映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

塚本晋也監督「TOKYO FIST 東京フィスト」2721本目

塚本晋也自身が主演で、彼の実弟のでボクサーの塚本耕司が共演。二人で争う女は藤井かほりが演じます。3人とも存在感が濃くて、異常に熱くわだかまるマグマみたいなものが体の中に詰まっている感じ。塚本作品って変わらないなぁ。マグマはどこから来るのか、要は何なのか、何を目的としてどこへ行くのか、何もわからずひたすら爆発を待ち続けている。まったく共感はしないけど、昔も今もこの一貫した熱の伝え方はすごいと思います。 

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エドワード・セジウィック監督「キートンのカメラマン」2720本目

活動写真はあってもスチル写真のカメラをまだ一般の人は持ってない時代だったんだな。1928年は昭和3年。記念写真屋のキートンは、いっぱしの報道カメラマンを目指して事件を追いかけますが、まぁ喜劇なんで「これはないだろう」というような失敗続き。

ジムでは、太った男性と狭い更衣室でいつまでたってもぶつかりながら着替えてるのがまどろっこしい…その後たどり着いたプールでは、女性の水着がこの頃はもう普通のワンピース型だなぁ、なんてところに注目してみたりして。(袖が長くて太ももあたりまで覆うような昔の型じゃなく)帽子をかぶってる人が多い以外は、ファッションもデートも、さほど今と違わないのに車やカメラが恐ろしくクラシックなのが面白い。この100年たらずで電子機器テクノロジーは格段に変わったけど暮らしかたはあまり変わってないんだな。

いつの間にかキートンは活動写真屋になっていて、サリーの情報をもとにあちこちに取材に出かけます。

チャイナタウンの場面では中国人がみんな土産物みたいな帽子をかぶってチャイナ服を着てるけど、当時ほんとに着てたのかな。この場面は大勢で撃ち合い、取っ組み合いなどがあって、ダイナミックで面白いです。おサルさんも大活躍!というか、おサルさんしか活躍してない(笑)。新聞社はおサルさんを社員として迎えたほうが良かったんじゃないかな‥‥。

 

バスター・キートン監督「海底王キートン」2719本目

1924年は大正13年。あまりに昔で当時のアメリカの文化が想像できないけど、ノリが今と変わらなくて不思議。「全然笑えない」と感想を書いてる人も多いけど、古すぎてわからないというより、今はもう使い古されたってことかなと思います。すぐ女性が気絶するのが昔っぽいことを除けば、身体を張って海に飛び込んだり椅子が座ると壊れたり、というのは、きっと当時は新鮮だったんじゃないかな。船内が常にちょっと揺れてるのは、カメラのほうを動かしてたのか?それとも船室にカメラを持ち込んでロケをやったのか?それにしては光の量が多いので、だとしたら相当な照明を持ち込んだんだろうな。

着るものがなくて水兵さんの服を着る女性の姿が可愛い。二人とも世間知らずで、転んだり滑ったり、びしょぬれのトランプでヒマつぶしをしおうとして当然ぐちゃぐちゃになったり。ときどき出る文字の説明を字幕は半分くらいしか訳していなくて、雰囲気を十分に伝えてないのはちょっと残念。それしか情報ないので(笑)。

裸に腰ミノだけの人たちを見て「人喰い族よ!」ってのは、今ならないよな…。

 

ロマン・ポランスキー監督「ナインス・ゲート」2718本目

映像がすごく古っぽいので1980年くらいの作品かと思ったらジョニー・デップが出てる。といっても1999年の作品なのでもう20年以上前ですね。

アンティークな図書館って大好き。アイルランドのトリニティ・カレッジのロングルーム では、タイトルがわかる本も一冊もないのに、ただそこに本が鎮座してるだけでうっとりしてそこに住みたいと思ったくらい…。なので、この映画は私から見ると「ひきょう」だ。内容関係なくうっとりしてしまう…。

というこの、ゲームやアニメなら「世界観」と呼びそうな、古めかしい雰囲気、エマニュエル・セニエのいつも怪しい態度などにけむに巻かれながら、まっすぐに迷宮に迷い込んでいくジョニー・デップと一緒にずんずん映画の世界に入り込んでいきます。

でも、さんざんポランスキー監督の映画を見てきて思うに、彼はこの「迷い込む感じ」が作りたい人で、オチはあまり付けたくないというか、ストーリーのキレにこだわる監督じゃない気がしています。エマニュエル・セニエの正体は明かされないけど、バルカンを超える本物のルシファーに近い存在で、彼女が求めたのは不死の肉体なんかではなくてジョニー・デップの子供を(ローズマリーの赤ちゃんのように)身ごもることだったのかもね…。

今は映画の最後のキレとか意外性がすごく求められる時代だと思うので、(だからこそ、エンディングがショッキングすぎて「カルトムービー」にしかなれなかった作品が脚光を浴びたりしている)この映画はかなり不利ですよねー。

でも雰囲気映画も嫌いじゃないので、引き続きポランスキー作品も見ますよ。

ナインスゲート(字幕版)

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ルイス・ブニュエル監督「この庭に死す」2717本目

私の好きなブニュエル監督、まだ見てない映画が何本もあります。これもやっと回ってきました。なんか、監督らしくないな。言語がフランス語だし(監督はメキシコ人なのでスペイン語が母語)。南米でフランス領といえばフランス領ギアナだろうか。(いまも独立せずフランスの海外県)

主役の「よそ者」を演じているジョジュル・マルシャル、フランスのごつ目の二枚目といえばジャン・ギャバンみたいな存在感かな。彼が出会う娼婦を演じるのがシモーヌ・シニョレ。高そうな時計をした神父がミシェル・ピコリか。この彼は今まで見た中で一番若くてまだ28歳。聖職者らしい清潔さがあります。。。えっ彼ことしの5月に亡くなってたの!?うわーショック。。。知らなかった。。。ピコリ~・・・(涙)

娼婦とならず者と親子と牧師、ダイヤモンド鉱山を追われるところまでは、西部劇でも見ているような感じなのですが、彼らはジャングルに逃げ込んで生き延びるために蛇を狩ったり藪を歩いたり…さまよう彼らが、不思議と「逃げ惑うブルジョワジー」に見えるのは、ルイス・ブニュエル作品の見過ぎでしょうか。ジャングルでの彷徨もまた、人間性をむき出しにする舞台装置 。汚れて破れた服の彼らはもう身分も立場もありません。すっかりワイルドになったピコリがベン・アフレックに見えてきます。

そして終わり方はまた、身も蓋もなく、善人や改心した人が生き残るというわけでもなく、いろんな偶然にうまくひっかかった二人が最後に湖へとゴムボートを漕ぎだして映画は終わります。「この庭に死す」の庭って何のことだったんだろう…。

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グリンダ・チャーダ 監督「カセットテープ・ダイアリーズ」2716本目

今回も感想が長くなりそうだ。

ブルース・スプリングスティーンは高校~大学にかけて、暗い部屋で密閉式ヘッドフォンをつけて、目を血走らせて聞き込んだアーティスト。この映画で流れる楽曲も、歌詞まで覚えていて一緒に口ずさんでしまったほど。「ボヘミアン・ラプソディ」と同様、昔あんなに好きだったのにすっかり忘れててごめんよ、という気持ちから始まりました。

「闇に吠える街」から聞き始めて「アズベリー・パーク」「青春の叫び」「明日なき暴走」と燃えて聴いたのに、その後「ザ・リバー」「ネブラスカ」とサウンドが枯れていって高校生の私は熱い心を持て余したのですが、復活作「ボーン・イン・ザ・USA」が出たら売り切れ続出して、出かけた先の国立のディスク・ユニオンで輸入盤を買ったんだったなぁ。

田舎の高校生の私は家族の問題で胸がつぶれそうになっていて、なんとしてでも東京の大学に進学して、その苦境から脱するために毎日家事と勉強に血眼になって励んでいました。私にとってのブルースは「キャンディズルーム」とか「暗闇に突っ走れ」の中の、自分をバイクに乗せてさらってくれる、ボスというよりジェームズ・ディーンみたいな若者でした。「ボーン・イン・ザ・USA」はバカ売れしすぎてボスは遠くなり、同時に私もバンドや勉強に追われて、母が亡くなって東京で就職して、すっかり音楽から遠ざかっていきました。

しかし1992年に行ったロンドンのタワレコやHMVでは、日本ではとっくにすたれたカセットテープの新譜がCDと並んで売られていて驚きました。「USA」が1984年、この映画の舞台は実はわずかその3年後なのでカセットが出回ってても当然だし、まだ父親世代と言われるほど古くはなかったはず。この映画の原題はブルースのデビュー曲、この映画の「オチ」ともなっている「Blinded by the light」なのにカセットテープに固執する邦題は、カセットテープによるソフト販売が早くすたれた日本では「信じられないくらい古ーい」っていうところから来るのでしょうが、ちょっと悪趣味ですね。

イギリスの職場の同僚たちは、宗教や民族の違いを笑いながら話してるのが私には驚きで、気を使ってそういう話ができないアメリカの職場の同僚よりよっぽど開けてる気がしてたので、「パキ出ていけ」はちょっとショックだったけど、ロンドン中心部じゃなくて郊外の町だと昔からそうだったのかもしれない。

ストーリーはとても素直な、家族と若者の成長物語なんだけど、歌詞の深みもジャヴェドの痛みも、光に向かって突っ走る彼の無垢さも、私にはあまりにも自分のことのようで、フラッシュバックして頭がクラクラしてしまいました。

ずしっと来たのは、今の自分とその頃の自分の違いを見せつけられたこと。今は人生の敗北者のような気持ちで過ごしていて、しかもそれが運命とか育ちとか環境のせいだと思っている。あの頃の私は逆境を自力で克服できると信じて目を輝かせてた。実際状況がどれくらい違うかというと、年をとって未来はぐっと短くなったけど、風呂トイレ電話共同の四畳半のボロアパートより安心して住めるもっと広い家に住んでるし、昔からの友達もいれば最近仲良くなった人もいる。当時夢見た具体的なことは何も実現できなかったけど、たぶん他の人から見れば何不自由ない楽しそうな生活だろう。何でそういうのに満足して目を輝かせてないんだろう?ってのがこの映画を見た最大の気づきというかショックでしたね…。逆にいえば、何歳になっても今夜好きなご飯を食べておいしいお酒を飲めるとか、明日散歩に出かけて小さなカフェに行くとか、まあまあ幸せを感じることはできる。高校生の頃の自分に満ちてた「希望」を思い出せて、私にとっては重要な体験になりました。

「ビコーズ・ザ・ナイト」はすごく好きな曲だけど、今までずっと何十年もパティ・スミスが自分で書いた曲だと思ってた。言われてみればブルースっぽい気もする。夜は恋人たちのもの、欲望のもの、なんていう熱い恋愛に憧れた気持ちも懐かしい。年を取るといろんなことに慣れたり飽きたりするだけど、気持ちは本当は衰えてないのかもしれないのにね。

ところで、小太りな友人マットは「1917」で兄を助けるために走った彼だ!同一人物だとわからなかった。彼うまいなぁ。

カセットテープ・ダイアリーズ(字幕版)

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湯浅政明監督「映像研には手を出すな!」Episodes 1-2(TVアニメ)(KINENOTE未掲載)2715本目

これ面白いね。音楽でもアニメでも何でもいい、こどもがおとなになる途中で、一番夢中になっている憧れの世界にずいずい踏み入っていくこの感じって、一生で一番ウキウキする時間だ。今年の始めにNHK総合で放送されてたのに全然知らなかったって、最近情報収集力がほぼゼロになってるな…。

キャラクター設定もいい。美少女だろうが男の子みたいだろうが守銭奴だろうが、気持ちは同じ。主役のオタクの権化みたいな浅草氏の声が伊藤沙莉ってのがまた、男の子っぽくて良い。

DVDで6枚出てる(1枚あたり50分と短いけど)ので、一気に見切れるか微妙だけど、この世界は少女時代のときめきを思い出せてとても良いので、ぼちぼち見てしまおうと思います。

 不思議と、実写版を見ようと、今は思わない…。