のマイケル・ジェイストンが、なんだかモンティ・パイソンの(シリー・ウォークの)ジョン・クリースかピーター・セラーズに見える。イギリス紳士がみんな同じに見えるということか…。謎の探偵クリストファールー役のトポルって、こういう短い名前の人は大概コメディアンなんだけど、この人はイスラエル人の俳優で、イギリス映画にたくさん出てるんですね。珍しい経歴、珍しい芸名。

ここにミア・ファローが登場することになかなか違和感があって面白い。制作年が1972年だから、インドとか行ってるアメリカ西海岸のフラワーチルドレン(※ミア・ファロー自身1968年に訪れたらしい)が現れたっていう設定なんだろうな。

探偵の報告を聞いてがっかりしながら、夫は「アビー・ロード」みたいな横断歩道を渡って自宅へ帰ると、妻は”ほかの男の存在”について彼につまびらかに話します。彼女は徹頭徹尾、正直でストレート。ここにトポルが登場し、一回全部どんがらがっしゃーん、となった後役割交代が行われて、探偵は会計事務所でインチキなお留守番。妻はいつものようにフラフラと出かけて、夫が探偵装束の白いレインコートを着てマカロン(※このマカロンは今日本で人気の奴とちがってクリームが入ってなくておせんべいみたいだ)を携えて彼女を追います。ギャグだったのかぁ!

おかしな映画だけど、愛とか信頼ってのは、相手を知ろうとする情熱がベースなんだな、という基本的なことを思い出させてくれるから、とても心が温かく落ち着いてくるんですね。

フォロー・ミー【Blu-ray】

フォロー・ミー【Blu-ray】

  • 発売日: 2012/09/05
  • メディア: Blu-ray
 

 

ルパート・ジュリアン 監督「オペラ(座)の怪人」2571本目

ロン・チャニー出演で1925年制作の無声映画。KINENOTEでは「オペラの怪人」、TSUTAYAのDVDタイトルは「オペラ座の怪人」となっています。このDVDは淀川長治の解説入り。懐かしいなぁ。私が知ってる彼は、頭は白かったけど、もっともっと若かった。昔は最初に解説がないと、外国の映画の世界に入っていくのは難しかったのかもなぁ。

サスペンスものを白黒、サイレントで撮るっていうのは、必ずしも「不足」ではなくて、スリリングな、あるいはおどろおどろしい効果があって素敵です。

オペラ座の階段状の舞台、装飾された客席、屋上の天使像、地下に怪人が用意していたクリスティーヌのための部屋…いろいろと美しくて目をそらせません。怪人の形相も印象的。とにかく、すべての画面が綿密に設計されててとても美しい。楽屋から地下の隠れ家まで、馬に二人で乗っていくなんて!

この映画の場合、怪人がどういう生い立ちでどうやって生計を立てているのかは、明かされないままなのかな。最後めちゃくちゃあっけなくて気の毒なほどです。昔の映画ってこういう大衆によるリンチ殺人で一件落着って、ときどきあります。今みたいに何でもかんでも情報共有できてしまう時代ではなかったので、戦争のときの敵国のような「絶対悪」をみんなでとっちめる、という勧善懲悪の在り方が、見る人を慰めたってことなのかもしれません。

とても面白い、よくできた映画でした。