映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

ルイス・ブニュエル監督「皆殺しの天使」2842本目

ルイス・ブニュエル監督の大問題作品、どこに行ってもレンタルしてない作品、ということで私にしては珍しく購入しました。タイトルが怖いし、同様に買って見た「ビリディアナ」はシリアスな作品だったのでビクビクしてましたが、これは…ギャグだな。「ブルジョワジーの秘かな愉しみ」まで行くともうコメディだとわかるけど、この作品にもその源流があります。

だいいち、誘われて気軽に訪れた邸宅から帰れないってどういうことだ。「ホテル・カリフォルニア」の歌詞か。飲み屋の閉店までいて追い出される酔っぱらいオヤジか。

(だいたいこの「パーティ」というのは一体なんなんだろう、どこが楽しいのか何のためにやるのか、よくわからん)

…それにしても終わらない。続く続く。この映画いま作ったら、「外に出られない理屈」(隕石とか悪魔とか法則とか)を構築するだけでだいぶエネルギーを使いそうだけど、この時代のブニュエルは、「理屈はいいからとにかく出られないし入ってこられないのだ」でぶっ通してしまうところが面白い、無茶苦茶だ。だから、映画を見慣れた人ほど納得いかなくて、珍品とか駄作とか言いたくなってしまうかも。

この映画が論理を無視した不条理劇となった理由は、ひとつには、昔は政権批判とかしたくても秘密警察が見張っていてあからさまにできなかったという事情があったかも。もうひとつは、ありきたりの納得感がなんぼのものだ?理屈なんて、なくていいんじゃないの?という批判精神か。

私は、着飾ったいい大人たちがバカみたいに右往左往するさまが可笑しかったので、理屈は通らなくてもOKでした。ペドロ・アルモドバル監督の初期のドタバタ不条理映画や、フランスの登場人物みんな不倫しあってて大人のくだらなさを描いた映画なんかにも続く、ヨーロッパの皮肉っぽさ、批判精神が極端に強く出た珍品でした(←やっぱり言ってるじゃん)

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