映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

ジャック・ベッケル監督「モンパルナスの灯」2460本目

これを借りた理由は多分、宝塚の「赤と黒」を見たからだ。以前見たジェラール・フィリップ主演の「赤と黒」は宝塚にはあるまじき悪党の物語なのに、それを忠実になぞりつつ清く美しい宝塚流にちゃんと完成していた先日の公演はなかなか素晴らしくて、改めてジェラール版を見直そうと思ったのに、TSUTAYAでレンタルできなかったので未見のこれを借りたという(まるで風が吹いて桶屋が儲かったのでレンタルした、くらい遠かったな)。

そして相手役は、この間「男と女 人生最良の日々」で見たアヌーク・エーメ。彼女の若いころの姿もまた見たくて。美しく、かわいらしく、かつ高潔で凛々しい、女性から憧れられるクール・ビューティですよね。この頃はなんとなくまだちょっと初々しくてぽーっとしてて、「男と女」みたいな完成をみる前、という風です。前の彼女として出てくるリリー・パーマーもかなり完璧でキュートな美女。そして、ジェラール・フィリップは完璧な女殺しだなぁ…。知的でちょっぴり甘えたような表情をする美貌、常に自分が主人公であることを知って演じているかのようなカメラ映り。自分に対してその拗ねたような媚びるような表情を向けてほしい、と渇望した女性がいったい何百万人いたのか。

モディリアーニ本人の写真を見ると、なかなかハンサムでそりゃ女性にもてるでしょうって感じだけど、腺病質のジェラール・フィリップというよりオスカー・アイザックみたいながっしりした人です。

だけど結核が原因で早逝したのはモディリアーニの方。あっけなく召されて、実際にはジャンヌが彼のあとを追うという悲劇があったのですが、それには映画では触れられず、死後に値段が上がることを見込んだ画商が、何も知らないジャンヌの前で絵をかっさらっていく場面で終わります。

特異な才能をもった画家の夭折。もっとあの細長い女性の絵をたくさん描いてほしかった、老人になってから、老成した新しい境地を見せてほしかった。でも私たちは今あるもので足りるしかないんですよね…モディリアーニの絵も、ジェラール・フィリップの映画も。

モンパルナスの灯

モンパルナスの灯

  • メディア: Prime Video