映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

サーラ・カンテル監督「オンネリとアンネリのおうち」2921本目

あまりに可愛いのでいつか見ようと思ってた作品がU-Nextにあったので、見てみます。まだ無料期間。(ちょっと申し訳なくなってきた)

私は中年とはいえ小さい女の子だった経験があるので、彼女たちの世界は時間だけさかのぼれば思い出せるけど、(当たり前だけど)映画鑑賞の大先輩の男性の方々がたくさん評価されているのが、ちょっと愉快…みなさんどんな可愛い表情でこの映画を楽しんだのかしら。

これは「お菓子の家」とか「リカちゃんハウス」と同じ、女の子の夢の世界(その後成長して「アメリ」「シェルブールの雨傘」になることもあれば、「ひなぎく」「ブリングリング」と悪の道を進むこともあり)なので、リアリティ皆無でOK。仲良しどうしでお揃いの服を着て、食べたいときにお菓子を食べて、となりに魔法使いが住んでいて…。(オンネリとアンネリが「鬼滅の刃」の「白髪」と「黒髪」に見える)

途中から味が変わる、不思議な鶏の卵を使ったケーキ、食べてみたい…ピンク色のハーブティを花模様にカップに入れて、この子たちの仲間みたいな気持ちでティーパーティしたいわ…。(時間もカロリーも忘れて)

 

野村芳太郎監督「影の車」2920本目

1970年の作品。千葉の住宅地といっても、電車の沿線の土地はまだまばらにしか開発されてなかった時代。

真っ赤なゴシック体で行頭記号までつけて表示されるクレジットが異様…。

美しい笑顔の加藤剛は平凡なサラリーマン。事件に巻き込まれそうな予感…そういえば、「砂の器」も野村芳太郎監督か。彼に絡む昔の知人に岩下志麻。

来客が絶えないやり手の彼の妻、小川真由美が奥さん連中とおしゃべりする話題がシャロン・テート事件。1969年に起こった事件なんだよな…。 

男は未亡人との関係をすっかり深めていって、日常的に彼女の家に通ったり、外で手をつないで歩いたりしています。隣のバス停に自分の家があるのに…。この頃の不倫(という言葉はまだない、浮気というよりこれはもう「二号さん」だ)って、ずいぶんスリルの感じられない、楽観的なものだったんだなー。この危機感のなさ、落とし穴に落ちそうで心配…。渓谷に出かけても、幼い子どもをほったらかしにしていいムードになる二人。ちゃんと見ててやれよ~~

…結論として、加藤剛はアラン・ドロン並みの端正な二枚目なんだけど、清潔すぎて脂汗をかかないので、殺すの殺されるのという場面に似合わなさすぎるんだよな‥‥。でも昭和っぽさたっぷりで面白かった。

影の車

影の車

  • 発売日: 2017/07/28
  • メディア: Prime Video
 

 

ウディ・アレン監督「ローマでアモーレ」2919本目

2012年の作品。監督本人が本人のアルター・エゴとして出ているので、誰も憑依されていません(笑)

「それでも恋するバルセロナ」では天然な芸術家を演じたペネロペ・クルスは、今回はコールガール。最近カミングアウトしたエレン・ペイジは女性とのお付き合いの素晴らしさを語っています。彼女の隣の金髪女性、グレタ・ガーウィグに似てるなと思ったら本人でした。「ソーシャル・ネットワーク」の印象が強いジェシー・アイゼンバーグ、大物感の強いアレック・ボールドウィンは父親でもないのに彼のお目付け役みたいな役どころ、そして”イタリア一有名な一般人”にロベルト・ベニーニ。ステージでシャワーに入ったまま歌わされるオペラ歌手、ファビオ・アルミリアート(笑)。

もう登場人物が多すぎて頭が混乱して大変…

映画俳優に出会った女性が口説かれて…っていう成り行きは最近「レイニーデイ・イン・ニューヨーク」で見たっけ。シャワー中だけ美声になる娘の婚約者のパパを、その状態のまま舞台に立たせるウディ・アレン舞台監督…外国でたまたま見たオペラで、古典を「なぜそうなる?」というような現代的な設定に置き換えてる斬新すぎる演出にびっくりしたけど、そういうのを皮肉ってるのかな。皮肉といえば、一般人ロベルト・ベニーニがある日とつぜん「有名人」とみなされて下にも置かない扱いをされるようになるのも、実にひねくれてます。

まー忙しい映画だったなぁ、でもコント集って感じですごく笑った。

ローマでアモーレ(字幕版)

ローマでアモーレ(字幕版)

  • 発売日: 2014/10/24
  • メディア: Prime Video
 

 

オーレ・ボールネダル 監督「ポゼッション」2918本目

ハビエル・バルデムかと思ったらジェフリー・ディーン・モーガン。

この映画、なんかあんまり怖くないですね。サム・ライミのプロデュースなのに。どこか清潔感と、きちんとした感じがある。本質的な”怖さ”って、本来こうだろうと期待しているものの状態が「崩れて」るとか「乱れて」いて、常識では元に戻しようがなく、それが「周囲を侵食していく」感じがある。この映画の悪魔は「女の子の中」と「彼女が嫌っている人」と行動範囲が決まっているので、それ以外の人たちは安心していられるんだよな。

悪魔につかれたエミリーを演じたナターシャ・ハリスちゃん、よくがんばりました!

ポゼッション(字幕版)

ポゼッション(字幕版)

  • メディア: Prime Video
 

 

エチエンヌ・デロジェ監督「鏡」2917本目(KINENOTE未掲載)

タルコフスキーじゃないよ、グザヴィエ・ドランが13歳のときに出演した短編映画。お試し中のU-Nextで見ました。

「マイ・マザー」の頃の彼と比べて明らかに身体が小さいんだけど、表情とか雰囲気は意外と変わらない。もっと中性的かと思ったらすでに男の子だけど、その一方で顔立ちの幼さ、少女みたいな可愛らしさは19歳のときと同じ。なんとなく、彼の精神的な部分はすでにずいぶん成長してたんじゃないかな、と思うような、大人のような表情を見せるんですよね。

彼が、エルヴェという名の、近くに住む少し年上の美少年にときめきを感じる場面があります。まるで「マティアス&マキシム」や、ペドロ・アルモドバル「ペイン・アンド・グローリー」みたいな、大人への目覚め。

わずか10数分の小品だけど、彼のその後の作品の陰と陽のうち「陽」だけ切り取ったような作品でした。

TVアニメ「鬼滅の刃」2916本目

シリーズ1は13本かと思ってたら26本あった。ゼェゼェ

3日間で一気に見ましたが、面白かった。何が面白いかというと、

  1. 主人公の炭次郎がオバマとかネルソン・マンデラのような、親しみやすさがあるのに人格高潔で家族や友人、敵にまでも愛情が強いところ
  2. 刀が武器であり、日本の昔ながらの”もののけ”のような”鬼”がたくさん出てくるクラシックなところ(「リトル・チャロ東北編」を思い出した)
  3. キャラクターが可愛い(ねずこを始めとする女子たちも、伊之助や鬼舞辻といった男子キャラも)
  4. 最初から大勢出てくるんじゃなくて、話の進行につれて、より強いキャラクターが少しずつ出てくるのがわかりやすい
  5. 敵と味方の中間であり、どちらでもあるかのような「鬼になりきれない存在」が常駐してるのが新しい
  6. そうは言っても殺戮シーンはなかなか残虐で悲惨なので、そんな殺戮をはたらく鬼を殺してしまえ!という、味方側の残虐さに肩入れしやすい
  7. あと、女子キャラの割合が多い(全体の半分とまでは言わないけど1/4~1/3くらいはいる)
  8. 敵キャラは血も涙もなくて、「敵と味方の距離感が近づいてきつつあった時代」はもう遠い気がする

とかですかね。

最後の「7」なのですが、作者はどうやら女性らしいし、レコード大賞をとったテーマ曲の歌唱と作詞を手掛けたLiSA、作曲の草野華余子、音楽全般を担当している梶浦由記は全員女性だ。(といってもほかにも膨大なスタッフがいるのにここだけ注目するのは片手落ちかもな)

「6」の残虐性も、エヴァンゲリオンを経た今(昔から紙のマンガはかなり血みどろだったけど)少年少女向けのアニメの残虐さはもう留まるところを知らないよなぁ。現実の事件映像はあいかわらずボカシがかかっているけど、実写ドラマを越えてアニメはエスカレートを続ける。その効果は、残虐な殺傷事件を引き起こすというより、上にも書いたように、自分が傷ついたときにリマインドされて、「被害感情が怒り~強い反撃感情に連なるという一連の流れが起こる」「その流れが帰結するところの反撃の正当化」じゃないかと個人的には感じるんですよ。残虐な殺傷事件につながるとは正直思ってないけど、正当化を伴うカジュアルないじめとなって周囲にまき散らされることがないといいな、と、なんとなく思います。被害者感情ばかり強い大人が、気安く知らない人や組織を強い言葉で攻撃するのをたくさん見てきたから。。。これは「8」ともリンクしてる。

しかし、続き、見たくなるね。シリーズ2は今年やるらしいけど、時期はまだ決まってないようだ。映画はまだ上映されててDVDは6月とのこと。レンタルを待つうちに筋もキャラクターも忘れそう…。

 

 

ジャスティン・クルック監督「スティーヴ・アオキ I'll sleep when I'm dead」2915本目(KINENOTE未掲載)

面白かった。

真ん中分けの長~い髪と髭のある東洋人顔で筋肉質、ド派手なスウェットのエレクトロ・ハウス・DJ。あまりに風体が異様すぎて気になってました。DJのはずだけどステージでケーキを投げまわしてるだけで音楽を何かやってるようには見えない?パフォーマーなのか?

青木という聞き覚えのある苗字。デヴォン・青木の異母兄弟、つまり、アメリカのあちこちにあるパフォーマンス鉄板レストラン「ベニハナ」のロッキー・青木の息子だ。

(シアトルのベニハナに日本人3人で行ったとき、途中から私たちが日本語で話し始めたらパフォーミング・シェフがダンシング・クッキングをやめて普通に焼き始めたのがおかしかった「…日本の方ですか?(静かに焼きながら」)

このドキュメンタリーの何割かはその父、偉大なる冒険精神であらゆる危険なスポーツに挑戦しつづけたロッキー青木を扱っています。だって面白いもん。

そしてこの異様な風体の息子は、派手で濃くて謎だけど、なかなか真面目で純粋な男のようです。いわゆる育ちの良さ、無邪気さ、純真さがあります。話してる雰囲気は拍子抜けするくらい「素」。父を尊敬すると億面もなく言い続け、亡くなると何もできなくなるくらい大泣きする。元々ハードコアメタルのボーカリストがスタートだったんだな。19歳でレーベルを作って、今も「DJキュレーター」、「レーベルオーナー」と自分のことを考えてる。レコードを操作する技能じゃなくて彼のパッションにその場にいる人もいない人も影響されてしまうんだな。面白いなぁ。

で、イビザ島にプライベートジェットで通うんだ。そこに自分のクラブを建てて夜な夜な盛り上げる。

私はもしかしたら仲良くならないタイプかもしれない(圧に押されて)けど、彼のことが好きな人は好きだな。彼を含む無邪気でエネルギッシュでやけに素直な人たちに、もっともっと力いっぱい遊んでいてほしい。