映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

「パール・ジャム:ロック・レジェンズ」2928本目(KINENOTE未掲載)

いろんなVODで配信されてるけど、Amazonによると「監督不明」だって。KINENOTEにも載ってません。わずか22分の作品だけど、このシリーズ見たいものたくさんあるなぁ。

このあたりから、汚い恰好をしたロッカーが現れるようになったんだよね。(安全ピンをいっぱい刺したパンクスが消えて)私はこのグランジという流れにはついていけてなくて、ニルヴァーナをMTVで見るくらいでパール・ジャムはもっと知らなかったんだけど、取引先の人のお兄さんだかがマネージャーをやってるとかで、武道館公演のバックステージパスをもらって見に行ったのでした。メンバーの名前もボーカルしか知らなくてごめんなさい!って感じだった。あんまりよく覚えてない。でもすごくドキドキしました。会社ってところもバックステージという世界もよくわからなくて、なにかキラキラ見えていい時代だったな(自分の若い頃という意味で)。なんとなく今はアーティストはビジネスアイテムのような存在になってしまった。制作会社にしばらくいたけど、ドラマを作らない会社だったからか、不思議と俳優には今もいい距離感があって、憧れたりできるのでよかった。

エディ・ヴェーダ―がすっかりいい感じのおっさんになってて、貫禄あるんだけど今の方が好きかも。ずっとやってるバンドって、サウンドの角が取れてて確実に円熟してるよなぁ。もうこのままずっと続けてほしいです。 

 

ヘクトール・バベンコ 監督「蜘蛛女のキス」2927本目

8年前に見たけど、ぜひもう一度見たかった。

やっぱりラウル・ジュリアがいいんだよなー。ウィリアム・ハートもとてもいいけど。

最初は堅い表情のテロリストなんだけど、だんだん同室の”オカマ”の話に心を開き始める。笑ったり自分の話をするようになると、急に人懐こい表情になる。

前に見たときは「最後に悲しい」と思ったけど、8年分年を取ったからか、いつかはみんな死ぬんだから、本当に幸せな一瞬があればいいって思うようになった。刑務所のなかの二人が良すぎて、ラウル・ジュリアが塀の外に残してきた恋人の影がちょっと薄いくらい。

政治犯に対する捜査って厳しい。なんて非人道的な、とこの映画を見てると思うけど、塀の外で彼は多数の人を殺したのかもしれない。決して愛だけに生きる優しい男として描かれてるわけじゃない。

でもやっぱりこの映画ほんとに好きだな。

蜘蛛女のキス(字幕版)

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ルキノ・ヴィスコンティ監督「夏の嵐」2926本目

ヴィスコンティ監督の作品は「美学」というしかないような監督の美意識がムンムンしてる。宝塚なみの濃さ。

アリダ・ヴァリは「かくも長き不在」を見てしまったので情念の女のイメージが強いんだけど、こんなに若い頃から、むせ返るような一方的な情愛で画面から湯気が出るほど熱く感じられます。すごいなぁ。一途なんだろうなぁ。(役柄だけど)視線が強すぎて鉄でも焼き切ってくれそう。(いつまで言ってる)

それに引き換え、彼女をひっかける若いチャラ男(ファーリー・グレンジャー。口パクだなと思ったらアメリカ人だ)。ちょっと可愛いような女好きする雰囲気があるけど、最初からまったく彼女に気がないのが、映画で見てる私たちにはわかるのに、彼女にはまったくわからない。あ~あ、あなたの純情はこんなクズに捧げちゃダメよ~~(思い入れてしまうくらいの熱い演技)

彼の本命の若い女、ラウラ(リナ・モレリ)がまた印象派の絵画みたいにキレイ。アリダ・ヴァリもまだ33歳なんだけど、少女みたいなこの子と比べられるのはちょっと辛い。さっさと逃げ出せばいいのにその場に居残って傷に自ら唐辛子を塗りこむ。傷口から火が吹きそうです。その思いが復讐へと向かうのは当然。

なんとなく、イタリアの映画なのに源氏物語とか連想してしまいました。愛憎の果てだからかな…。しかし脱走兵って問答無用の銃殺なんだ。このクズ野郎にはふさわしい最期だ…。あんまりひどい役なので、地元イタリアでは演じたがる俳優がいなかったからアメリカから呼んだのかな…。

とにかくアリダ・ヴァリすごかったです。 

ステファン・エリオット 監督「プリシラ」2925本目

この作品は、90年代に働いてた会社のゲイの同僚の話に出てきた記憶があります。ドラアグ・クイーンが出てくる映画って意外と何本も見てるけど、この映画はどういうアプローチなんだろう。

ていうかクイーンたち、テレンス・スタンプとヒューゴ・ウィーヴィングとガイ・ピアースじゃないですか。またずいぶん男らしい人たち。草彅剛がミッドナイト・スワンに出るような状態かな。多分リアリティという意味では本物のドラアグ・クイーンにかなわないけど、この意外性と、ふしぎと彼らの中にも女性性が潜んでいたんじゃないかと思わせる演技が見ごたえあります。これもまた演技力のたまもの、良い役者マジック。

本当に3人とも生き生きと演じてて素敵なのですが、中でもこのとき55歳のテレンス・スタンプの達観したような不思議な美しさから目が離せません。ステージでは二人に比べてあまり乗り切れず、ダンスもパフォーマンスもちょっと中途半端かな…(というか二人は本物じゃないかというくらいノリノリ)最近はミステリー映画の厳格な老刑事とか演じてることが多いけど、あえてその年齢での「元ドラアグ・クイーン」演技も見てみたいなぁ。

彼女たちをオーストラリアの砂漠のど真ん中にもってきたのがまた、愉快。ハリウッド近辺の北米の砂漠とも違うエキゾチックな荒野が美しいです。

この作品って舞台化されたんだな、そういえば日本の舞台の宣伝を見たのを思い出しました。それにしても衣装が奇抜ですごい。ギャグ寸前。それも含めてすごくポジティブでハッピーな気持ちになる作品でした。うまく説明できないこの多幸感…。 

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デイヴィッド・リンチ監督「デューン 砂の惑星」2924本目

時代のせいか(1984年作品)、「ラビリンス(1986年)」と似た作り物っぽさをずっと記憶してるんだけど、全ツインピークスをはじめとするリンチ作品を見直しているのでこれもみなおしてみました。

当時は「スティングやっぱ美形だな」しか意識しなかったけど、カイル・マクラクランは何というか…たまたまアイドルに持ち上げられたけどすぐ身を持ち崩しそうな美少年、みたいな危うい雰囲気があるなぁ(ひどいこと言ってますが)。リンチ監督は彼のそういうか隙のある、悪にも流れかねない軸のなさみたいなのをきっと気に入ったんだろうな。

あ、リンチ監督出てる。砂の上を走る乗り物のドライバーだ。…しかしストーリーがさっぱりわからないな…。2回通しで見たけど。監督が監督だから、わかりやすさを重視しなかったんだろう、という推測をしてしまう。暗い画面、心の中であれこれつぶやく登場人物たち、異形のものたちなど、見ていて面白いものは多い。しかしこのわかりにくさは、マルホランド・ドライブやツイン・ピークスみたいに「謎めいて面白い」と感じない。理解すべきことが理解できない、っていうフラストレーションがちょっとだけある。(その一方で、わからないけど見てて面白いからいいや、という気持ちもある)

昔これ見たときは多分、自分にはどうせ理解できないと諦めて眺めたから「意外と面白い」と思ったんだろうな。でも30年後に見ても「わからないけど面白かった」としか書けないとは、進歩のなさを露呈してるな私…。

デューン (字幕版)

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サーラ・カンテル監督「オンネリとアンネリとひみつのさくせん」2923本目

オンネリとアンネリはもう、アメリカの学園ドラマ(ハンナ・モンタナみたいな)とかに出るようなギャルに育ちあがっています。ファッションももう「お揃い」じゃなくてそれぞれの個性を出しています。…これもいいけどやっぱり、可愛さでは「ふゆ」のドレスみたいなコートにフェルトのポシェットみたいなお揃いのリュックが最高だったな~

今回は親のいない子どもの家の経営に関する社会的な問題がど真ん中に来ています。大きくなる魔法も使えるのに小さいままの一家も、バラの未亡人も、お隣の魔女たちも、やさしい警官さんも、いつも通り…だけど警官さんはとある事情で転職することに…。

これこのまま続けちゃうと本当に「ハンナ・モンタナ」になっちゃうので、出演者の世代交代は避けられなかったかもなぁ~。(この次の第4作は日本では公開されてないみたい)

※風見鶏が「キョエちゃん」に似てるなぁ? (「チコちゃんに叱られる」の。)

オンネリとアンネリとひみつのさくせん(字幕版)

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サーラ・カンテル監督「オンネリとアンネリのふゆ」2922本目

サンタの国フィンランドだもんなぁ、クリスマスの飾りが実る草も育ててたし、やっぱり冬は避けられません。(私がわずか2泊でヘルシンキに行ったのは年末年始で、あまりの日の短かさに失敗したと思ったけど、この映画で若干救われたような)

オンネリとアンネリはちょっと大きくなって「ちっちゃい子」から「子ども」になった感じ。(7歳から14歳になったそうです)今度は小さい人たちが出てきて、彼女たちのドールハウスに滞在します。(サイズ合って良かったな!)小さい車や食器、メジャーやらバスケットやらが、すごくよくできてて楽しい。

「おうち」に輪をかけて可愛くてハッピーな作品でした。次のクリスマスにはもう一度この映画を見ながらケーキでも食べようかしら…。

(なんでタイトルを「オンネリとアンネリのクリスマス」にしなかったんだろう?)原作者NGとかかな…)

オンネリとアンネリのふゆ(字幕版)

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