映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

ウェス・アンダーソン監督「ファンタスティック Mr.Fox」3296本目

ウェス・アンダーソン監督の新作を見る心構えとして、KINENOTE登録作品のうちこれだけまだ見てなかったので見てみます。こういうの、見つけてすぐ家で見られるようになってVODはありがたい。

「犬が島」の前にこれを見ておけば衝撃?は少なかったかな。いややっぱり不思議だけど。なんでジョージ・クルーニーがキツネのお父さんなのか…いいけど。

感想は、まあまあ面白かった。ロアルドダールらしいお話。で、映画版では冒険部分をだいぶ膨らませてるけど、映画らしくなったなという感じで、全体的にはまあまあな感じです(生意気な!)。「犬が島」が強烈で、あの世界観に先にやられてしまったので、どうしても地味に普通に思えてしまう。

新作は犬が島「後」ですからね。監督の変化を楽しみにしてます。

 

ウェス・アンダーソン監督「アンソニーのハッピー・モーテル」3295本目

アンダーソン監督の新作が見たいなと思って、過去作品リストを見てたら、未見の2作ともU-NEXTに入ってたので見てみます。

オーエン・ウィルソンは「ミッドナイト・イン・パリ」の人か。弟ルークはその悪い相棒。似てるよ顔が!ひょうひょうとしたオーエン、”街の乱暴者”っぽいルーク(髪型は軍隊ふう)が可笑しい。もう一人の相棒ボブが途中で”兄がつかまって大変”といって逃走したその兄を演じてるのが、アンソニー・ウィルソン、ということで3兄弟共演なのね。

楽しい、という意味では面白かったけど、まだ「犬が島」的なウェス・アンダーソン節ともいえる「作り物っぽさ」が弱いので、ただ微妙なだけのどっちつかずの作品にも見える…。この作品を激賞したというマーティン・スコセッシほどの慧眼は私には備わってなかった。

なんとかソンという名前の人は全員、祖先が北欧のはずで、この監督の世界にはカウリスマキ監督らに通じる作り物めいた人間像があるようにも思えるけど、実際には何代も前にアメリカに来ていて彼はテキサスの人なので、きっとこれは深読みすぎるんだろう…。

 

アニエス・ヴァルダ監督「アニエスによるヴァルダ」3294本目

これは彼女が夫のために「ジャック・ドゥミの少年期」を作って送り出したように、今度は自分を語る作品を作ったものですね。「5時から7時までのクレオ」など、見ておいてよかった。やっとこの作品を見る用意ができました。

「少年期」があまりにも愛にあふれた作品で、彼女のことを一気に好きになってしまったので、この作品も彼女を信頼して見始めます。が、とても実験的な作品作りに挑戦しつづける人なので、観客動員が低調だった作品もけっこうありそうで、見てみたいかどうかというと微妙なものもあります。

逆に?、写真家だった頃の写真は、どれもひきつけられます。やっぱ才能あるわ!…「顔たち、ところどころ」なんかは写真家のときの作品と通じるところを感じてしまいます。なんか、芸術家なんだよね。あの映画の、一般の人たちの巨大なポートレートも素敵だし、浜辺のインスタレーションもすごく好き。(大画面で壁に静止画を映して、床には打ち付ける波、手前に砂を敷いたやつ)

彼女は夫にドキュメンタリーを作ってあげられたけど、自分のドキュメンタリーも自分で作った。夫の病気のことは病名までは触れてなかった(あるいは字幕には出なかった)と思うけど、そこは一番大事なところじゃないもんね。

周りの人を愛し、人の思いをやさしく印象的な方法で表現しつづけた彼女を尊敬してしまうし、そういう人でありたいなと思うのでした。リスペクト。

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土井裕泰 監督「花束みたいな恋をした」3293本目

タイトルにドン引きしてたんだけど、友達に激しく勧められて、やっと見た。思ってたのと全然違う、めちゃくちゃ”こじらせた”、めんどくさい(私みたいな)男女の恋のおはなしだった。ここまで似たものどうしでも、うまくいかなくなるのだ。この映画では、まだ二人は別れたばかりで、それぞれ新しい彼氏彼女はいるけど、まだ一人暮らしをしてる。なんでもっと年を経た設定にしなかったのかな。その方が若い人にも若くない人にも、自分のこととしてとらえやすいから?

頭のどこかに(まだ若いんだから再会からまた愛をはぐくんで、めでたしめでたしになってほしい)と思ってる一般的視聴者の自分と、人生は映画じゃねえんだよと毒づく”いっぱしの映画評論家かなにか気取りの自分”がいる。もっというと”人生は別れの連続。添い遂げたとしてもいつかはすべての者たちと別れがくるのよ”などと達観した振りをしたがる偉そうな自分もいる。

ものすごく普遍的なお話なので、見た人の8割以上、自分のことだと思ったろう。でも、こんなに傷つけずにきれいに別れられるケースは少なそう…恋愛は感情だから、壊れるときも感情本位になりがち。と思う。

読んだばかりの遠藤マキ(つげ義春の妻)が書いた家族日記を思い出した。理由は彼らも多摩川の近くに住んでいて、なんとかやりくりしながら、なるべく好きなことをして暮らしてたから。彼らは生き別れはせずに死別してしまったわけで、そのほうが幸せだとか美談だとか簡単に言えないだろうけど。

キラッキラの出会いから切ない別れまでを描いた作品は、「めでたしめでたし」の作品よりは今もずっと少ないと思う。

切なくなるとお腹がすくので、とにかく今は「さわやか」ハンバーグ食べに静岡行きたいです。

 

園子温監督「エッシャー通りの赤いポスト」3292本目

これまで、私が見た園監督の最も新しい作品はAmazonオリジナルの2017年「東京ヴァンパイアホテル」だった。あれはひどい(いい意味で、きわめて園子温的)、やりたい放題の作品だったので、園監督を「エッシャー通り」を作らずにいられなくしたのは、直近のニコラス・ケイジ主演のハリウッド作品かなぁ。お金やプロデューサーの意向が監督の指示を圧倒するのって日本よりハリウッドっぽい気がする。

園子温作品に関しては、ファンと言っていいくらい好んで映画館でずっと見てる私なので、(「心中クラブ」には共感しないけど)自分が求めるものがある程度固まってしまってるかもしれない、とはいえ。

エキストラは2回やってみた経験がいちおうあって、ひたすら言われた通りに歩くだけだったり、何度となくエキストラをこなしてきた自慢をするおじさんがいたり、楽器を持った若い女の子が混じってたりする感じが”あるある”で面白かったけど…あえて言いたい。私たち映画館の客は、「人生のエキストラ」ですらなくて「人生の"観客"でいいのか!?」という問いを突き付けられているということを。(←なにを熱くなってる)

監督から見ればエキストラって、しばしば無償で言いなりになるAD以下の存在で、人として扱ってない、興味を持っていない、というひけめがあるのかもしれないけど、私みたいに現場が見たいだけで女優願望も輝きたい願望もない物見遊山もいるので「すみません、かえって気を使わせちゃって」という気持ちにもなります。だってエキストラ以外にも裏方とかスタントとか、いろんな人がいるし…。

いやむしろ私は「別段ぱっとしない普通の通りがかりの中年のおばさん」を見事に演じきった(※普通にしてただけ、ともいう)のが4秒くらい映ってて、そのダサさに我ながら満足したので、性格俳優や切られ役、老婆、化け猫などをもっぱら演じる役者みたいに立派にエキストラだったと誇りを感じてるんだがなぁ。。。

ということで、面白かったけど妙に油の抜けたさわやかな作品で物足りなくもあったのでした。

<追記>
出演してる女の子たちみんな、ピッカピカに肌がキレイでしたね。園子温ワークショップに参加するくらいで、思い切りのいい発声してました。ただ、レズビアンズって啖呵を切った子たちが男で争ってるのって「え?」だったよね。これが「ゲイメンズ」で女を争ってたら、もっとクレームつきそう。レズビアンって言葉は、今いちばん消費されてる言葉のような気がしてなんとなくちょっとイヤでした。

田中悠輝監督「インディペンデント リビング」3291本目

重度というのは、一人で生活するための介護が必要な度合いのことを示すのかな。首から下が動かない人とか。勉強したことがないのでそこをいい加減に推測するのはやめておきます。NHKの「バリバラ」で見たことのある人が何人か登場してる。重度の障害をもつ人たちが、自分で自分の行動、生き方を決めて生活できるようにするサポートをする団体が中心にあって、サポートする人たち、される人たちが迷ったり試行錯誤しながら前へ進もうとしているドキュメンタリーでした。とても引き込まれた。面白かった。知らないことがたくさんあった。

自分で自分のことを決めることに慣れてないんだな。高齢者向けのデイケアとかも、トランプとか歌とかみんな本当にやりたいことなんだろうか?やりたいことは一人ひとり違う。ただ集まって、話したいことを片隅で隣の人に話すほうが気が晴れるんじゃないのかな、と思ったりする。そういうのに慣れてしまうと、自分で物事を決めるのが難しくなっていく。

世の中には、自分のことを誰かに決めてほしい人もいないわけじゃないと思うけど、やりたいことがある人なら、どんな障害があろうとも乗り越えようとすることを応援する。

心底そう思ってても、実際に身近にサポートする人がいなかったので、私は多分とても無神経でかえってめんどくさいサポーターでしかないと思う。いつか私に車いすを押される方、へたくそだけどどうぞ長い目で見てやってください…。

Watch インディペンデント リビング 【無期限でインターネット配信を延長中!】 Online | Vimeo On Demand on Vimeo

アッバス・キアロスタミ監督「風の吹くまま」3290本目

「桜桃の味」の2年後に作られた作品。

つづら折りの道をたどって登っていく車…墓穴を掘る人…といった既視感。でもこの作品は主役の監督が役者っぽいのと、砂の風景だけでなく青いベランダ、白い壁といったギリシャ?トルコ?にも似たカラフルさが印象に残ることとかで、わりとコマーシャルな作品っていう印象です。

命の危機をいったん脱した老婆の死を待つのは、悪い人だからじゃない。事故で誰かが埋まったら助けを呼びに行く。生きることの中に死がある。

…でも実は後期の作品、トスカーナとか東京とかも割と好きなんですよ、私。イランの砂地やその死生観を離れて、ひたすらミスコミュニケーションを起こし続ける都会の人々を描いた作品も面白くて、最終的に監督はどこへたどり着くんだろう?と思ったりしたので、もっと撮り続けてくれたらほんとによかったなぁと改めて思います。

風が吹くまま(字幕版)

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