映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

アンドレ・ウーヴレダル 監督「スケアリーストーリーズ 怖い本」2648本目

<ネタバレあります>

ギレルモ・デル・トロ原案ですよ。きっと、どこか可愛い異形の者と子どもたちの物語だ。

遊園地のお化け屋敷みたいな映画でした。ハロウィンの夜に、中学生くらいの子たちが古いお屋敷に探検に出かけて、ひとりでに物語がどんどん書かれていく怖い本を見つけます。その物語のとおりに、一人、また一人と、仲間が姿を消していく…。

デル・トロが関わっている作品は、愛やまっすぐな心によって傷ついた魂が浄化されるお話なのだ。見終わったときの自分が正しい人間だと感じられて、ちゃんとお日様の下で健全でいられる感じ。

特別珍しいことが起こるわけじゃないけど、可哀そうなサラが成仏(仏教徒ではないけど、多分)できて何よりという気持ちになります。

ギレルモ・デル・トロ監督の手で、今後も悩める魂がどんどん昇天していってほしいです(?)。 

スケアリーストーリーズ 怖い本(字幕版)

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  • 発売日: 2020/06/03
  • メディア: Prime Video
 

 

マシュー・ミーレー 監督「ニューヨーク・バーグドルフ 魔法のデパート」2647本目

 ニューヨークにある「バーグドルフ・グッドマン」というデパートのことを取り上げた映画。タイトルが日本での知名度の低さを物語ってますねー。私もNYに行ったときにたまたま近くのホテルに泊まらなかったら、知らなかったかもしれません。日本に何店舗もあるバーニーズのほうが高級で有名なのかと思ってたけど、この映画を見る限り、「格が違う」。ロンドンのハロッズとも違います、あれは巨大でファッション以外のあらゆる商品をなんでも置いてある百貨店だから。

このデパートは本当に何もかも美しくて、うっとりする素敵なお店でした。私はハイ・ファッションは自分で身に着けるものじゃなくて美術館のアートのように思ってるので、ただ目を輝かせてお茶でも飲んで帰ってきただけですが…。

この映画も美しく素敵でした。が、やっぱり、トップレベルの販売員の年収が40~50万ドルというのは衝撃。アメリカの貧富の差がすごいとは聞いてたけど、店舗を訪れたNYの顧客も驚いてたので破格なんだろう。

バーグドルフ・グッドマンは2013年っていってたかな、ハワイに拠点を持つニーマン・マーカスというデパートに買収された、という字幕がこの映画の最後に流れます。ニーマン・マーカスも素晴らしいデパートです。ハワイ一度だけ行ったとき、そこのレストランで軽いランチを食べたんだけど、それがまた素晴らしく綺麗で美味しかった…

栄枯盛衰だわ、と思ってググってみたら、コロナの影響でニーマン・マーカス傘下の、バーグドルフ・グッドマンを含む全店舗が一時休業、そして2020年5月28日に破産法の適用を申し立てたというニュースが眼に入りました。コロナの影響は外食産業や旅行業には巨大なダメージを与えてるけど、ITやゲーム産業はむしろ潤っていると聞くので、高級衣類を買う大金持ちは絶滅してないと思うけど、コロナは人に外出を自粛させるので、どんな大金持ちも家や近所で過ごすための服しか要らなくなるんだろうな。

憧れるけど、どうしてもなんとなく、はかない気がするファッションの世界。一生のうちもう一度行けるかどうかもわからないけど、あの素敵なバーグドルフ・グッドマンやニーマン・マーカスはずっと素敵なままでいてくれたらなと思っています。

ニューヨーク・バーグドルフ 魔法のデパート(字幕版)
 

 

メアリー・ハロン 監督「アメリカン・サイコ」2646本目

なにこのアメリカン・「ヤンエグ」の人たち。機内誌に載ってるような男性用化粧品を一式使ってる人って存在するんだろうか。会議の前に名刺の紙質やフォントでセンスを競う場面とか、何の虚栄の集いだと思うけど、前に外資系IT企業のはしっこに勤めてたとき、マーケティングの若い男たちが会議の前に時計の自慢をしあってたのにへきえきしてたのを思い出した。でもこの映画では、これはもしかしたらギャグなんだろうか。

クリスチャン・ベールのアクの強さが、この映画でもいい具合にムカムカします(ほめてます)。すぐに世を去らなければならない赤毛のイヤミな男は、ジャレッド・レトだったのか。真面目そうな秘書、クロエ・セヴィニーはあれだ。デッド・ドント・ダイの真面目な婦人警官だ。

自分には感情はないという彼が、犯罪で感じる快感、あるいは犯罪で発散するうっぷんは何なんだろう。何で彼は80年代のヒットチャートの曲について誰でも知ってるようなことを「Did you know?」って勿体つけて話したがるんだろう。

‥‥堰をきって泣きながら叫びだした後の彼を見てると、ああディーラーってのはものすごくストレスを内側にため込んでカッコつける商売なんだな、と思った。仕事の中身は何も語られないし、ヒマそうにしてるところしか見られないけど。

彼は殺人鬼なのか、仕事のストレスで精神に異常をきたした人なのか?

本当にこんなに連続犯罪をしていたら、どっかで「探偵」じゃなくて警察が騒ぎ出すだろう。全部か一部かはわからないけど、幻覚か妄想なんじゃないかなと思われますね…。その辺のぼかし方が、いい方向にかならずしも行ってないかんじ。こわ~~!って思って見てたはずなのに、いつの間にか、軽い気持ちで笑って終わりそうになってる。映画自体が特段目立たなくても、エンディングでしっかりショックを与えてくれる作品って絶対忘れない(13日の金曜日とか、ザ・バニシングみたいに)。この映画は、「結局なんだかわからなかったような」という気持ちで終わってしまう感覚がちょっともったいなかった気がします。クリスチャン・ベールの怪演も、ほかの俳優さんたちもとてもよかったので。 

アメリカン・サイコ(字幕版)

アメリカン・サイコ(字幕版)

  • メディア: Prime Video
 

 

白石和彌 監督「ひとよ」2645本目

重いテーマです。実際どうなんだろう。

「誰も守ってくれない」では、犯罪被疑者の家族は警察のアドバイスですぐに改名して転居してた。たまたま被疑者の近くに住んでる人たちに共通点は特にないはずだけど、どこに住んでいても周囲の人たちは同じように家族まで攻撃するんだ。あーいうのって本当に嫌だ… 心の中に何があっても、人を傷つけなくてもいいでしょうに。私は心の中にモヤモヤやドロドロがあっても外に出さないでいい子にしている方なので、むき出しの悪意には耐性がない。

でも、心の中にあることをぶちまけたりできる人のほうが強いのかな。怒鳴り合っても愛情を確信できる家族のほうが強いのかな…。いい歳になっても難しくてよくわからない。

ペドロ・アルモドバル監督の映画みたいに単純に悪者として滅ぼされたお父さんの名誉回復はないんだろうか、母の回想がそれを物語っているんだろうか。

どうしても、絶対にいい人も絶対に悪い人もいないように思えて、いい子ちゃんっぽくて嘘くさいけど、人間みんなどこかは同じだと思いたいんですよね…。

ひとよ

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  • 発売日: 2020/06/24
  • メディア: Prime Video
 

 

ミロシュ・フォアマン監督「アマデウス ディレクターズカット」2674本目

1984年の作品か。私はどうやって見たんだろう?公開まもなく見て、アマデウスの才能と品のなさ(あの高笑い!)、サリエリの嫉妬深さや狡猾さに強烈な印象をもった記憶があって、いつか見直そうと思ってました。改めて見てみると、アマデウスと妻がいちゃつく場面なんかは、ソフィア・コッポラ的。虚飾の果ての崩壊は美しい。若い天才を追い詰めて死に至らしめる悲劇は胸を打つ。このキャスティングは本当に素晴らしすぎますね。F.マーリー・エイブラハムもすごいけどトム・ハルスの無邪気さや破滅的なもろさに胸を打たれました。

いま見ても、前と同じように胸が痛くなるなぁ。アマデウスがマイケル・ジャクソンとかエイミー・ワインハウスとか、天才的な才能を持ちながら周囲の期待やあつれきや嫉妬に押しつぶされて夭逝した人たちと重なってくる。夭逝しないまでも押しつぶされてしまった人は大勢いる。彼らの”取り巻き”、お金や才能に群がってきていた人たちは、自分にないものを持つ彼らに憎しみを持っていたのかもしれない。憎まれて当然の人にたかっているだけだ、と思わなければ取り巻きにはなれない、人間って自分を常に正当化するから。(逆に憧れ続けるのも残酷なんだよね。もしアマデウスがサリエリが憧れるような上品で美しい若者だったとしても、どこかのタイミングで期待を大きく裏切るかもしれない。)

画面の中のことを現実として胸を痛めてしまうくらい、アマデウスは本当に才気ばしった青年だしサリエリは悪魔みたいだ。でも、若い頃に見たときと違って、サリエリが特殊な悪魔だとは思えない。このくらいの悪魔はいくらでもいるし、サリエリのかけらはたいがいの人の心の片隅に、隠れてるけど、ある。

思ってたより美しく、リアリティと痛みに満ちた傑作でした。構成も完璧だし配役も演技も素晴らしい。上手というようなレベルじゃなくてそれぞれが一瞬、一瞬を生きてる。アカデミー賞8部門独占もなるほど、でした。

アマデウス ディレクターズカット [Blu-ray]

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  • 発売日: 2010/04/21
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村野鐵太郎 監督「国東物語」2673本目

1985年の作品。大分合同新聞社や大分県、教育委員会などの協力で作られていて、ご当地大河ドラマのようです。いまレンタルできるDVDはVHSからのダビングかも?かなり画質が悪くて、ポルトガル語からの字幕がつていますが右側に縦に焼きこまれていてオンオフもできません。音声は少し割れてるけど聞けないことはないです。

後に大友宗麟と名乗る大友義鎮を演じたのは隆大介。精悍でいい顔をしてます。お侍さんたちとポルトガル人宣教師が会う絵面とか、なかなか面白いんだけど…もう少し画質が良ければなぁ…。

もともと時代劇は苦手なので、入り込めないまま終わってしまいました。。。 

国東物語 [DVD]

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  • 発売日: 2013/07/26
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ヴェルナー・ヘルツォーク監督「キンスキー、我が最愛の敵」2672本目

ファスビンダー監督やヘルツォーク監督の作品を探しあさって見たのは去年か。そのときにこの作品もTSUTAYAの宅配レンタルで見つけてずっと予約を入れていてたんだけど、やっと届いた。TSUTAYAのサイトでこの在庫枚数を見たら、この1枚だけらしい。少な!でもすごくレアなものを手にしたような不思議な感慨。KINENOTEで感想を書いた人は4人だけでそのうち3人はレンタルDVD。同じDVDをめぐりめぐって見てる人がいるとしたら、それも不思議な感慨だ。

それにしてもキンスキー。このドキュメンタリーでは若い頃の戦争映画での映像も見られるんだけど、あれは印象に残るな。

芸術は爆発なんだな。監督やキンスキーにとっては。「フィッツカラルド」

をミック・ジャガーで撮ろうとしていたときのテスト映像みたいなのがこのドキュメンタリーの中に少し入ってるんだけど、あのミックジャガーにして、キンスキーの迫力の10分の1もなかった。画面に力を与えるために自分を使い倒したけど、本当は森の生き物も怖がる小心者だったキンスキー。だけどあんな映画を撮るヘルツォーク監督のほうがフィッツカラルドなのだ。

そういう時代を経たあとにヴィム・ヴェンダースみたいな監督が出てきたのかな。

キンスキーがポエトリーリーディングみたいな舞台で、極端に汚いものを羅列する映像が冒頭とかにあったんだけど、あそこまでいくとかえって美しいように思えました。 

キンスキー、我が最愛の敵 [DVD]

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  • 発売日: 2001/09/26
  • メディア: DVD