映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

新藤兼人監督「人間」16

1962年公開作品。4人が乗った船が台風で流されます。備蓄食料が尽きてくると争いが起こり、やがてさらに恐ろしいことが…。

感想:「……。」
どんどん重くなっていきます。ここまでいくと商業的には厳しくなっていくんじゃないか、どこまでいっちゃうんだろう新藤監督、と心配になってきます。(その後も活発に作品を作り続けて今もお元気なのは明らかですが)

途中までは、先日見た「マタンゴ」に似ていますが、乗組員が遊興目的ではなく商売のために乗り込んでいるところが違います。キノコが出てこなくて、どんどん飢えていくところが違います。結末も全然違います。でも、極限状態で人間が自分自身の内面のドロドロと闘うことを描こうとしたところは同じ。

監督はほんとうに強い人なんだなぁと思います。こつこつと積み重ねることを続けてやっていける人、やってきた人。やってはいけないことをやる人を目の当たりにしてきて、人はそうなってはならないと深く感じたんだろうなと思います。殿山泰司演じる船長が監督に重なって見えます。金毘羅さんの素朴な信仰も、宗教というよりは「おかあさーん!」とか「Oh my god!」と同じで、自分をつなぎとめておくためのおまじないのようなもの。揺らぎながらも道を踏み外さないことが強さなのだと、訴えかけてくるようです。

自分はどうだろう?人の道、みたいなものに関しては頑固な方だと思ってたけど、自分って大したことないなぁと思うことがだんだん多くなってきています。作品を通じて人を揺さぶることができるのは、それだけの強さがあるからなんだろうなぁ。画家や書家を見てそう感じることはよくあるけど、映画はもっと、それ自体が会社みたいな集合体だと思ってました。でもそうではないのかもしれない。とこの作品を見て思いました。